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誰とでも付き合う『快諾姫』が俺の告白を断った理由  作者: 林檎月


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7話 協力依頼

 昼休み。俺は中庭のベンチに腰掛け、弁当箱を広げる。


 おかしくないか。朝、俺にみんな謝ってたよな。割と良い評価になってたよな。なのになんで俺の机に居座って談笑してる奴がいるんだよ。卒業までとはいわないが、今日くらい人気者扱いしたって罰は当たらないぞ。

 ラブレターくれたり、差し入れくれたり、それくらいしてくれたっていいじゃないか。現実世界でそんなことが起きるのかは知らないが。


 俺は若干不貞腐れながら、総菜のチンジャオロースを口に入れる。


 ピーマンの苦みと豚ロースの旨味。そこにオイスターソースの濃厚な味が絡み合い、噛むほどに口の中へ広がっていく。美味しいなこれ。


「あれ、校内1の人気者がこんなとこで何してんすか?」


「見ての通り、昼ごはんの最中だ」


「てっきり今頃みんなに囲まれながら食べているものだと」


「ノーコメント」


「…さすが先輩っすね」


 呆れた表情で呟く春野。この場合、決して誉め言葉ではないだろう。というか、俺の何を知ってるのだお前は。


「それで、どうっすか。評判は少しはマシになりました?」


 すとんと隣に腰かける春野。


「まあそれなりにな」


「じゃあこれで取材手伝ってくれますよね?」


「どうしてそうなる」


「言ったじゃないすか。取材の条件として先輩を記事にするって」


「そうだったか?」


「そうっすよ!」


 むくれた顔でこちらを覗き込んでくる春野。俺は思わず視線を逸らす。くそ、可愛いなこいつ。


「こほん」


 俺は咳払いをして意識を切り替える。そういえば、確かにそんなことを言われたような。自分が記事にされた衝撃ですっかり頭から抜け落ちていたが、元々は俺に取材を手伝わせるために提示された条件だったな。

 まあ別にこちらが受託したわけでもなし。断っても構わないのだろうが、問題がないわけじゃない。――春野の記事に俺は乗っかってしまっているのだ。


 あの記事は多少事実な部分もあるが、ほとんどがでたらめだ。もし掲載された直後に「これは違う」と指摘していれば、何の問題もなかっただろう。しかし、俺はそれをせずむしろ受け入れてすらしてしまっている。つまり、共犯と言えなくもないのだ。

 それに、記事によって悪評もかなり鳴りを潜めた。プラスの面を享受している以上、春野の提案だけ退けるというのは道理が通らないだろう。…仕方ないか。


「分かった。手伝うよ」


「そう言ってくれると思ってったっす」


 春野はぱっと顔を輝かせにかっと笑うと、自身の弁当に手を付け始めた。


「それでですね、さっそく取材というか尾行を手伝ってほしいんすよ」


「尾行?」


「そうっす。快諾姫こと夏川先輩の謎を解く為に彼女の生態について知る必要があると思うんす」


 まあ一理ある気がしないでもないが。それで尾行が必要なのか?

 俺は懐疑的な目を向ける。


 すると春野は、待ってましたとばかりに人差し指を立てた。


「いいっすか。気になることを解き明かすには、1部分だけを調べるだけじゃダメなんです。その人が何が好きで、何が嫌いなのか、どういう人生を送ってきたのか、将来何になりたいのか。その人の全部を知らないといけないんす」


「なるほど」


「その為には聞き込み、考察、現地調査、色んなことをする必要があるんです」


「今回の尾行もその一つだと?」


「そうっす」


「犯罪じゃないのか?」


「…」


 さっきまで流暢に動いていた春野の口が、ぴたりと止まった。そして、何も聞こえなかったとでも言うように、すっと明後日の方向を向く。


「おい」


「…」


 俺は呆れ気味に小さくため息を吐くと、彼女に視線を合わせ諭すように言葉を掛ける。


「まあその人自身を知るというのは一理あるとは思う。だけど、世間や何より取材対象に迷惑が掛かるのはダメだ」


 口を尖らせむくれっ面の春野。俺は構わず説教を続ける。


「別に取材を辞めろって言ってるわけじゃない。ただ、線引きはしないといけないって話で」


 先輩として、何より大人としてここはきちんと言っておかなければならない。ダメなものダメなのだと。人に迷惑を掛けてはいけないのだと。


「…バイト代出します」


「…」


 俺はやれやれといった様子で肩を竦める。まったく。舐めてもらっては困る。俺がその程度で動くと思ってるとは。小中高全ての通知表に真面目と書かれた俺が、そんな世間様に申し訳が立たなくなることやるわけないじゃないか。少しは考えてから言ってほしいものだ。


 やれやれだまったく。…はぁ。さてと。


「行くか」

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