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9話「綺麗は汚い、汚いは綺麗」中編


 私達の墜落現場からおよそ200m先、砂に埋もれる廃墟の影、落ちた神器を探す私は、そこに見た。

 青く光る燭台がそこにあった。


「……おいおいマジかよ」

「どうしたんですか? 何か見つけ……」

「何で生きてんだ、アイツ!」


 青く光る炎を掲げる神器の所有者の姿が、切り捨てたはずの人間の姿が、そこにあった。

 身長およそ190㎝前後で二足二腕一頭、全身を黒い布で覆い、顔と性別は分からないがおそらく人間。


 そして何より特徴的なのは、右の肩から胴の中心にまでくっきりと残った斬撃の跡を、青く光る炎で埋めている点だ。


「神の力を得るとは、そういうものなのでしょう」

「こっちの聖剣はそういうの無いのに!?」


 こちらが愚痴ると同時に黒い人影が燭台を掲げた。

 嫌な予感がしてこちらも聖剣を構えるが、それよりも先に燭台から青くうねる炎が飛んでくる。


「マジかよ、あの炎さっきより強くなってねえか!?」


 先程と同じように飛来する炎を切り払うが、その余波は火の鳥が放ってきた炎よりさらに強力となっていた!

 

「あっ、熱っ!?」

「ニーナ! 手を!」


 イリスがすかさずフォローに入り、こちらに手を伸ばし眩く光る魔法の光を私に向かって流し込んだ。

 いつか龍の凍結より守った物と同じ光が私を包み、周囲の高熱から守ってくれた。

 が。


「悪い、助かった……けど、お前その体で戦闘なんてできるのか?」

「流石に、今のままだと足手まといですかね……」


 私に向かって走って来たイリスの様子は、明らかに正常とは程遠かった。

 呼吸は荒く脂汗が出ている、墜落の衝撃で受けた傷が、きっと何か良くない方向に悪化しているのだ。


「流石にこれ以上動くと魔法も消えてしまいそうです」

「なら休んでろ、後は私が……」

「なので代わりに、この子を渡しておきます」

「……なに、これ」

「ネズミです、私の作った」


 息も絶え絶えといった様子のイリスは、そう言って一匹のネズミを私に手渡した。


「お、お前! 墜落の衝撃で頭が……!」

「この子は今貴女にかかっている炎熱を防ぐ魔法を維持するための物です、持っている間は5分ほど持続するでしょう」

「あっ、はい」

「ただ、熱を防ぐと言っても神器の炎の直撃までは流石に防げません、あくまで余波をどうにかできる程度です、なのでなるべく接近戦は避けてください」

「剣士に接近戦止めろって、だいぶ無茶言ってねえかなぁ!?」

「それと、可能なら殺さず生け捕りを視野に入れて戦ってください」

「これまた無茶なことを!?」

「でもそうしないと貴女、王族ゲータ家の人間を殺した逆賊になります……」

「それはそうだけど!」

「可能な限りブルトゥス家で……擁護はしますけど、それにも限界はあります、から……どうにか、頼み……ます」

「おい、イリス!?」


 そこまで言うとイリスはついに砂の海へと倒れてしまった。

 意識はまだ残っているようだが、これ以上動くことは不可能なようだ。


「大丈夫、しばらく休めば……自力で回復……」

「もういい、喋るな! あとは私が何とかする!」


 そして一方で神器を掲げる黒衣の人物はこちらに向かって走り始めていた。

 炎での遠距離攻撃を無駄と思ったか接近戦に切り替えて来たのだ!


「待ってろイリス、すぐに終わらせてやる」


 私は聖剣を再び構えた。


「体斬っても神器で回復するってんならよぉ」


 あの黒衣の人間を一撃で仕留めるために。


「次ぁその腕ぶった斬って、神器なんぞ持てなくすればいいって事だよなぁ!」


 鉄人形の腕関節を斬り落としたように、いつか龍の肺機能を潰した時のように。

 燭台を持つその右腕を、貫き穿とうと聖剣を突き出した!

