うつされた学園番外編・その名はサンジェルマン・4
で。
サン=ジェルマン氏によりますと。
「まぁ、君たちが考えるほどに人ってもんは馬鹿じゃないって言ってあげたいんだけどさぁ…」
これはフランシスカさんに聞いた話ですけどね。
連邦世界での人間の愚行を枚挙に挙げるとキリがないそうですが、そもそも大地震が起きる前のメキシコや中米南米の惨状を考えると、痴女皇国世界の女裂振珍帝国の統治に近い状態に持って行った理由はイリヤさんならわかるだろうとも言われました。
まぁ、ぶっちゃけロクなもんじゃなかったですね…そして、痴女皇国世界の明日輝や魔屋も、これまた鎮圧と統治のお手伝いに行きましたからよく存じてます。
例えば、魔屋はいけにえの儀式が絶対に必要だと言い張るばかりの頑なな態度を崩さない者、都市国家の指導層に多かったのです。
で、魔屋の上の明日輝は明日輝で、生贄に捧げるための人質確保について、周辺国家と限定的な戦争を繰り広げた他、淫化帝国同様に結構な重税を課していた実績がありましたし…。
連邦世界ですと、淫化でも明日輝でもスペインが侵略した当初、重税や圧政からの解放者として征服者を歓迎したとかいう風潮もあったそうですからねぇ、いやはやなんとも。
(リュネだと無抵抗は死、でしたからねぇ)
そうです。魔族は許してくれません。
絶対に。
この件は後々にロッテにも文句を言いましたが、兵隊魔族というものは基本的にそういう風に出来ているのだそうです。
ただ、無意味に突撃されても困るということで、魔毒の輻射などで強い戦士がいるのを察知した場合は味方の数などを加味して撤退したり身を潜める程度の知恵はあるとも。
(それと、たいていは頭脳役の魔族が随伴していたの、お前たちも知ってたろ…そいつを倒せば本能的に帰巣を始めるから総崩れになるっての…)
まぁ、知ってましたけどね。
ただ、その制御役ってんですか。
強 い ん で す よ 。
そりゃもう、簡単には倒させてくれません。
ただ、そいつがいる場所って大体の見当がついてますので、私とかエマネとか剣豪連中が遠距離狙撃でダメージを与えるわけです。
これに成功すれば、総退却指令が出るみたいですから楽なのですが、問題は落とし切れなかった場合ですねぇ。
まぁ、現場では簡単に物事は運ばないという事でしょう。
(お前が知ってるかどうかは別だけどな、リュネ世界のやばいものを巻き添えにしてでも撃ち落とそうとしてたろ…聖剣の出力制御がかかった時がそれだ…)
え。
つまり、私は知らずのうちに聖剣の射線の魔族の先にあるものを壊そうとしてたとか、そう言いたいのですかロッテ。
(逆に私たちでも制限があったぞ。例えば魔毒以上の猛毒を噴射するとか、あるいは酸やもっと危険な液体を撒き散らすとかいう魔族は生産禁止だ…)
なんですかそれ。
(魔毒が無くなったことを考えてみろ。それと真逆で、魔毒が濃すぎれば我ら魔族とて死に果てる…つまり、お前たちを根こそぎ滅ぼす部類の魔族を放つことは流石に躊躇われたのだよ…)
あ…なるほど。
連邦世界の軍隊だと遠距離から目に見えない何かを放って相手を動けなくしたり非常な苦痛感を与えて頭をおかしくさせたり、あるいは耳を聞こえなくするとか視界を奪うとか、色々な手口を使うのは知っております。
その一つに、毒の霧や毒の空気を放つものがあることも。
痴女種となった私たちには、怪しげな薬の売り買いに手を染めて悪の道に落ちた兵士が使ってきたそういう部類が通じませんが、普通のリュネ族のままじゃ、たまったものではなかったでしょう。
しかし、知恵が回ると言っても、そういう卑怯な知恵の回り方をするのが人というものかも知れません。
何せ、メマーラとか、更にはマーモル妃やタークマ王子のようなのがいましたからねぇ、リュネにも。
で、このイリヤとしましてはですね。
鼓腹撃壌と言うのですか、満たされた世の中を目指すのはよろしいのですが、満たされたら満たされたでろくなことにならなかった富豪の成れの果てを中米でを見ておりますだけに、ある程度は人に課題を与えるほうが結果的によろしいのかもという感慨を抱いております。
ま、だからこそ聖母教会の荘園では男は奉仕偽女種だったり、女は百人卒未満の女官、特に特任女官のように特定条件を満たす努力を怠ると寿命に影響が出ることも考えられたのでしょう。
(小人閑居して悪を為すってやつだよ。だから聖院でも痴女皇国でも不労は不徳だってことにしてるからね…)
(マリアリーゼ。僕に向ける視線はなんだ。僕は暇じゃないぞ)
(いや、おっさんは絶対にサボってる。役員だからって好き勝手していいもんじゃないぞ)
(あのな、それ、マリアリーゼにも返ってくるから。役員として名を連ねてる企業、何社ある)
(あたしは分体を出せるからね。おっさんみたいにあっちこっちに遍在するような技とはちょっと違うけど)
へぇ。
なるほど確かに、このサン=ジェルマンなる御仁の技、ちょっとでも何かを考えつける者であれば、それは一体どういうものなのか興味を惹かれるでしょう。
例え、それがぺてんや詐欺の部類であったとしても。
「そうだねぇ…マドモアゼル、君に少しだけ知恵を授けてあげるとしようか。生物ってのは全てが進化の頂点を目指すわけでもないんだよ。むしろ退化に思えるようなことになる場合もあるんだ。例えばマリアリーゼはともかく、マダム高木は元々地球人の平均から少々飛び抜けた存在だろ」
「まぁ、うちのおばはんは体力とか反射神経には割と自信ある部類だしなぁ、見ての通りにデケぇし」
「で、その娘たるマリアリーゼなら知ってるだろ。君の母親は人類の頂点を目指していたかね?」
「うんにゃ。むしろ今でも色々放り出して逃げたくてウズウズしてる部類だな」
「つまりね、マドモアゼル・イリヤ…全ての人間は高みを目指すように出来てないんだよ。ならさ、君たちが進めている西方とやらの種族の育成にもさ、妥協点を設けてやるのも方策の一つじゃないかな? ほら、いい加減は良い加減とか日本語で言うそうじゃないの…」




