はなび
生きていたはなび、彼女は?
「はなび……」
「あれ、すみじゃん。久しぶりだね」
はなびが、軽く言う。
すみの口が、動かない。
三年間。
ずっと、待っていた声だった。
「目、覚めたんだ」
「そうなの」
「あの……ごめんなさい」
「いいよ」
「え?」
「ていうか、全然怒ってないよ」
はなびは笑う。
「前からじゃん。すみがどんくさいの」
その笑い方が——
いつもと、同じだった。
すみの目から、涙がこぼれた。
すみははなびに歩み寄り、抱きしめた。
「おー、どうした?」
涙が止まらない。
「……よかった」
はなびの肩に顔を押し付けたまま、言う。
「よかった——」
「待っててくれてありがとう。」
はなびが言う。
その顔が——
一瞬だけ、笑っていなかった。
「はじめまして。カナマといいます」
カナマが、自然な笑顔で言う。
「この子と、この国に引っ越してきたものです。これから仲良くしてくれたら嬉しいです」
はなびが立ち上がる。
「はじめまして。すみの親友の、はなびと申します」
「なんでこんな時間に外を?」
「なんか寝れなくて。逆に——あなた方は何を?」
「すみさんがお見舞いに行けていないというので、こっそり来ちゃいました」
「そうなんですね。ありがとうございます」
少し間があった。
「一つ、質問いいですか?」
「はい、どうぞ」
「ときわって、知ってますか?」
はなびの顔が、わずかに曇る。
「……いや、わからないです。どなたですか?」
「なんとなく気になりまして」
「すみません、存じ上げなくて」
「大丈夫ですよ」
カナマは続ける。
「じゃあ——、ひるめ、ひむか、やた、あさか、うらら、こはく、のぼ——」
「なんなんですか」
はなびの声が、少し尖る。
「怖いですよ」
「いやー」
カナマは笑う。
「カナマさん、はなびが困ってます」
その呼びかけを無視して続ける。
「この中に、あなたを殺した人物がいると思いまして。勘違いでしたらすみません」
はなびは、笑っていなかった。
一瞬だけ——敵を見る目だった。
だが、すぐに戻る。
「何言ってるんですか。私、まだ生きてますよ」
「ねえ」
カナマのポケットが、揺れている。
「もう演技やめません?」
「君——堕神でしょ」
一瞬。
はなびの目が、細くなった。
だが、すぐ戻る。
「……なんのことでしょう?」
はなびが、笑顔のまま言う。
「堕神って何?」
続けてリースが、静かに聞く。
「神が死んだあとに、他の者の魂を喰い成り代わる」
カナマが答える。
「タブーを犯した神のことだよ」
「いい加減にしてください」
すみの声が、震えていた。
「はなびは、違う」
「はなびは、はなび」
一拍。
「ねぇ、はなび——」
顔を上げる。
答えを求めている。
拒否させようとしている。
「わかっちゃった?」
はなびが言う。
「えっ……」
突き放された。
「わかったところで——止まらないけど」
すみの声が、歩みが、消えた。
「なんで」
一拍。
「じゃあ、はなびは——」
違う。そう言おうとした。声が、出なかった。
「そんなわけ……」
理由が分からないまま、体が崩れる。涙も、出なかった。地面が、冷たかった。膝に食い込んだ小石すらも、感じない。
カナマはそれを横目で見ながら、前を向いていた。
リースは石をはなびに投げる。
「なんや?」
「....」
その瞬間。
どん、と地面が揺れた。
大きかった。
「じゃあ、リース、ここ任せていい?」
「うん」
リースは、カナマのポケットを指さす。
「それ、なに?」
まだ、揺れている。
「ちょっとね」
「....じゃあ気をつけてね。」
◇
「やばいじゃん、予想当たっちゃったじゃん。どうしよう」
てんが、小さく呟く。
「てん!」
カナマが駆けてくる。
「届いた?」
「君の石の受信機、すごくいいよ」
ポケットから、振動している石を取り出した。
「カナマ——リース、大丈夫かな」
てんの声が、少し低くなる。
「あの子、初めての対人戦でしょ」
「ほんとに、お母さんみたいになったね、君」
「だって心配じゃん。すみは?」
「ショックは受けてそうだったよ。けど——立ち直ってもらわないと」
カナマは前を向く。
視界の先に——複数の影があった。
神獣。
——最初からおかしかった。
三年間、意識がない。
それでも、生きていた。
けれど、意識はあった。
神獣が、縄張りを出て人里近くにいる。
おかしい。
全部——あいつが仕組んだこと。
一拍。
「さあ——始めよう」
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すみの人生をみていく