 が!


「あぁ? マジかよ……ッ!」


 黒衣の人間は青く光る燭台をまるで剣の柄のように持ち替えそして、私の突きを受け止めたのだ!

 この世に存在する物なら何でも斬れるはずの神話の剣コリオレイナスの一撃を、そいつは受け止めた!


 少し前に脳裏に浮かんだ不安が、今まさに現実の物となっていた。

 私の未熟ゆえに、聖剣の扱いが不全であるがゆえに、この世の物ならざる神器を斬る事ができないのだ。


「だ、だとしてもあんな燭台で何度も防げるはずが……」


 そう考え私は追撃の剣閃を放とうと再び構えると。

 黒衣の人間はそんな私の考えを読んでいるかのように青く光る燭台へと手をかけた。


 何をするつもりだ。

 そう考え剣を躊躇した私の眼前で、それは起こった。

 黒衣の人間が気合を入れ燭台の中心を握り、そのまま思いっきり引っ張って伸ばしたのだ!


「え、何だそれ!?」


 そして伸びた燭台に火を入れ整えると、瞬きする間に剣のように変形していた。

 手品でも見ているかのような、一瞬の出来事であった。


「おいおい、何でもありかよ!?」


 燭台の形をしていた神器は青い炎を携える剣へと姿を変え私の元へと迫っていた、すでに距離およそ50m、走れば5秒とかからない距離。

 もうソイツは炎を放とうとはしていなかった、走りもしていなかった、ただこちらに向かって悠然と歩いていた。

 剣士としての立ち合いを、所望しているのだ、コイツは。


 実に腹立たしい事であった。

 剣としての立ち合いであってもこの燭台は聖剣に勝てるのだと、誇示しようとコイツはしていた。

 所持者のプライドの高さが実によく見て取れる。


「上等じゃねえか、やってやろうじゃねえかこの野郎」


 私はそれに応える事にした。

 それこそが私にとって最も勝算の高い行動であると自負していたから。

 加えて、遠距離でのやりあいでは今私の後方で倒れているイリスを戦いの余波に巻き込んでしまう恐れがあったからだ。


 悠々と進む黒衣の人間が、廃墟の埋もれた砂を踏みしめこちらに迫る。

 こちらも負けじと肩で風切り砂丘を降りて敵へと向かう。


 互いの体が接近し、どちらも前進を止めずやがて両者の制空権が交差した。

 それでも互いに止まる事無く、双方剣を構え、そして。


 青く光る剣閃と、白く光る剣閃が交差した。

 神器と神器が、互いに持てる異能をぶつけ合った!


「糞ッ、刀身を当ててもダメかよ……!」


 火花が散り、殺意が飛び交い、そして鍔と鍔が迫り合った。

 神器同士の衝突は、大きな衝撃を生んで周囲の廃墟を吹き飛ばす。


 互角であった。

 鍔迫り合う神器と神器は、互いにこの世ならざる力を迸らせ干渉し打ち消し合い、どちらの力も反発して外へ外へと逃げていた。


 神器同士は完全な互角、ならば勝敗を分けるのは剣の腕だけだ。

 私も黒衣もそれを理解してか、互いに刃と刃があった状態から、切先を刃の下から滑らせて隙を伺おうと力を籠める。


「ッ!」

「……!」


 そして、迫り合う刀身がわずかに動いたその瞬間、青く光る刀身から炎が噴出し私の視界を奪った。

 その隙を突き黒衣の人間がこちらの腹を蹴り上げ、そのまま体勢を崩した私の脳天へ高く掲げた剣を振り下ろす!


