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碧色の少女 ―関わるな―

適応しようとするほど、

人は変わってしまいます。

それが、どんな形であっても

扉を開けると、すみは迷いなく部屋へ入っていった。

カナマが続く。室内を見回す。思ったより広い。調度品も悪くない。


「あれ、なに?」

カナマの声が、わずかに低くなる。


——さっきの言葉。

すみは振り返らない。

「大丈夫ですよ」

笑って、答えた。

指先だけが、ほんの少し強く握られている。


リースはもう別のものに興味が移っていて、部屋の隅をノートに描き始めている。


てんが壁に目をやる。

写真が一枚、掛けられていた。すみが笑っている。隣に、知らない顔。


「大丈夫?」

てんが、すみの顔を覗き込む。


「ほんと大丈夫ですよ。最近の話じゃないですし」


——呼吸の音だけが聞こえる。

誰も、何も言わない。

すみの思考だけが、ぐるぐると回る。

言うべきか。やめるべきか。

でも——


「……実は」

カナマとてんが、一瞬だけ目を合わせる。


小さく、気づかれないように拳を握る。


「この国では、火の神を崇拝しています。私はその神子に選ばれました」

すみは、視線を落とす。


「でも、私には火を灯す力がなかった」

「けど、それってよくあることじゃない?」


一拍。


「力が使えないだけで——」

言葉が、呼吸が途切れる。

「信仰が足りないって、言われるんです」

もう一度、息を吐く。

「神の名の下に、自由を奪われて」

「それでいて——蔑まれる」

視界が地面に着く。


「……そんな国なんですよ、ここは」

すみは、笑った。


——しかし、その笑顔は、写真とは異なるものだった。


「ただいまー」

その声が、部屋に入ってくる。

穏やかな目元がすみに似た女性——母のミツキだった。

室内を見渡して、少しだけ目を丸くする。


「あら、お客さん?」

「……うん」


すみの声から、さっきの重さがふっと消える。

「母のミツキです」

にこりと笑って、頭を下げる。

「はじめまして、てんです」

てんが答える。カナマも続く。


ひと通りの挨拶が終わると、ミツキは手を叩いた。

「じゃあ、何か温かいものでも作りましょうか」

「手伝います」

てんが立ち上がる。


ミツキは少し驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑った。

「じゃあ、お願いしようかしら」

包丁の音が、部屋に響く。

空気が、少しだけ入れ替わる。


カナマはそれを横目で見ながら、椅子に深く座ったままでいた。

そのとき、リースが立ち上がる。


無言で、外へ向かう。

「リース、どうした?」

「外、見にいく」

「すぐ来る」

短く言って、扉へ向かう。

「ねえ、カナマついて行ってあげて」

「はいよ」

カナマが腰を上げかけると、すみが先に立った。


「いえ、私がついていきます」

「けど——」

「気になさらないでください」

すみは笑う。

「私もリース君と仲良くなりたいので。ゆっくりしていてください」


「そういうなら、甘えよう」

カナマがあっさり言って、背もたれに体を預ける。


高台は、風がよく通った。

リースはすでにノートを開いている。

動きが少ない。

時間がゆっくり過ぎていく。

その中で、リースの視線だけが紙と景色を行き来していた。

また、手を動かす。

すみはその隣に立ち、同じ方向をゆっくりと見ていた。


「絵、好きなんだね」

「うん、でもこの景色の方が好き」

手を止めないまま、リースが答える。


少しだけ間を置いて、付け加えた。

「綺麗。いい国だね」

すみは、何も言わなかった。

「そうかな」

ぽつり、と落ちる。

リースが、初めて顔を上げる。


すみの表情をまっすぐ見る。

困ったような顔だった。

でも、それだけではなかった。


リースは何も聞かない。

また視線を落とし、手を動かす。

風が吹いた。

二人の間を、静かに通り過ぎる。


——そのとき。

足音。

振り返る。

一人の少女が、こちらへ歩いてきていた。

リースと同じくらいの歳。

碧色の和服が、風にわずかに揺れる。

髪は頭の上でお団子に結われている。


足取りは迷いなく、視線はまっすぐ二人へ。

少女は立ち止まる。

一拍。


「その人に関わると、殺されますよ」


すみの呼吸が一瞬止まる。

静かな声だった。

脅しでも、忠告でもない。

ただ——事実を置くような声だった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

リースは、世界の「普通」を知っていきます。

これからも見守っていただけたら嬉しいです。

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