3ー2
「これ以上のことを知ったら、もう後戻りできなくなるけどいい?」
ある日、サーシャがそう言ってきた。
「なんのこと?」
「ご両親を保険に加入させたからには、その命を奪うことになる。晶くんは、その代わり生き延びることができる。そしてあにたは、永遠にわたしに服従するしかなくなるってこと」
あまり一変に話されて、背筋が凍る思いがした。
「知りたくないって言ったら?」
「その選択肢はあなたにはないわ、芽生。わたしはわたしの右腕としてあなたを選んだから。わたしにはあなたが必要だし、あなたもわたしが必要なのよ」
その時。人生で初めて誰かに必要とされていることを知った。
涙が出た。
そんなあたしをサーシャは優しく抱きしめた。
「泣いていいのよ、芽生。あなたはいつも泣くのをこらえていたのでしょう? でも、わたしの前では無理しなくていいの。あなたは一人の人間なのだから」
そうして泣き崩れたあたしを、根気強く抱きしめてくれた。
だから決心した。
もう後戻りできないのなら、全部を知る権利がある。
サーシャのサポートをするのはあたししかいないのだから。
「なにから知ればいい?」
そう聞いたあたしに、サーシャは場所を変えようと言って歩き出した。
あたしの手に、サーシャの手がゆるりとからんだままだった。
恥ずかしかったけれど、誰かと手をつなぐことなんて初めてだったから、うれしかった。
なによりサーシャはあたしを必要としてくれている。
それが一番うれしかった。
あたしたちがたどり着いたのは高級料亭だった。
そこで、慣れた調子で店員を呼び止めると、サーシャはあたしを座敷へと案内した。
「紅茶とケーキくらいしか出せないけど、それでいい?」
「うん。でも、高いのでしょう?」
「そんなこと心配しなくてもいいのよ」
サーシャは紅茶とケーキが運ばれてくるまで黙っていた。
あたしも黙っていた。
そして、ケーキを食べ終えた頃になって初めて、バッグの中からノートパソコンを取り出した。
「晶くんの寿命を延ばすための装置がこれ。タケノコっていう全面ソーラーパネルのロケットよ」
「ロケット?」
延命装置とロケットが頭の中で結びつかなくて戸惑いの声を上げる。
パソコンの画面を見せるために、あたしの横に座ったサーシャは、ずんぐりとしたタケノコの設計図を見せた。
これが、延命措置? これに乗れば、晶は助かるの? 両親の命と引き換えにして?
なんだかもやもやした気持ちになってきたあたしに手をからませたサーシャは、そうね、もう一つ教えてあげると囁いた。
「晶くんはね、これに乗って宇宙に行くの。これまで何人かで試した結果、大気圏突入の際に死んだ治験者が五人いるのよ。ね。」
その言葉で、もやが晴れたような気がした。
つづく