 隙を作り、体勢を崩し、そして打ち込む。

 この大陸に伝わる正統剣術の基本にして奥義であった。

 神器を操る黒衣の人間はそれを私相手にも忠実に行っていた、まさに手練れと言って良い腕前だ。


 あぁしかし、だからこそ。


「なっ!?」

「お、初めて声を上げたなお前」


 肉が裂け骨が断たれる音が響き、次いで舞い上がった血飛沫が砂の海を濡らした。

 斬り落とされたのは黒衣の男の右腕。

 砂中に刀身をうずめたのは青い炎を纏うダンケルドの燭台であった。


「ば、馬鹿な……!? 完全に体を崩していたはず……」

「さて、なんでだろうな」


 それは型に嵌まらない、非効率極まりない、夜盗や野伏の使う実践剣術。

 かつて私を追い詰めた、この聖剣の本当の持ち主の技であった。

 正統剣術を礎とする、貴族の騎士や兵士を打ち倒すためだけに編み出された技。


 敵の攻勢を逆手に取りわざと自分から体勢を崩されにいき相手の行動を誘導する卑しい技、"貴族殺し"と呼ばれる技であった。

 その技に引っ掛かったが最後、正しい型通りに振るわれた貴族の腕は巧みに置かれた敵の剣先に自分から突っ込むこととなる。

 プライドの高い貴族程よく引っかかる剣だ。


 淑女の振るう剣とは少々言い難いが……


「悪ぃけど、お前にこれ以上時間かける訳にもいかねえんだわ」


 私の後方数十m、息も絶え絶えで砂海に横たわる私の相棒が決着を待っていた。

 今の私に自分の都合、自分の矜持で斬り合いに興じられるほどの余裕は無い。


「そんじゃ、さっさとお前の(ツラ)拝ませてもらおうか」

「……くっ!」


 私は懐のダガーを引き抜き、なおも抵抗の意思を見せるソイツの黒衣を切り捨てた。


 切り払われた黒衣の下。

 そこには手首を切り落とされ、神器を取り落とし跪くロン毛王子フリント・ゲータの姿があった。


 数十分前に市街で出会ったあのロン毛王子が醜く顔をゆがませながらこちらを睨み跪いていた。


 神器を用いて各地を襲っていたのは、この王子様本人のようであった。

 それは間違いなかった、間違いなかったのだが、ただ……


「なんか、お前、デカくなってね?」

「……」


 なぜかソイツは、前に会った時よりもなんだか体全体が肥大化してた。

 身長はさほど伸びてはいないが、体重は倍近く増えていて、ドワーフのように全身を筋肉の鎧で纏っているかのような変化が見受けられた。

 神器による影響……だとは思うのだが、なんだかそれ以外の何かがあるような……?


 少し考えてみるが、答えは出なかった。

 イリスなら何かしらの答えを得られるのだろうけど、私には無理そうだ、一旦置いておこう。

 今はとにかく時間が惜しい。


「まぁいいや、おい王子様よ、殺されたくなきゃ質問に答えろ、お前どうやって神器を手に入れた?」

「……」


 私の問いかけに、片腕を失い砂の海に伏したロン毛王子は、少しだけ沈黙した後。


「前の所有者が、僕の母が、自ら首を斬り神器を差し出してきた」


 やがて絞り出すように声を出した。


「……母が、自分で?」

「疑うなら僕の側近にでも聞け、その場に居合わせた者はまだ燃やしていない」

「まだ燃やしてない、ねぇ……」

「この国の貴族は皆腑抜けてしまった、和平などして限りある資源を分け合うなどバカげている! 戦って奪い合う事こそ正しい選択なのだ!」


 そして、興奮する王子様はついには聞いてもいないのに自分の行動を正当化しはじめた。


「あー、そういう正しいとか正しくないとかは私に言わんでくれ、それを決めるのは部外者の私じゃねぇ」


 その手の話をするつもりは無い、他所でやってくれ、そんな言葉が私の口から出かかるが……


「あ、ちょうど当事者たちが来たな」

「は?」

「ほれ、お前の後ろだ、後ろ」


 その時、私の視線の先、王子の背中方向、戦いの余波ですっかり更地と化した、廃墟の連なる街道。

 そこに、都合のいい事にちょうど当事者達がこちらに向かってくる姿があった。


「言い分があるならアイツらに言え」


 それは人間やドワーフ、そして獣人の者達が数名の集団を形成している人だかりであった。

 全員が身なりのいい格好をして護衛を数人侍らせており、貴族階級なのだろうというのが私でもすぐに理解できた。

 

