第七話
第七話
「さて、どうしようか」
放課後、モヤモヤしたまま、軽音部の部室に座っていた。
集まったのは、樹と岳と俺。
「もう一回、昇降口で歌うか‥‥」
「また先生に怒られるぞ?」
「だよねぇ」
「それに、どんな音楽にするか決まってないのは事実」
岳の言葉に、頭を抱える。
俺は正直、歌えればいい。バンドの話も、樹がベースに興味ありそうだったから、勢いで言ったのもある。
歌うのって、こんなに難しかったっけ?
「あの!」
「うわぁ⁉」
突然扉が開き、思わず声を上げる。
「あれ‥‥神楽くん! 軽音部の見学に来てくれたの?」
そこにいたのは、神楽くんだった。樹と岳がキョトンとしているので、説明した。
「休み時間に会ったんだ! それで、音楽好きそうだったから、見学に来てみないか誘ったの」
「そうか」
「楽器やるのか?」
「あ、そう言えば聞いてなかった」
「あ、あの! 僕、こう言うの作ってて!」
神楽くんがスマホを取り出し、画面に触れる。すると、思わず体を揺らしたくなるような、歌いたくなるような音楽が聞こえて来た。
「え、なにこれ⁉ 聞いた事ない曲!」
「作ったと言ったが‥‥もしかして、自分で曲を作ったのか?」
「は、はい!」
「凄いよ、神楽くん!」
「あ、あの、優紀でいいよ」
「ありがとう! 俺も結って呼んでよ!」
「気にいってもらえた?」
「うん、凄い! これ、歌詞とかあるの?」
俺がそう言うと、優紀がスマホを操作する。すると、人の声のような、機械のような歌声が聞こえて来る。
「綺麗な歌詞‥‥これ、もしかして優紀が歌ってるの?」
「ま、まさか! 違うよ! これは、ボカロ。機械で作った声だよ」
「へぇ~、すごいなぁ」
樹と岳も、耳がピクピクと動いている。樹の尻尾が揺れ、床と擦れる音が聞こえてくる。
「それで‥‥もしよかったらなんだけど‥‥この曲、使ってみてくれないかな?」
「いいの⁉」
「バンド用に調整もできるし、それぞれの楽器用に楽譜も」
「ありがとう! あ! ちょっと待ってて! 俺、矢立くん呼んで来る!」
俺は急いで三組に走る。すると、帰り支度をしていた矢立くんを見つけた。
「矢立くん!」
「うわぁ⁉ びっくりした‥‥な、何?」
「一緒に来て!」
「は? 俺、今から帰」
「音、見つけたから!」
「はぁ⁉ お、おい!」
矢立くんの手を掴み、部室に戻る。そして、優紀にもう一度曲を聞かせてもらった。
「ね? これ、めっちゃいいでしょ⁉」
「ああ‥‥いいな、これ」
「やったぁ! これで、バンドできるね!」
「その‥‥俺も言い方キツかったかも‥‥悪い」
矢立くんが照れ臭そうに頭を掻く。そんな姿を見て、樹も岳も彼を責めたりしなかった。もちろん、俺もね。
「これで、箱推しも‥‥」
「はこおし?」
「な、なんでも無いよ! バンド名はどうするの?」
「えっと‥‥軽音部?」
「ま、まあ、その辺は追々で‥‥」
「よし! これで全員の入部届け出せる! そんで、軽音部復活!」
鞄の中から、既に記入してある樹と岳、俺の分の入部届けを出す。そして、矢立と優紀にも空欄の入部届けを渡した。
「これで、全員分揃ったね」
「どこに出せばいいんだ?」
「ん~、職員室に持っていけば、何とかなるんじゃない?」
岳は家の手伝いがあると言うので、先に帰る事に。
連絡先を交換し、その日は解散する事になった。
「矢立はどうする?」
「悪い、俺も今日は‥‥ってか、何で俺だけ苗字なんだよ」
少し拗ねたような顔をした矢立‥改め、蒼真。思わず笑いそうになったけど、なんとか我慢した。
「じゃあ、また明日な、蒼真!」
「お、おう」
蒼真は少し驚いた顔をしたけど、嬉しそうに帰って行った。
樹と俺、そして優紀の三人で職員室に向かう。
職員室は、人と獣人科の間にある。
「そう言えば俺、職員室って行った事ないかも。知ってる先生がいるといいけど‥」
職員室の扉をノックして、開ける。
「失礼しまぁす」
「ん? 鈴也か、どうした?」
顔を上げ、こっちを見たのは俺の組の担任だった。
「先生、人数集まったから、同好会から部活になりたいんだけど、どうしたらいい?」
「何部だ?」
「軽音部!」
「あ~‥‥それなら、顧問の先生の所に持って行けばいい」
「え? 顧問なんているの?」
「そりゃいるだろう」
「じゃあ、軽音部の顧問って?」
「榊先生だな」
「‥‥誰?」
聞いた事のない名前に首を傾げる。
「お前、健康優良児だもんなぁ。榊先生は、保健の先生だよ」
「保健⁉」
まさかの、保健室の先生らしい。
なんとなく、入学式で白衣を着た先生を見た気がするけど、あまり覚えてないな。とにかく、俺達は保健室に向かう事にした。
保健室の扉をノックすると、中から「おう、入れ」と低い声が聞こえて来た。この声、どっかで聞いた事あるな。
「失礼しまぁす」
扉を開けると、ヨレヨレの白衣を着た中年男性が立っていた。
髪はボサっとしていて、無精ヒゲにサンダル。缶コーヒーを片手に、気だるそうに窓際に座っていた。
「何だ、お前等。怪我か、病気か? 眠いだけなら、帰れよ?」
「榊先生?」
「あ? なんだよ、冷やかしか?」
「え、違う違う! 先生って、軽音部の顧問なんだよね?」
「あ~‥‥そういや、そうだったな」
「人数集まったから、よろしくお願いしまぁす」
五人分の入部届けを渡すと、先生は渋々受け取ってくれた。
「やれやれ、書類が面倒だな‥‥。いいか、俺はくじ引きで偶々顧問になっただけだ。音楽の事はお前等でなんとかしろ。そして問題を起こすな。以上」
「え、それだけ?」
「吹奏楽部じゃねぇんだ、指揮者なんかいらんだろ。問題を起こさない限り、好きにすればいい」
そう言って、早々に保健室を追い出されてしまった。
「大丈夫なのか、あれが顧問で」
「さ、榊先生、あれで結構生徒に人気あるらしいよ?」
「いいんじゃない? 問題起こすな、好きにしろ、だよね。良い先生じゃん」
こうして俺達の軽音部は、あっさり承認されたのだった。




