第八話
第八話
「そんじゃ改めて、今日から軽音部発動って事なんだけど‥‥」
部活として承認され、初めて放課後に皆で集まった。
「樹がベース、岳がドラム、蒼真がギターで、歌が俺。そんで‥‥作詞作曲が優紀だね!」
今日は、それぞれ何がどこまでできるか知りたいと優紀が言い出した。
「それぞれのレベルを知っておかないと、曲の難易度とかもあるんで」
先ずは樹。お兄さんからベースを借りて来たらしい。若干たどたどしいけど、数週間前までベースを触った事もないとは思えないほどの上達っぷりだった。
「樹、凄いね!」
「いや、全然‥‥絃の張替とか、まだ苦戦する。コードも覚えきれてない」
「樹は自分に厳しいなぁ」
次は岳。岳が座ると、ドラムが小さく見える。小さい頃からお父さんの影響でやっていただけあって、安定感がある。
皆からも驚きの声があがる。
「いいですね‥‥」
演奏を聞きながら、優紀がメモを取っていく。
チラ見してみると、ページ一面にびっしりメモが書かれていた。
「次は俺だな」
蒼真が立ち上がり、ギターを肩にかけた。演奏が始まると、俺の想像とは違い、意外と優しい音が響く。
「ふむふむ‥‥」
物凄い速さで、優紀のノートが埋まっていく。
「そんじゃ、次は俺ね!」
「あ、ちょっと待ってください」
「どしたの?」
優紀が自分の鞄を漁り、スマホを取り出す。
「録音させてください。音域を知りたいので」
優紀は、時々敬語が出る。同じ年なんだし、気軽に話そうよって言ったら、癖になっているらしく、敬語の方が楽らしい。
「何がいいかなぁ‥‥」
「じゃあ、これを歌ってください」
優紀のパソコンから、少し前に流行った曲が流れてくる。
「うん、その曲なら知ってるよ!」
少しアップテンポで、晴れの日に散歩しているみたいな曲だ。
自然と体が揺れ、歌い始めると楽しくて、思わず顔が緩む。
「マジかよ‥‥」
蒼真のつぶやきが聞こえた気がした。
歌い終わると、全員が呆然と俺を見ている。
「え? あれ? どうしたの? 俺の歌、変だった?」
優紀がハッとしたように我に返り、慌ててパソコンを操作する。
「やっぱり、結の歌はいいな」
「昇降口ん時は少し聞いただけだったけど、やっぱスゲェな‥‥」
「これ、やる」
樹の尻尾が揺れ、蒼真は驚いているし、岳は何故か飴をくれた。
「え? あ、うん、ありがと! これって、岳の家の蜂蜜?」
岳がくれた飴は、蜂蜜を固めた飴だった。
「そうだ」
「おお! 美味しそう!」
琥珀色のキラキラした飴は、光にかざすと宝石みたいに綺麗だった。
「音程もピッチも完璧‥‥この歌はかなり難易度が高く低音から高音までの幅が広すぎてこの人にしか歌えないんじゃないかと言われていたのにこんな息一つ乱れず軽々と歌いのけるなんてどんな声量してんだ」
早口過ぎてちゃんと聞き取れないけど、優紀が画面に齧りつくように見ながらブツブツと呟いている。そして、手は物凄いスピードでノートに文字を書いていっている。
「ふ、ふふふ‥‥」
優紀が肩を震わせ始めたので、心配で思わず顔を覗きこむ。
「大丈夫?」
「うわぁっ⁉ は、はい! すみません!」
「謝らなくてもいいのに」
「僕、夢中になるとつい周りが見えなくなるみたいで‥‥」
「あはは、そんなに俺の歌気にいってくれたんだ?」
「気に入るなんて、そんなレベルじゃないですよ! 声の質感、音量、どれもこれも素敵です! 課金レベルですよ!」
「か、かきん?」
樹と岳は俺と同じように首を傾げ、蒼真だけが頷いていた。
「分かる、思わずスパチャしたくなるわ」
「そうなんですよ!」
「え、え~っと‥‥」
蒼真と優紀がもり上がっているのは嬉しいけど、何を言っているのか俺にはさっぱり分からん。さっぱり分からないけど、二人が仲良くなったみたいで良かった。
こうやって、少しずつ形になっていったらいいな。
放課後は皆とワイワイ楽しくて、鼻歌まじりに自転車を漕いで家に向かう。
「ただいまぁ~」
玄関を開けると、小さな足音が聞こえてくる。
「ただいま、にゃあさん」
うがいと手洗いを済ませ、にゃあさんを抱き上げる。頬にスリスリと顔を擦りつけてくる、黒猫のにゃあさんだ。
「ニャー」
「うん、僕も寂しかったよ。ごめんね、最近遅くなっちゃって」
「ニャ」
リビングに入ると、先ずはにゃあさんのトイレ掃除から。それからお水を新しいのに替える。
あまり生活感の無いリビングには、母さんのグランドピアノと父さんのバイオリンケースが置かれている。
二人は世界的に有名なオーケストラの一員で、一年の殆どを海外で過ごしている。
「おっと、着替えなきゃね」
以前、にゃあさんが制服で爪を研いでしまい、ボロボロに。それからは帰って来たら直ぐ着替えるようになった。
「今日は、バンドの皆で集まったんだよ。やっぱり、楽器できるってすごいなぁ‥‥」
音楽家の両親。でも、俺にはそのDNAは受け継がれなかったらしい。
それでも両親は、僕に音楽を強要する事はなかった。
「せんたっき~」
制服のシャツを洗濯機に放り込み、他の洗濯物も入れる。
家事は、一通り祖母ちゃんに叩き込まれた。
「ニャ~」
「はいはい、おやつかなぁ? あ、ちょ、背中に爪立てるのは勘弁してぇ」
皆で楽しく音楽できるといいなぁ。