 そしてなによりも、その集団の先頭に立っているのは見知った顔。

 身長170㎝前後、赤毛のショートカットで服装はクロップドジャケットとロングパンツ、種族は人8割猫2割程の獣人の女性。

 エリザベス・マクダネル、姿を消していた私の友人エルザの姿がそこにあった。


 何をしているのか、聞かなくてもよく分かった。

 エルザがこの国の要人を率いて、ロン毛王子が神器で私達に襲いかかる一部始終を直に見せて証人としていたのだ。


「あっ……あの獣風情が……っ!」

「お前が蒔いた種だろ、最後まで責任とれよな」


 エルザが連れて来た者達の中で特に位の高そうなのは四名。

 沈痛な面持ちで目を伏せる人間の貴族、心ここにあらずといった様子のフレズのおっさん、何も言わずただ王子を睨む見知らぬ獣人と、それに加えてヒステリックに喚く人間の女性。

 いずれも、王子に身内を殺された者だろう。

 その貴族達が下す決断は私でも何となく察せられた。


 公開処刑か、各部族による私刑か。

 どう転んでも毒酒による賜死すら許されないだろう。


「よう、付き人君、終わったみたいだな……」

「フレズのおっさん!」


 そんな事を考えていると、貴族集団から一人、筋骨隆々なドワーフの男性がこちらに近づいてきた。

 見知った顔であった。

 今回私に手助けをしてくれたドワーフの頭領フレズョーブルだ。


「その王子の身柄は俺らで預かっとくよ、後の事は任せてくれ……」

「そうか、じゃあ頼むけど……」

「けど、なんだ?」

「いや、なんか、おっさん元気ないなって、何かあったのか?」

「別に何でもねえよ、ただ、この糞ロン毛のせいで、この先もしかしたら和平が無かったことになるかもなーって、そんな風に少し気が滅入ってるだけだ」

「……なるほど」

 

 考えてみればそういう結末を迎えたとしても不思議では無かった。

 四年前まで殺し合いをしていて、それがようやく終わったと思ったら和平を裏切る形で各種族を襲ってたやつがいて、しかもそいつはこの国の王子でした、というのが今回のお話なのだから。


