第九話
第九話
「文化祭?」
放課後、皆で集まった時だった。優紀が提案してくれた。
「今、六月ですよね? 文化祭は毎年十月なので、今から練習すれば、なんとか間に合うと思うんです!」
「いいんじゃない?」
「俺もいいと思う」
「俺は‥‥」
唯一、不安を示したのは樹だった。
「俺、家で練習出来ないから‥‥夏休みどうしよ」
「まあ、確かに。俺も家でギターの練習できないな。毎日学校に来るのも面倒だし‥」
「じゃあ、俺の家来ない? 楽器も機材も一通りあるし、防音室もあるから」
「は⁉ マジ⁉」
「すごいな」
「俺の両親、音楽家でさ。趣味でバンドもやってたらしくてね」
「結くんの家‥‥でも、ご家族に迷惑なんじゃ‥」
「ああ、大丈夫、大丈夫。親は年末まで帰って来ないらしいからさ! 泊っても大丈夫だよ! あ、でもうち、にゃあさん‥猫いるけど、大丈夫?」
「俺は大丈夫だ」
「俺も、猫は好きだよ」
「僕も好きです!」
岳、蒼真、優紀は大丈夫そう。樹を見ると、尻尾が揺れていた。
「樹は‥‥大丈夫そうだね」
俺がそう言うと、樹が嬉しそうに頷いた。猫、好きなのかな。
「めっちゃ楽しみになってきた!」
「夏合宿ですね。なら、僕はそれまでに曲を頑張って作ります!」
「ごめんね、優紀に全部押し付けちゃうけど‥‥」
「押し付けるなんてとんでもない! 推しが歌う曲をこの手で作れるなんて、ファンにとってこれ以上の幸せがあるでしょうか! いや、ありません!」
「う、うん‥‥? 押し?」
「優紀が言ってるのは、推しだ。まぁ、本人がやる気満タンなんだから、良いんじゃねぇの?」
「そ、そっか。優紀がいいなら‥‥でも、無理しないでね?」
「はい! 無理せず、全力で! 命を掛けて!」
「いや、掛けなくていいから!」
かなり心配だったけど、「結は文化祭に参加する事を生徒会と、一応顧問の先生ん所に言ってきて」と優紀に言われ、部室を出た。
「結」
「樹、どうしたの?」
「俺も一緒に行く」
追いかけて来た樹と一緒に生徒会室に向かい、エントリーシートを貰った。
「申請は夏休みが終わってからって言ってたね」
「ああ。それに、曲の録音データと歌詞を出せって言ってたな」
「結構前に、文化祭でかなり際どい歌詞の歌を歌った生徒がいたらしいよ。下ネタ系の。そこから厳しくなったみたい」
「アホか‥‥まあ、その辺は大丈夫だろうな。優紀が結にそんな歌を歌わせるはずがないからな」
「あはは、確かに」
生徒会の次に向かったのは、保健室。ドアをノックして開けると、榊先生が机に向かっていた。
「あ? 何だ、お前等。何しに来た?」
「ひどいなぁ」
「健康な奴に用はねぇ」
「軽音部、文化祭に出る事にしたから、報告にきた」
「夏合宿もするからね!」
「文化祭、夏合宿だあ‥‥?」
榊先生の眉間にシワが寄る。
「文化祭はまだ良いとして、夏合宿なんてどうすんだ? 学校に泊るとこなんかねぇし、運動部の宿泊棟はもう埋まってるぞ?」
「あ、それは大丈夫! 俺の家でやるから」
「鈴也の家? ああ、そう言やお前んとこ音楽一家だったな。まったく‥‥めんどくせえが、顧問として顔を出さにゃならんからなぁ」
「先生もお泊り?」
「アホか。ちょいちょい顔出すって事だ。まぁ、お前の家の事は聞いてるからな。ガキだけで集まって、はめ外し過ぎんなよ?」
「はぁい」
樹と一緒に頭を下げ、保健室を出る。
「榊先生、結の家の事知ってるのか?」
「多分、両親が学校に言ってあるんじゃないかな。一応、子供一人家に置いて行くから。祖母ちゃんも近くにいるからって事で、学校にはオッケー貰ったって言ってた」
部室に帰ろうと廊下を歩き出すと、樹が立ち止まる。
「どうした?」
「‥‥寂しく、ないのか?」
「う~ん‥‥もう慣れたかな。それに、俺には祖母ちゃんと、にゃあさんもいるからさ」
「‥‥そうか」
よく見ると、樹の足の間から尻尾が前に出ている。もしかして、尻尾巻いてる?
「え、何その尻尾。どういう状態?」
「な、なんでも無い」
樹の尻尾が戻り、小さく揺れ始めた。
「尻尾って案外、感情出るのな。うちのにゃあさんも、怒ると尻尾パンパンに膨らんでる」
「猫の獣人と同じだな」
「へぇ、その辺は似てるんだね。じゃあ、樹もフリスビー見てワクテカする?」
「‥‥しない」
樹が歩き始め、その速度が若干早い気がする。
慌てて追いかけ、歩きながら顔を覗き込む。
「え~、今、間があったじゃん」
「やめろ。ってか、それ俺以外に言うなよ、差別になる」
「ゲッ、マジ? ごめん!」
「結に、そんなつもり無いの知ってるから、いい」
「悪気無いの、一番ダメじゃん。じゃあ、猫の獣人にマタタビあげるのも差別?」
「いや、それは‥‥どっちかって言うと、セクハラだな」
「うわぁ‥」
「恋人同士ならいい。それと、成人前のマタタビ使用は禁止されてる」
「へぇ、そうなんだ。酒とかタバコみたいな扱いなんだね」
放課後の学校は、昼間よりも静かだけど、ワクワクもする。茜色に染まりかけた校舎は綺麗で、つい歌いたくなる。思わず口ずさむと、樹が目を細めた。
「珍しいな、恋の歌なんて」
「あれ、そうだっけ?」
「ああ」
「う~ん‥‥あの電線見てたら、思い出してさ」
「電線?」
「歌詞の中に、電線を五線譜に例えるのが出てくるんだけどさ。俺も小さい頃、同じ事考えてたなって。しかもその時、まん丸の雀が電線に乗ってて、音符みたいに見えたんだよね。だから、恋の歌だったのは、偶然」
「雀が音符か」
「樹、彼女いないの?」
「ぶふっ⁉ なんだよ、いきなり」
樹の尻尾が凄い速さで揺れてる。動揺するとこうなるのか。
「いや、恋の歌だったから?」
「‥‥いない」
「じゃあ、初恋は?」
「初恋? あ~‥‥小学校だった。結は? 聞いたんだから、お前も言えよ」
「彼女もいないし、初恋もまだ」
「は? 誤魔化すなよ」
「本当だってば。一人を特別に想うって、まだよく分かんないんだよね」
「‥‥ガキ」
「うるせぇ」
恋を知ったら、歌も変わるのかな‥‥。




