5ー3
タケノコで宇宙に漂い始めてから、時間の感覚がなくて、眠かったら寝るし、起きたかったら起きるような生活をつづけていたせいか、頭が重い。
懲罰房の鍵が空けられ、ドアが開いた。
「おはよう、アキラ。朝食持ってきたよ。夕べは食べてなかったから、おなかすいたでしょう?」
ドクター・ミセスがにこやかに懲罰房に入って来た。
「バイタルの確認させてね」
僕は無抵抗なまま、熱を測ったり、脈を取られたり、血圧を計ってもらったりした。
「悪くないね。どう? 調子は」
「いいわけないでしょう」
「遅れてきた反抗期? でも、あれはアキラが悪いよ。昨日お姉さんをとめていられたら、今日も戦うことはなかったかもしれないんだから」
今日も、戦うのかな?
だとしたらやっぱり、きちんと説得していればよかった。
馬鹿だな、僕。この後に及んでまだお姉ちゃんを説得できると思い込むなんて。
「聞いたよ。アキラ、お姉ちゃんを説得しようとしたんだって?」
「……でも、失敗しました」
「そうだよね。だから戦うしかないんだよね。お姉ちゃんとも、自分とも」
「自分とも?」
「そう。戦闘は自分との戦いでもあるんだよ。だって人を殺すことになるかもしれないんだから」
そこまで言ってから、ドクターはぼくの牛乳パックにストローを挿した。
「有人機と戦うって、そういうこと。そこで迷えば、自分か、仲間の誰かが死ぬことになる。お姉ちゃん本気だったんでしょう?」
「……はい」
「じゃ、アキラはシールドに守られて正解だったんだ。だけど、もし仲間が死んでいたらどうする? それでもお姉ちゃんを守りたいの? きみは、なんのために生きているの? そしてこれからも生きていくの?」
もし、誰かが死んでいたら……。そこまで考える余裕はなかった。だって、トラオさんもテリーさんも強いし、お姉ちゃんは女の子だから。
だけどもし、って考えたら、ミヤさんとおなじように悲しむ人がいるってことだ。
これまでずっと一人で命と戦っていた僕にはなかなか考えがつかなかった。
「きみはもっと人生を真面目に生きる方がいいよ。そして、戦う勇気がないなら、タケノコには乗らないことだね」
はい、と差し出された牛乳を手に取る。紙パックの牛乳は、ほんのりと人肌の温度だった。
「もし、僕が乗らなかったらどうなりますか?」
「その時はわたしたちが戦うよ。アキラは懲罰房でゆっくりしていればいいよ。身体のつらさもあるだろうからね」
「渚さんも戦う予定があるのですか?」
ううん、とドクターは力なく首を左右に振る。
「ナナミの体調は思わしくないからね。でも、アキラだったら彼女の07に乗ることはできるよ。そのように整備されてるから」
どっちにしても、戦うことになるのだろうか。
「僕は、戦いたくありません」
「じゃ、地球に帰る? 近いうちにナナミを地球に送り出す計画が進んでいるの。そのくらい彼女の病状はよくない」
一人も二人もおなじたよ、なんて、ドクターは乾いた笑いを顔にはりつけた。
つづく




