起床
衝突した。それでも止まらない
はなびの部屋は、暗かった。
障子だけが開かれている。
外の光が細く差し込んでいた。
にわびは引き戸を開ける。
朝に置いたご飯を、手に取る。
皿を見た。
少し、減っていた。
——きっと、動物だ。
はなびは外が好きだった。
だから、開けている。
そういうことにしている。
夜ごはんを、枕元に置く。
いつもの場所に。
「……待ってるよ」
ひと言だけ、落とす。
返事は、ない。
立ち上がる。
にわびは静かに扉を閉めた。
静かになった部屋には、誰かの家の笑い声が届いていた。
◇
すみが、目元を拭う。
「一緒に来る?」
リースが言う。
すみは何も言わない。
目だけが、わずかに逸れる。
「リース、少し落ち着きなさい」
てんがリースの腕を引いた。
それから、すみの方へ向き直る。
「すみ。問題が解決したら——一緒に来てくれるかい?」
少し間があった。
「……もちろん」
すみが、小さく答える。
「解決すれば、行きたいです」
カナマの口元が、ほんのわずかにゆるむ。
てんも、同じだった。
目が、合う。
「じゃあ——解決しないとね」
てんが、静かに言う。
「一旦、はなびって子のお見舞いに行くのはどう?」
カナマが続ける。
「行く」
リースが即答した。
「いや、あんたじゃなくて」
てんがすかさず返す。
「まだ、お見舞い行けてなさそうだし」
カナマは、すみの方を見た。
すみは、下を向いていた。
畳の目を、数えるように。
誰も、急かさない。
時間が、ゆっくりと過ぎる。
「……行き、たいです」
すみが、小さく言った。
「はなびが今、どうなっているのか——知りたい、です」
てんは、すみを見た。
「じゃあ、夜中にこっそり行こうか」
一拍。
「私たちも、気になることがあるし」
◇
ミツキが寝室へ向かい、家が静かになった。
深夜二時。
虫の声だけが、やけにはっきり聞こえた。
リースは、少しだけワクワクしていた。
四人は、はなびの家へ向かった。
「ちょっと、別行動するね」
てんが立ち止まる。
「えっ?」
「大丈夫、すぐ戻るよ」
それだけ言って、てんは国の入口の方へ向かった。
三人は、坂を上った。
石畳の音を、一歩ずつ殺しながら。
他の家の灯りは、もう消えている。
一段登るたびに、心臓の音が大きくなっていく。
——紅葉が風に揺られる。
「ちょっと待って」
「ほら、早くー」
振り返りもしない。
「見てみて」
ぴょん、と飛ぶ。
「五段飛ばしー」
足が、引っかかる。
二人して、こける。
「あんたらバカじゃない」
はなびが弾けて笑っている。
「すみちゃん、大丈夫?」
——世界が、黒に戻る。
石畳が、足の裏に戻ってくる。
虫の声だけが、続いていた。
登り切ると、大きな玄関が見えた。
「こっちです」
獣道だった。
三人は、その隙間をたどる。
庭に出た。
障子が開かれていた。
外から、部屋の中が丸見えだった。
布団が一つ、真ん中にある。
——誰も、いない。
「どうかされましたか?」
隣から、声がした。
振り返る。
白い浴衣。
顔の右側に、火傷の跡。
すみの口が、震えている。
「……はなび」
声が、削れて出た。
ご愛読ありがとうございました。
はなびの起床それが示す先とは




