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第64話 隠し金を教えた男に、面会人が来た

「金の場所は話します。だから、残っている刑を減らしてください」


 レグスは机へ身を寄せ、俺の顔を見た。


 廊下の灯りが戸口から細く差し込み、膝に置いた両手を照らしている。帰還した者たちの夕食も終わり、管理棟には当直の足音がときどき響くばかりだった。


「その約束はできん。刑を変える権限は、監獄長にはない」


「俺を取りに来て、看守まで射た連中です。金を見つけられたら、捕まえる手掛かりにもなるでしょう」


「捜査への協力として、何を話し、何が確認できたかは報告する。それを裁定所がどう扱うかまで、俺が先に決めることはできない」


 レグスは唇を結んだ。


 すぐ隣では、グラッドが筆先を止めて待っている。レグスはそちらを見てから、椅子へ背を戻した。


「話すだけ話して、何も変わらなかったら、俺が損をする」


「知らないことまで話せとは言っていない。だが、盗まれた金が残っているなら、持ち主へ返すために確かめる必要がある」


「俺が話したと知られれば、あいつらは黙っていません。ここで話す以上は、守ってもらわないと困る」


「お前を襲った連中へ渡すつもりはない。話を聞く前から、看守が道でそう言って止めたはずだ」


 レグスは返事をせず、扉へ顔を向けた。


 俺は、盾を構えて下がってきた看守と、血に濡れた袖を思い出した。あの場で身を張った者は、レグスが役に立つ情報を持っていると知っていたわけではない。


「保護に必要な扱いはする。ただし、外部作業には出さないし、ほかの囚人と同じ房へすぐ戻すこともしない。事情を知る必要のある者には、お前の話を伝える」


「俺が話したと、そこら中で言われるのは困ります」


「公表はしない。だからといって、俺ひとりしか知らない形で捜査を進める約束もできん」


 グラッドが水の杯を少し押し出した。


 レグスはそれを取り、口を湿らせる程度に飲んでから、ようやく二人の名を話した。


     *


 道で刃物を持っていたのは、ダスとリノ。


 どちらも、レグスが捕まる前から付き合いのあった男だという。弓を射た者については、姿を見ておらず分からないと話した。


「荷運びの途中で、商人の金を盗みました。運ぶ日と、誰が見張っているかを、俺が二人に教えた」


 レグスは杯を机へ戻した。


「俺も分け前を受け取りました。ただ、三人で捕まったわけじゃありません。あいつらは逃げて、俺だけが捕まった」


「今日お前を連れ去ろうとした理由も、その金に関係するという説明だったな。そこを、推測と実際に聞いた言葉に分けて話してくれ」


「あいつらが今日どう考えたかまでは、知りません。だが、捕まる前に、俺が取り分を抜いたと揉めていました」


 持ち逃げしたつもりはなかった、とレグスは付け足した。


 それを聞いたグラッドが、紙から顔を上げる。


「盗まれた側へ返すために、分けておいた金ですか。それとも、自分が後で使うために」


 レグスの指が杯の縁を擦った。


「後で、使うためです」


「その説明で記録します。持ち逃げしたつもりがなかったというのは、あなたから二人への言い分として扱います」


 グラッドは淡々と筆を動かした。


 黒塔へ届いている裁定の摘要には、レグスが運送中の金を盗む手助けをし、分け前を得たと認められたことが記されている。今の話には重なる部分があったが、二人の関与や未回収の金の所在までは、この場で確定できなかった。


