うつされた学園番外編・その名はサンジェルマン・2
「こらこら、そういうことを彼女たちにばらしても意味があるのかよ…」
(おおありでしょう…そなた、すでに自身の拠点をここな星を巡る月にうつしておいででしょうに…)
え。
「まぁ、もうちょいあたしらに付き合ってもらわねぇとならないからねぇ」
「その少しがどの程度か、君のいう少しが人間の数万年に該当する場合もあるだろ…」
どういうことでしょうか。
ともかく、人には想像もつかないような事をやってのけられるお方なのは理解できましたが、このサン=ジェルマンなる御仁、果たして人をどこに導こうというのか。
とんでもない技の数々をお使いになるのは、リザンに提供した思い鋼の量からも知れます。
普通ならあれだけ集めるのにも、大変な労苦を要するはずなのですから。
しかし…え。
当のリザンの身体に、動きが見られないのです。
いえ、メリエンにも。
「あー、これね、あたしでもできるけど、このおっさんが得意なんだよね…イリヤさん、他の人には聞かせたくない話をする時にさ、当事者しか時間を進められないようにする方法があるんだよ…今は正に、それやられてると思ってよ…」
だ、そうです。
マリア様によれば、今からの話はメリエンやリザンはもちろん、他のリュネ出身者にもあまり聞かせたくない部類の模様。
「でさぁ…ここに来て貰った本当の理由はさ、聖環にも使ってる思念金属の供給の件だけじゃなくてさ、今進めてる西方族のダークエルフ化についてのご意見を頂きたかったからでもあるんだよね」
「んー、そうだねぇ。例えばさ、その剣だって、自分で自分の能力を向上させるだけの余地を与えておけばこうもなるって見本じゃない。そして生物の中でも自己進化を重ねて行ったからこそ今の君たちもいるわけでしょ。僕があれこれと意見を述べる必要なんてあるのかなぁ」
と、マリア様への返答の際に、すっとぼけたような表情と態度を見せるサン=ジェルマン氏。
まぁ、この方の本質が段々と分かってきた気がします。
つまりこの方、元来は責任感とか義務感とかいったものに頓着しない性格のようなのです。
例えば、先ほど初代様が申された「聖剣や爆炎剣、はたまた魔剣のような危険なしろものを武器するならばリュネ世界を破壊しない保証はないだろうに、なぜ与えたのか」という件。
少しでも、私どもへの配慮があれば、あれほど強力なものを与えずとも…いえ、そもそも我らと敵対したり、あげく我らを食う存在であった魔族のようなしろものを生み出す必要がなかったのではとも思えます。
「そういう考えに辿り着くだけでも君の進歩ってやつだよ、マドモアゼル。僕の同類も君たちリュネ族に相応の能力を付与した甲斐があっただろうねぇ」
と、頂いたお返事だけでも「無責任」という文言が相応しいように思えるのです。
とにかく、何かにつけて義理だの責任といった事を押し出して話をすること自体がすれ違いになる。
そればかりか、普通の考えの者ならばそのようないい加減な態度に怒りすら覚えるでしょう。
ですが、思い出して頂きたいのです。
怒っても、戦って勝てる相手なのか、を。
そう…例えばリュネ族にはこのような考えの者はほぼ、皆無でした。
この方のような考えでは、魔族とのいくさに邪魔なだけ。
まず確実に、海岸村送りです。
ですがしかし、れんぽう世界では怪しげな薬や酒に溺れて無気力怠惰な暮らしを送る者や、まさしく酒食、いえ酒色に耽り遊び暮らす者が存在するとフランシスカさんからも見せられました。
(もっとも、そういう連中は今や私の管理下となったアカプルコやカリブ海のリゾート地におびき寄せて、財産や人脈をそっくり頂くのですけどね…ほら、痴女皇国の技術なら、そう悟られずに人を入れ替えてしまえるでしょう…)
ええ、これを聞いた時は人の道に外れた話ではあると思えたのですが、実際にそういう富裕者たちの生態…特に、あまり行状のよろしくない者の実態を見せられては「そりゃ、こいつらの握ってる富やら何やら、こちらで頂く方がもっと有益に使える考えになってもおかしくはない」と考えを改めるに至っております、わたくしイリヤ。
「ええとね。このおっさんが神種族に該当するかどうかは別としてね、例えば異なる世界同士で争わせるのに、巨大兵器を与えて決戦させてさ、負けた世界を消すとか…あるいは人の希望を叶えると見せかけて、最後は人間じゃ勝てない強大な魔族に変身させて世界を破滅させるとかね、そういう分岐を設けて遊ぶとか賭けるとか、あるいはその動きを餌にするような種族がいたとしようよ」
「人聞きの悪いことを言うなよ。僕の目指すのは…ちょうどいいもん、マリアリーゼも関わってる国の人間が発明してるじゃないか、ほらこれ」
と、アレが入りそうな筒をどこかから取り出して私に見せる、サン=ジェルマン氏。
「こいつをこう覗きながら回すのさ。ちょっとやってごらん」
と、見本を見せてから私に手渡すのですが。
