3ー1
人生っていうのは、あらかじめ決められていて、わたしたちはそのレールからはみ出さないようにしか生きられないものだと思っていた。
……サーシャに会うまでは。
生まれた時から重い心臓病を患う弟のせいで、両親は不仲なのにたくさん働かなくちゃいけなかったし、わたしは最初から大学に入ることをあきらめて、バイトにいそしんできた。
勉強は好きだったけど人は嫌い。
みんな、わたしを透かして弟の晶ばかり見る。そして必ずこう言われるのだ。
「芽生ちゃんはお姉さんなんだから、弟のためにがんばりなさい」
そんなことわかっているし、なにをどのくらいがんばれば、弟の心臓を治せるのかこれっぽっちもわからなかった。
髪を染めたり、集団行動をしたり、そういうのはわたしじゃない気がしてどこにも属さなかった。
友だちなんていないし、これから先もいないのだと思っていた。
カヤブキ博士のことを知ったのは、スマホで心臓病について調べていた時だった。
カヤブキ博士なら、どんな病気も治せるかもしれない。ただし、その対価として高額なお金が必要となる。また、若くて有能ならば、パソコン操作による仕事もさせてもらえる。
まるっきり眉唾だったのに、博士を信じたのは、わたしの前にサーシャ――石原 由理が現れたからだ。
彼女は自分のことをサーシャと呼んでくれと言った。由理なんてありがちな名前は嫌いだと。
そして普段は黒髪ボブのウィッグを被っているけど、本当は流れるように豊かな銀髪とアイスブルーの瞳をしているとても綺麗な女の子だった。
わたしと違う、すべてに自信がある女の子。
サーシャはわたしと出会うなり、カヤブキ博士のことを話し、いきなりカヤブキ博士に会わせてくれた。
だけど、うちにはそんな大金はないからと断ると、いくつかの条件とわたしが施設で働けば診てくれることに決まった。
その条件のうちの一つが、両親に保険に入ってもらうこと。掛け金はカヤブキ博士が払ってくれることになり、保険金の受け取りはカヤブキ博士にあることだった。
保険とか、そんなの無関係な人生だったから、両親を保険に加入させたのはサーシャのおかげだった。
そして平行して弟の晶に英語とドイツ語、それに機械光化学の勉強をするように勧めることを提案された。
とにかくそれだけで、あとは博士がうまいことやってくれると、ただその言葉を信じた。
信じたかった。
とても息が苦しかったから。
運命を変えてしまいたかったから。
その時はまさか、こんなことになるなんてこれっぽっちも想像していなかった。
つづく




