第16話 捜索の嵐
王宮は、蜂の巣を突ついたような大騒ぎになっていた。
お披露目夜会での出来事は一瞬にして社交界全体へと広がった。
最高幹部たちの耳にまで達していた。
神話級の魔力量を持つ7歳の少女を確保するため、国家規模の特別捜索隊を編制して徹底的な捜索を開始した。
夜会で醜態を晒した伯爵家には、王宮から厳しい問責と監査のが入っていた。
「なぜこれほどの逸材を無魔力と偽り、虐げていたのか」
連日激しい取調べを受け、顔を蒼白にして震えることしかできない。
手放したもののあまりの巨大さに、夜も眠れぬ絶望と恐怖に苛まれていた。
王宮の血眼の捜索を余所に、私は王都の落ち着いた職人街で平穏な朝を迎えていた。
「エル、かわら版を見たか。王宮が国家規模で少女を探してるそうだぞ」
朝一番で隠れ家兼工房を訪れたレオンが、笑みを浮かべながら新聞を差し出してきた。
紙面には夜会の騒動と天才少女に関する大々的な記事が書いてあった。
「知っているわ。外が少し賑やかだとは思っていたけど」
私は焼き立てのパンにジャムを塗りながら、人ごとのようにうなずく。
王宮がどれほど総力を挙げようと、気配遮断と認識阻害を突破できるはずがない。
この隠れ家は古びた空き家に見えるよう、完璧に偽装されているからだ。
私は紅茶のカップを静かにテーブルに置くと、真っ直ぐにレオンの目を見つめた。
「あなたの肩書について教えてくれないかしら。行商人が、王宮直轄の高級住宅街にある物件を数時間で手配して捜索隊の動きを正確に把握できるはずがないわ」
「参ったな」
肩をすくめて苦笑した。
「いつから気づいてた」
「最初から。情報の精度が、ただの商人にしては熟練しすぎていたもの」
ため息をひとつ吐くと、髪をぐっとかき上げ、仕草と雰囲気をガラリと変えた。
溢れ出る気品と隙のない佇まい、裏社会と王宮の双方に通じる一流の存在の証だった。
「驚かせちまって悪かったな。王都最大の情報ギルド黒猫の目の筆頭頭領であり、王立商業ギルドの影の理事レオンハルト・ベルシュタットだ。商人としての名前は偽名じゃねえがな」
真剣な眼差しで私に向き直った。
「最初は面白い魔導具を作る程度の認識だった。だが、あの夜会での件とあんたの底知れない才能を見て確信した、力で囲い込んでいい存在じゃない。俺は情報ギルドの全網と商業ギルドの権力を使って王宮の籠の鳥にさせないための盾になる」
「私を匿うリスクは大きいのよ」
「夢を見せてもらってるからな。エルの相棒として、世界の市場を裏からひっくり返す」
レオンの誠実な笑みを見て私は口元を静かに綻ばせた。
頼もしい相棒の力を得て、私たちのブランド「エル」は、進化を遂げる。