「隠したのは、川沿いの古い粉挽き小屋です。使われなくなっていた方で、石の土台に、欠けたところがある」


 レグスは机の上で、指を折り曲げて位置を示した。


「鉄の小箱です。布で巻いて、奥へ押し込みました。だが、今も残っているかは、俺にも分かりません」


「小屋へ行く道を、分かる範囲で書いてくれ。外へ出して案内させるつもりはない」


 紙を渡すと、レグスはしばらく白い面を見ていた。


「俺が行かないと見つからなければ、また連れていかれますか。あいつらが待っている場所へは、行きたくない」


「見つからなければ、場所の説明から確かめ直す。今夜ここで、お前を外へ出す話はしていない」


 レグスは筆を持ち、まず川の線を引いた。


 小屋の位置を書こうとして手を止め、川を少し長く描き直す。俺たちは急かさず、彼がどこまで覚えているかを聞いていった。


     *


 レグスを一人房へ移した後、医務室へ寄った。


 負傷した看守は、寝台へ座っていた。名はセド。袖を切り取られた上着が椅子に掛かり、その下に、乾いた泥のついた靴が揃えてある。


「事情は、少し分かりましたか。あの男が呼んだのかどうかだけでも、気になりまして」


「共謀したという裏付けは、まだない。盗まれた金のことで、襲った二人を知っているとは話した」


「金の取り合いに、俺たちが巻き込まれたわけですか。あんな道で矢を射れば、誰に当たるかも分からないでしょうに」


「本人の説明では、そうなる。二人の身元も含め、警邏と確認する」


 セドは包帯へ目を落とした。


 ラッセルが布を畳みながら、会話へ入ってきた。


「痛みで眠れなければ、我慢せず呼んでください。指先の感覚が変わったときもです。明朝、もう一度確かめます」


「勤務の話は、その後ですな」


「勤務を決めるためだけに診るわけではありません。今は傷の状態を見ています」


 セドは困ったように笑い、右手で上着を引き寄せようとした。俺が先に取り、寝台の脇へ掛け直す。


「残りの連中は、全員戻りましたね。道の途中では、後ろまで見えなかったので」


「二十人、全員戻った。お前が知らせてくれた藪の方角も、報告に残してある」


 セドはそこで初めて、長く息を吐いた。


 俺は感謝を伝え、勤務を外したことをもう一度確認してから、ラッセルへ後を任せた。


     *


 翌朝、町の警邏から二人が来た。


 昨夜のうちに送った襲撃の報告を受け、囚人と看守の証言を聞きたいという。俺とグラッドは、レグスの供述と、本人が描いた図を渡した。


 顔を知っている二人の名を話したことと、それが正しいと確認できたことは別だと添える。


 警邏の一人は図を広げ、川沿いを指で辿った。


「この辺りに、使われなくなった小屋はあります。ただ、本人が示している建物と同じかは、現地で確かめます」


「盗難事件を扱ったところへも、照会してくれ。裁定の摘要だけでは、回収済みの金や共犯者の確認まで追えない」


「ええ。隠した金を見つけても、昨日の襲撃がすぐに全部分かるわけではありませんからな」


 俺は頷いた。


 警邏はレグスへの聞き取りに入り、グラッドは看守側の報告を揃えた。道で見えた男の顔、持っていた武器、矢が飛んできた方角を、別々に確かめていく。


 俺も、何が見えて何が見えなかったかを話した。


 藪の中の人数は分からない。二人の男を見たのも短い時間で、服の色まで自信を持って言えるほどではなかった。


 俺の膝には、昨日転んだときの擦り傷が残っていた。椅子から立つと布が触れて痛み、道で一度も抜かなかった剣の重さまで思い出した。


     *


 外部作業を止めたことは、朝の配置と一緒に伝えた。


 食堂では、出発を待つつもりで早く食べ終えていた者たちが、空の皿を前に顔を見合わせた。


「レグスを出さなければ、残りは行けるだろう。俺たちは、あいつの金なんか知らねえぞ」


 一人が言うと、隣からも同意する声が上がった。


 俺は卓の脇で足を止めた。


「相手は道を塞ぎ、矢を射た。顔を見た者も大勢いる。レグスひとりを外せば、ほかの者は安全だと判断できる状況ではない」


「外の仕事へ出るつもりで、早く飯を食ったんだぞ。中へ戻れと言われても、今日の五枚は入ってこねえだろうが」