「あー、カレイドスコープ…イリヤさん、とりあえずおっさんがやったようにやって覗き込んでみて」
マリア様にこう言われては、致し方なく。
で、右目に当ててくるくる回してみますと…あら。
筒の中で、色とりどりのさまざまな模様が、筒を回すにつれて変化していくのです。
これが何の役に立つのかという思いはともかく、一体どのようなからくりが仕込まれているのか。
無駄といえば無駄なしろもの。
しかし、何かを思い起こすような…おもちゃという存在でしょうか。
「そうだね、子供のおもちゃといえばおもちゃなんだけどね、万華鏡」
「ふふふ…そしてね、現実の世界もこれに近いのさ。その筒の動きのように、あるところで変化して別の模様を作るようなバリアシオン…世の動きの分岐が生じる際の何かを利益にしてる者も、世の中にはいるって訳ですよ、マドモアゼル」
そう…恐らく、サン=ジェルマン氏からすれば、私など子供のようなもの…いえ、絶対に確信できます。
マリア様の配下になっているからこそ、まだ、こうして話が出来る存在なのだと。
元来ならば、こうした世の成立する途方もないからくりの一端を、拝むことすら叶わなかったのでは。
聖剣にしても、恐らくはこのサン=ジェルマン氏やその一派が目論んだ「世の動き」を実現するために誰かが仕組みを作り上げて、私どもの間で聖剣として仕立てるよう仕組まれたのでは。
ええ、こんな話は絶対にメリエンやリザンはもちろん、西方の者にも聞かせるわけにはいかないでしょう。
私を含めて、元来はこの方の「戰議盤」遊びの駒だったのでしょうけど、駒として扱われていたことを知れば、腹を立てると思いますからね。
(リュネにもショウギやイゴ、チェスとかいうものに類似するものがありました…しかしそれは、実際のいくさでの動きを考えさせる知恵をつけるためのものです…決して子供に遊ばせる余裕がある世界で生み出されたものではありませんでした…)
そう、もしも私がもう少し気が短ければ、リュネの世を長く続くいくさに駆り立てた張本人あるいは関係者として、このサン=ジェルマン氏を斬るか焼くかしていたと思うのです。
しかし、一方でリュネ世界を築き上げて人を残そうとした。
この諸々、矛盾しておるといえば矛盾しておりますが、単純に大悪人大罪人と断罪するには、もう少し色々な事柄を見聞しても遅くはないと思えたのです。
それに…素直に戦って、勝てる相手ではありませんし。
「おいおい、マドモアゼル…君を駒にしているのはマリアリーゼだって、そしてナンムもそうだぜ…僕だけを悪人に見るのはやめて欲しいもんだよ…」
ですが、初代様の誕生にも関わった可能性すらある御仁でしょう。
マリア様、言ってますよ。
あんたが諸悪の根源と言えば諸悪の根源だって。
「部下の躾がなってない!なってないぞ!」
「まぁまぁムッシュ・サン=ジェルマン…躾がなってないと言えば、私だってそうですよ」
と、申されるのは雅美さん。
「そりゃ連邦世界のサン=ジェルマン伯爵の行状だけでも詐欺師ペテン師とか色々に言われた謎の人物なのよ、イリヤさん。実在していたのは間違いないと思うんだけど、本人と会った人物のことごとくが不可思議な記録を残してるようなもんだからね…」
つまり、雅美さんご自身も「この人物の実力はともかく、神とか絶対存在とかに該当して、恐れ敬い崇め奉る存在かは甚だしく疑問」と考えておいでなのです。
ああ、なんて信用のないお方。
「それこそ、うちのおばはんと同じなんだよ。あんたの過去の行状が招いた評価だ、甘受しろってやつさ」
ええそうです。
なんかこう、気の毒にも思えますが、この方の普段がこれであれば、よくも今までそれなりに取引なり何なり、他者とやってこられたものだと。
しかし、ここで私は思い至りました。
他ならぬ聖剣に、です。
この聖剣の威力を知る者としては、こんなものを与えられただけでも普通は何かしらの考えを思いつくでしょう、とも。
つまり、他者を支配する道具に使える。
そして、思い鋼は聖剣や炎剣だけではなく、リュネ世界では占器などにも用いられております。
何より、痴女皇国でも聖環や墓所寝台、あるいは聖院から続くあの本宮の巨大な建物や、その背後にそびえる堤に使われておると聞かされましては。
これならば、いくらご本人があれでも、その尋常ならざる力や示された物を手に入れようと人は画策するでしょう、とも。
ええ、この方が詐欺師とかぺてん師とか言われる部類としても、その小道具は小道具としてはあまりに恐るべき物であると思えるのです。
「だから連邦世界の前の前の事務局長もさ、そしてあたしのジジイの更に先祖もコロっといかれたんだよ。MIDIシステムはもちろん、アヴァロンって巨大な移民船や軌道エレベーターやら色々提供されちゃ、ね…何より、地球からNBまで飛んで来れたり、あるいは瞬間更衣なんかに使ってる転送技術のことごとくはさ、このおっさんの提供した物なんだからね…」




