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第二話

第二話



「俺とバンドやらない⁉」


気付いたら、口から滑り落ちていた。それくらい、樹の目がベースに釘付けだったから。


「‥‥バンド?」

「そう! ギター、ベース、ドラム、とヴォーカルなんだけど」

「それくらいは知ってるけど‥‥どうして、俺?」

「え‥‥なんとなく?」

「なんとなくって‥‥」

「俺の歌、聞きに来てるって事は、音楽好きなのかなって。ごめん、無理にとは言わないから」


慌てて手を振る。無理に勧誘するつもりはない。


「俺、楽器なんてやった事ないよ? 結が教えてくれるのか?」

「あ~‥‥ごめん、俺、楽器は無理」


思わず苦笑いしてしまう。


「え‥‥」

「あはは‥‥実は俺の両親、二人とも音楽関係でさ‥‥でも、俺は何やっても駄目だったんだよねぇ。不器用すぎて、お前はマイク以外持つなって、カラオケでタンバリン取り上げられた事ある」


思わず恥ずかしい黒歴史を話すと、樹が顔を背け、肩を小刻みに揺らし始めた。


「ちょ、笑うなら笑ってよ」

「ぶふっ‥‥悪い、でも‥タンバリンも駄目って。よくそれで歌えるな」

「それは、俺も不思議。きっと、歌に全振りしちゃったんだろうなぁ」

「ああ、それはそうかもな。結の歌、凄く耳が気持ちいい」

「そ、そう?」


ストレートに言われ、思わず照れてしまう。


「やめろ、うつる‥」


樹もつられたのか、尻尾が揺れているのが見えた。


「良かったらさ、やってみない? 入部するかどうかは、後から考えてくれればいいからさ。俺の歌聞いてるだけより、楽しいかもしれないよ? 」

「‥‥少しだけなら」


その言葉が嬉しくて、思わず「やったぁ!」と叫ぶと、樹がまた噴き出した。


「え、何?」

「いや‥‥人間にも、お前みたいに感情がそのまま出る奴もいるんだな」

「それ、褒めてる?」

「‥‥多分」

「ならいいや」

「そう言えば、ヴォーカルは結だろ? 俺がベースだとして‥‥ギターとドラムは?」


樹の問いに、思わず視線を逸らした。


「えっとぉ‥‥募集中、みたいな?」

「なるほどな」

「だ、大丈夫だって!」


まぁ、大丈夫ではないけど。でも、もしも‥‥もしも樹がベースをやってくれるなら‥。


「頑張って探すから!」

「ってか、結が皆の前で歌えば、集まるんじゃないか?」

「皆の前かぁ‥‥それ、いいかも」

「‥‥え、マジ?」

「ははっ、なんでもない」


よし、笑って誤魔化せ! 明日から、忙しくなるぞ!


次の日の朝、昇降口の横、ビールケースの上に立ち、プラカードを首から下げる。


「よし!」


他の生徒達が登校し始めたのを見て、歌い出す。

首から下げたプラカードには、「軽音部、ギターとドラム求!」と書かいておいた。


「何だあれ?」

「綺麗な声‥‥」

「あれ、一年の鈴也じゃん。デカいから目立つんだよね」


何人かが立ち止まって聞いてくれている! 


「軽音部?」

「うちの学校にあったっけ?」


集まった人達と、少し遠巻きにだが獣人の生徒達もチラチラと俺を見ていた。

誰か、興味持ってくれるといいな。


「お、おい、何やってんだ、結!」

「おお、樹~! おはようさん!」


騒ぎに気付いたのか、いつもの空き教室に行かなかった俺を探しに来たのか、樹が校舎から慌てて出て来た。


「おはようじゃないだろ‥‥」


半分呆れながら近づいてくる樹。


「だって、皆の前で歌えば良いって言ってただろ?」

「そりゃそうだけど‥‥」

「お前等、朝から何を騒いでんだ!」


いつの間にか集まっていた人だかりの向こうから、先生がこちらに向かって走ってきていた。


「やばっ!」

「こっち!」


ビールケースから慌てて降りると、樹にうでを掴まれ、走り出す。


「あはは!」

「笑ってる場合か!」


校舎裏まで走り、追ってこない事を確認すると、壁に背を預けて息を整える。


「お前、それ持って来たのか?」


地面に座り込んだ樹が、俺が手に持ったままだったビールケースを指差す。


「ああ、さすがにビールケースは置いておけないかなって」

「はぁ‥‥」


大きくため息を吐いた樹を見て、笑いが込み上げて来る。


「あはは、樹まで逃げる事なかったのに」

「いや、つい‥‥」

「あ~、楽しかった」


息も整い、大きく腕を上げて伸びをする。すると、チャイムの音が聞こえてきた。


「やべっ!」

「まったく‥‥」

「樹、放課後暇? 俺、コレ返しに商店街行くんだけど、一緒に行かない?」

「商店街?」

「そう、俺の祖母ちゃんが店やっててさ‥‥あ、マジ行かないとヤバい!」

「お、おい!」

「そんじゃ、放課後、正門前なぁ!」


走りだし、振り返りながら手を振る。


「返事してねぇって」


樹はそう言いながら、小さく手を振り返し、尻尾が揺れていた。


「ひぃっ、人用の校舎、遠い~!」


俺は必至で走った。

結局、先生には即行で俺だってバレて、昼休みの半分がお説教で消えたのだった。


放課後、自転車を引きながら正門に向かうと、樹がすでに待っていた。


「ごめん、待った?」

「いや、さっき来た」


二人揃って、歩き出す。周りがチラチラと見て来るが、樹も気にしていなさそうだったので、安心した。


「そう言えば、樹ってどこに住んでんの?」

「俺は、西側の一駅」


西側とは、壁で分断されていた当時の、獣人側の居住区だ。


「一駅って事は、わりと壁に近いんだな」


ここ数年ではお互いへの差別も薄まりつつあるが、せっかく壁が壊されたのに、なんだかまだ目に見えない壁があるみたいだ。


「俺の家は学校から近いけど、祖母ちゃんの店は壁近くの商店街にあるんだ」

「もしかして、あの屋根のあるとこ?」

「知ってるの?」

「少し歩くけど、近いかも」

「へぇ! じゃあ、小さい頃に会ってるかもな!」

「あ~‥‥かもな」


樹から返って来たのは、曖昧な言葉だった。

まるで、壁を中心に少しずつお互いのインクが混ざっていくみたいなもどかしさを感じる。


二つの色が混ざったら、何色になるんだろう。


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