第15話 自由の足音
夜会の喧騒が遠ざかる王都の裏通り。
爽やかな夜風が、私の頬を優しく撫でる。
胸の奥から湧き上がってくるのは、どこまでも透明で心地よい解放感だった。
私は気配遮断を維持したまま、裏路地を滑るように進んだ。
王都の地理は前世の知識と事前に入手していた地図で頭に入っている。
向かう先は事前に行商人と示し合わせていた裏通りの小さな広場だ。
影の中に佇む馬車の脇で、行ったり来たりしている男の姿が見えた。
「本当に来るのか。会場から飛び出してきた客たちが大騒ぎしてたぞ」
男が青ざめた顔で独り言を呟いた瞬間、私は彼の背後から静かに声をかけた。
「お待たせしました。試作品を持ってきましたよ」
跳び上がって驚く行商人に、微笑んで見せた。
フードを少しだけ浅くかぶり直し、地下基地から持ち出してきた魔導小物を差し出す。
男は手渡された品と私の顔を交互に見比べ、息を呑んだ。
「夜会で王都中を震撼させた、神話級の少女なのか」
「どうでしょうね。ただの魔導技師ですよ。約束の取引を続けましょう」
男はゴクリと唾を飲み込み、少女が持つ圧倒的な存在感と手腕に、改めて武者震いした。
「分かった。 あんたが本気なら全力で乗るぜ。金貨の精算と、拠点の手配、俺に任せてくれ」
男の名はレオン。
手際のよい手配のおかげで、その夜のうちに高級住宅街にある、小さな庭付きの家へ案内された。
賃貸料を、バッグから取り出した金貨支払う。
レオンは目を丸くしながらも深々と頭を下げた。
「明日からは、魔導具を王都最高のブランドとして売り出してみせるよ。名前はどうする」
私は窓の外、花を見つめながら静かに答えた。
「エル。そう名乗るわ」
レオンが去り、静まり返った室内。
ふかふかのベッドに腰を下ろし、エメラルドグリーンの柔らかな光を浮かべる。
明日になれば、天才少女と崩壊した伯爵家の話題で持ちきりになるだろう。
セレスティア様や父親は、手放してしまったものの大きさに絶望し、必死で私を探そうとするかもしれない。
血眼になって探そうとも、溢れる資金と知恵を持つ私に追いつくことなど絶対にできない。
「追いつけるものなら、追いついてきなさい」
光を消すと、私は深々とした眠りについた。
虐げられていた過去は、もう完全に終わったのだ。