 ただ、そればっかりは私にはどうにもできない事だ。

 この国のこれからは、この国に住む者にしか決められないのだから。

 私にできるのはもう、平和に事が済むことを祈るだけ。


「それじゃ、行くぞ糞野郎」

「……」


 そんな会話を聞いていたか、ロン毛王子はどこかすがすがしいような表情で、大人しく連行されていく。

 なんだか勝ち逃げされたような気がして腹がたったが、まぁ負け犬の遠吠えと流しておこう。


 今はそれよりも。


「エルザ!」

「ニーナ……!」


  連行される王子に背を向けて、私は集団を先導していたエルザに向かって駆けだした。

 エルザはそんな私を見て少し気まずそうに顔を背けたが、私は構わず話しかける。


「イリスがヤベぇんだ! 誰か治療ができる奴いないか!?」


 何よりもまず、それが優先だ。


「それならちょうど、医療の心得のある侍従が」

「いるのか!? じゃあ、あの砂丘の所に! 早く!」

「大丈夫、もう向かわせてある……」

「アイツ呼吸が荒くて、もうだいぶヤベェんだよ!」

「うん、だからね」

「とにかく急いで」

「話をきけぇええ!!」


 目の前でエルザに大声で叫ばれ、ようやく私は自分が冷静さを欠いている事を自覚した。

 どうも私は友人を失うかもしれない事態に、とても恐怖していたようだ。


「大丈夫だから、イリス様の所にはもう治療部隊が向かってるから」

「そうかよかった……ってあれ? エルザ? エルザがいる!?」

「え、今!?」

「いやエルザがいるってのは分かってたんだよ、でもエルザがいるって理解したのは今っていうか!」

「落ち着いて! 何言ってんのか全然分かんないよ!?」


 そして、もう一人の失いたくない友人と、再会できたことに再び気が動転し始めていた。


 エルザの目にはまだ復讐の炎が燃えていた。

 それがより一層、私の心に嫌な影を落とす。


 王子は正当に裁かれて、恐ろしき火の神器は所有者を失いガラクタと成り果てた、これで全てが終わったはず。

 なのにエルザはまだ、何か決意を秘めた目をしていた。


「って事はエルザがこの貴族を連れて来たんだな?」

「いや、なにが"って事は"なの!?」

「助かったよエルザ、おかげでイリスは助かったし、私は逆賊にならずに済んだ!」

「え、あ、うん……それに関しては、お礼を言われる筋合いはないよ……ウチはただ、ウチの復讐に貴女を利用しただけだからさ」


 私の数m後方、赤い鮮血が砂を濡らす中、青い炎を携えた神器が今もなおそこに放置され佇んでいた。

 フレズのおっさんはロン毛王子を回収の際、ソイツは持って行かなかった。


 王子と一緒にそれを移動させるのはマズいという判断なのだろうが、それがかえって私によくない予想を脳裏にちらつかせた。

 今、私の前にいるエルザが、話している間に何度も其方に視線をやっているように見えて、仕方なかった。


 その事を考えないように、私はエルザに捲し立てていた。

 神器の炎を目の当たりにした最初の日と同じように、今度もあの時と同じように、きっと上手くいくと信じて。

 とにかくエルザに話しかけた。


「でもこれで全部終わりだよねエルザ、だから、一旦街に戻って、そして休もう、ね?」

「ううん、まだ終わりじゃない、まだ、終わりじゃないんだよニーナ」

 

 だが、私の希望は無残に砕かれた。

 まだ終わりじゃない。

 じゃあ、エルザはこの先何をするのか。


 後に続く言葉は頭の悪い私でもなんとなく予想できた。

 でも、考えたくなかった。


「前にも言ったと思うけど、ウチはセウェルスの娘、神器を継承する資格がある、だから」

「……言っても無駄だと思うけどそれでも言わせてくれ」

「多分、そのお願いは聞けないかな」


 どうにかどうにか先延ばしにして、その時が来ないよう無駄な抵抗を続けたが。

 それは全て徒労に終わった。


「お願いだエルザ、その後ろ手に持ってる武器を捨ててくれ、私はもう友達になれるはずの奴を斬りたくない」

「そこをどいてニーナ、私はその神器が欲しいの、ウチの家族が味わった苦しみを晴らすには、まだこんなんじゃ足りないんだよ!」


 レイラは私に警告を無視しこちらに短剣を向けていた。


 昨日の夜、剣はさっぱり分からない、などと発言した者の構えとは思えない。

 私の学んだ正統剣術と同じ、そしてあのロン毛王子と同じ、とても綺麗な構えでこちらに剣を向けていた。


 一朝一夕にはできない、積み重ねた努力の跡がその構え一つだけで察せられた。

 エルザはきっとこの時のために、ずっと嘘を吐いていたのだ。


「ウチと同じなら、わかるでしょ? 故郷を滅ぼされたなら、わかるでしょ、邪魔しないで」


 そしてあのロン毛王子と同じように、自分の行動を正当化するような言葉がエルザから放たれる。

 悪魔ピシウスによる影響が、ありありと見て取れた。


 もう体内に奴はいないはずなのに、エルザの復讐心はどんどん増幅しその良心を侵食していた!


「その神器があれば、ウチの復讐は叶う、あの王子が大事にしていたものを、あの王子の行いで利益を得ていた奴らを全部、滅茶苦茶にしてやれるんだ!」

「まさか、人間の街を、首都を燃やすっていうのか……!」


 高く昇った太陽が傾き始めた廃墟群。


「それ以外に、何があるの?」


 私の後方で青い炎を湛える神器は、すでに持ち主を失ったというのに。

 次なる主を待つかのように未だ神々しく光り輝いていた。


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