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倭国の視線

新しい場所へ。

「だから大丈夫だって」

 てんが手を振る。

「てか——どうしてそんなに神獣引き連れてたの?」

「いやそれがー」

 すみが少しだけ困った顔をする。

「自分、あんまり外に出なくて。気になるとこに近寄ってったら——神獣の巣でして」

「なるほどー」

 てんが頷く。

「それで?」

「はい。それを繰り返してるうちに、いっぱい追いかけてくるようになっちゃって」


 てんは、しばらく黙った。

 カナマの方を見る。

「……どうしよう、普通じゃないかも」

 カナマは一瞬だけ、リースと見比べた。

「かもね」

 即答だった。


「——ちょっといったん自己紹介するね」

 てんが気を取り直すように言う。

「私はてんで、そこに座ってるのがリース。この人がカナマ」

「よろしくねー」

 カナマが軽く手を上げる。

「よろしく……」

 リースが、小さく言う。


「……今、挨拶した?」

 てんが、目を丸くする。

 次の瞬間——満面の笑み。

「すごいじゃんリース、すごい」

「すごいの?」

「すごいとも」

「これすごいの?」

 カナマが首を傾げる。

「だまらっしゃい」

 てんが即座に遮る。

「……うれしいなー」

「あの~?」

 すみが、おずおずと手を上げる。

「あらごめんなさい」

 てんが振り返る。

「これって喜んでいいやつですか?」

「もちろんよ」


 それからしばらく、賑やかな時間が続いた。


 落ち着いた頃——

「ねえ」

 リースが、ふと口を開く。

「なんで神が死ぬと、神獣になるの?」


 カナマが、少しだけ間を置いた。

「……君、ほんとに急にカーブ飛ばしてくるね」


 リースは答えない。

 ただ、まっすぐ見ていた。


「生きてるときはさ——魂が抑えてるんだ

よ」

「中にある“でかい力”を」


カナマが、少し視線を落とす。


「死ぬと、それが外に出る」

「止めるものが、なくなるから」


 少しだけ間。

「それが、神獣」


「じゃあ魂は?」

「しばらく漂って——消える」

 一拍。

「たまに、残るやつもいるけど」


 声が、少しだけ低くなる。

「タブーだから」

「やるなよ」

「たとえ神になっても」


 リースは、小さく頷いた。


 時間だけが、静かに過ぎた。


「すみちゃんって——倭国出身なんよね?」

 てんが、ふと口を開く。

「はい、そうです」

「帰らなくていいの?」


 すみの顔が、わずかに濁った。

「そうですね」

 貼り付けたような笑顔。

「そろそろ帰らないといけません」


 てんは、その顔をじっと見た。

 何か言おうとして——やめた。


「倭国って——どういう国?」

 リースが、すぐに聞く。

「そうですね」

 すみは少しだけ考える。

「火と刀の国、って感じですかね」


 リースの目が、わずかに光る。

「行きたい」

「ですがー」

 すみが言いかける。

「私も行ってみたいな」

 てんが、すかさず便乗した。


 すみは、少しだけ間を置いた。

「……わかりました」


 その夜は早めに休んだ。


 翌朝、出発した。

 山を一つ越える。

 麓の渓谷に、それはあった。


 谷の合間に、隠れるように。

 赤を基調とした建物が、壁に張り付くように並んでいる。

 大きな門が、その全てを覆い隠していた。


「ここが——私の故郷、倭国です」

 すみが静かに言う。


 リースは、目を輝かせていた。

 てんは——昨日のすみの顔を思い出しながら、何も言わずに進む。

 カナマは、いつも通りだった。


「扉、開けないの?」

 リースが首を傾げる。

「あ、ごめん。今開けるね」

 すみが門に手をかけた。


 入った瞬間——視線が刺さった。


 多い。

 明らかに。


 すみが「さあ、こっちに来て」と先を歩く。

 ついていく。


 通り過ぎるたびに、声が聞こえた。

 小さく。だが、確かに。


「また、どこかをほっつき歩いてたらしいわ」

「また厄介事持ってきた」

「出来損ないのくせに、邪魔しかしない」


 そのとき——子どもが走ってきた。

 すみにぶつかる。


 墨汁が、服にかかった。


 すみは振り返る。


 笑っていた。

 つらそうに。

 ——慣れているみたいに。


「この先が——私の家です」

読んでいただき、ありがとうございます。

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