第十一話
第十一話
「んっ、んん~♪」
イヤホンを着け、鍋の中身をかき混ぜる。
スマホから流れて来る音に合わせて、体を揺らす。
皆が集まってから数時間。
岳は防音室でドラムを叩き、蒼真はギター、樹はベースと、それぞれの練習に入った。
そして優紀はリビングで、ノートパソコンとにらめっこしながら二曲目を作っている。
昼ご飯に皆で食べたピザも美味しかったけど、やっぱり合宿と言えばカレーでしょ。
この家で、初めて大勢と食べるご飯はいつもより美味しくて、つい作り過ぎちゃった。
ふと優紀の方を見ると、両手で顔を覆い、ソファーに突っ伏していた。
「優紀、大丈夫?」
「いや、もう‥‥鼻歌すら尊い。推しが、僕が作った歌を歌ってる‥‥」
「あはは‥‥」
優紀は、俺が歌ってると偶にこうなる。俺が推しらしいけど、なんだかこそばゆい。
「ご飯できたし、そろそろ皆を呼ぼうか」
「じゃあ、僕が行ってきます!」
皆を待っている間に、にゃあさんにご飯をあげようかな。
いつも俺と二人だから、警戒してストレスにならないか少し心配だったけど、にゃあさんは人見知りしないと言うか‥‥どちらかと言うと、皆に興味ないみたいだった。
いつもの様に、お気に入りのクッションに寝転び、気が向いたら俺の肩に乗って来る。
「めっちゃ、いい匂い!」
「結が作ったのか?」
「うん、そうだよ。皆、好き嫌い無いって聞いたからさ」
「料理できるの、凄いな」
「ちょっと作り過ぎたけどね。おかわりはセルフでよろしく」
「いただきます!」
皆が一口食べると、固まってしまった。
「あ、あれ? 大丈夫?」
心配になって声をかけると、物凄い勢いで皆が食べ始めた。
「マジ、美味い!」
「秘伝の配合か何かか?」
「いや、市販のルーだけど‥‥」
「推しの手料理‥‥」
「優紀、鼻水」
伊織が優紀にティッシュを渡していた。
喜んでもらえたみたいで、ホッとした。そこからは、それぞれ音楽の話に花が咲いた。
コード進行とか、リズムがとか‥‥俺には正直よく分からなかったけど、テレビ以外の音が響く賑やかな食卓が嬉しかった。
因みに‥‥皆からは滞在中の食費を貰っている。それぞれのお家の人が持たせてくれたらしく、一度は断ったけど、受け取った方が遠慮なく食べれると言う事で、渋々受け取った。
そんなこんなで、大鍋に作ったカレーも、二回炊いたご飯も、あっと言う間に胃袋へと吸い込まれて行った。
優紀と蒼真が洗い物をしてくれると言うので任せると、順番で風呂に入る事になった。
「樹、バスタオル持って来たの? うちの貸すのに」
「これは、獣人用のタオル」
樹がバスタオルを広げて見せてくれた。それは、バスタオルと言うよりもシングルサイズの敷布団くらいあるドデカいバスタオルだった。
「俺も、持って来た」
岳が見せてくれたタオルも、同じくらい大きい。
「俺達は全身毛だからな」
「ああ~、そっか!」
「正直、風呂は人が羨ましい」
「乾くのに時間かかるし」
「毛が水吸って減る」
「あはは!」
普段は見えない、こういう違いって面白い。他にも、シャンプーはどこのが良いとか、顔から尻尾まで一本で済むとか――樹と岳が情報交換しているのが面白かった。
夜は、俺の部屋に布団を敷き詰め、雑魚寝になった。
そして次の日、いよいよ全員で音を合わせる事になった。
地下にある、防音の部屋に入る。
岳がドラムに座り、樹と蒼真がそれぞれギターとベースをアンプに繋ぐ。
軽く出して調整する音が、心拍数を上げていく。
「いいぞ」
「俺も、いいよ」
「俺も」
「よし‥‥行きますか」
優紀が部屋の隅でパソコンのキーを押した。
その瞬間、いつもの、アザラシの子共のようなふんわりとした空気から、まるでスイッチが切り替わったみたいに、結の空気が変わった。
唇を舐める仕草からは色気さえ感じ、空気の色が変わる。
そして結が声を出した瞬間、全員の背中がゾワリと泡立つ。
それまでにも、結の歌声はそれぞれ聞いていたはずだった。それでも、呑まれる。
「(ここまでとはな‥‥)」
「(クソッ、指が震える‥‥)」
「(これが結の本気か‥‥)」
両手でマイクを包み、気持ちを吹き込むようにして歌う結。
一曲目が終わり、シンとした静寂が流れる。
誰も、すぐには言葉が出せなかった。
たった一曲なのに、肺の奥まで音が残っている。
「あ、あれ? みんな、どうしたの?」
「どうしたの、じゃねぇ! お前、普段と全然違うじゃねぇか!」
「え、そ、そう?」
「まるで別人だったな」
「そ、そこまで?」
岳と蒼真に詰め寄られ、圧が強くて一歩下がる。
助けを求めようと樹を見ると、引き終わった姿のまま固まっていた。
「え、ええ~‥‥」
次に優紀の方を見ると、目を見開いたまま大粒の涙をこぼしていた。いや、怖いって!
「っ‥‥っ‥‥」
「優紀、息しろっ!」
「推しが‥‥推しが尊い‥‥僕は、何を捧げたら‥‥やっぱり、心臓か‥‥」
「優紀、帰ってこ~い」
カオスな状況にどうしようかと思っていると、インターホンが鳴った。
「は~い!」
モニターを見てみると、そこには榊先生が立っていた。