「仕事へ出られない日の賃金までは、いまの契約では約束できない。昨日働いた二十人分は、ハインにも確認している」


 男は皿を押しやりかけ、音を立てる前に手を止めた。


「俺が何かしたわけでもねえのに、こっちまで損だ」


「そうだな。お前が違反をしたから外すわけではない。安全の確認がつくまで、こちらの判断で止める」


「中の仕事へ戻るだけじゃ、金にはならないだろうが」


「今ある有償の仕事を、全員へ回せるわけでもない。その不満も含めて聞くが、今日の出発はさせない」


 男はまだ納得していなかった。


 向かいにいた囚人が「俺は、あの道を今日も歩くのは嫌だ」と言うと、今度は二人の間で空気が固くなった。


 看守が配膳の盆を下ろし、間へ声を入れた。


「出るか残るかを、お前たち同士で決める話にはなっていない。食器を戻した者から、今日の配置を確認しろ」


 俺もその場に残り、訴えをいくつか聞いた。


 全部が片づいてから動き始めたわけではない。文句を言いながら皿を運ぶ者と、黙って列へ入る者が、同じ戸口を抜けていった。


     *


 ハインは昼前に来た。


 小銅貨百枚と、警備・輸送費を別々に持参し、昨日の支払いを済ませる。それから、倉庫の続きをどうするか話したいと申し出た。


「工事そのものは、止め続けられません。町で人夫を探します。黒塔から人を出せるようになるのを待っていたら、屋根を掛ける予定までずれます」


「それは、そちらで進めてくれ。出せる日を約束できないのに、待ってもらうわけにはいかん」


「残っている期間の扱いは、契約書を見て、改めて相談させてください」


 グラッドが書類を取り出し、その場で結論を急がず、双方で確認することにした。


 ハインは、窓の向こうの中庭を見た。


「昨日、石の陰で、早く帰らせろと言われました。逃げるのかと思ったら、黒塔へ帰りたいという意味だった」


「俺も聞いた。だが、全員が同じ理由で戻ったと決めるつもりはない」


「それでも、戻してくれて助かりました。あそこに置いていかれていたら、私には二十人を守れません」


 ハインは席を立つ前に、負傷した看守へ見舞いの品を届けたいと言った。


 俺は本人の希望を聞き、品物も確認してからにすると答えた。商人は頷き、包帯に使う布でも役に立つかと尋ねてきた。


 その話は、ラッセルへ繋ぐことにした。


     *


 その日の夕方、警邏から知らせが届いた。


 古い粉挽き小屋の石の土台から、布に巻かれた鉄箱を一つ見つけたという。中には銀貨があり、数量と特徴を確認して、盗難の届けと照合するところだった。


 ダスとリノは、まだ見つかっていない。小屋に誰かが潜んでいた形跡を含め、周囲を調べているという報告も添えられていた。


 俺とグラッドは、レグスを呼んだ。


「小屋から鉄箱が見つかった。中の銀貨が盗まれた金と一致するか、警邏が確かめている」


 レグスは椅子へ座る前に、俺の顔を見た。


「では、俺が嘘を言わなかったことは、書いてもらえるんですね」


「説明した場所で箱が見つかったことは、記録する。ただ、中身と盗難事件との照合は終わっていない」


「俺が話さなければ、出てこなかった金です。裁定所にも、そこまで伝えてください」


「ああ。隠していたと話したことも、場所を知らせて箱が見つかったことも、両方を伝える」


 レグスは少し顔を曇らせたが、それ以上は言い返さなかった。


 グラッドが、本人の描いた図を見せ、警邏へ渡した内容に間違いがないか確かめる。


 レグスは川の線へ指を置き、小屋の位置を見てから頷いた。


「これで、あいつらが俺を連れ出しても、箱はないんですね」


「その箱は、もう警邏が管理している。ただ、二人が捕まったわけではない。何を考えて動くかも、こちらには分からん」


 レグスの指が紙から離れた。


「俺が、あいつらに分けずに隠した金です。それが先に取られたと知ったら……俺が話したと、思うでしょうね」


 俺は、今夜も一人房で過ごすことと、移動時の警戒を続けることを伝えた。


 レグスは食事のことも仕事のことも聞かず、戸口へ立つ看守を見ていた。


 その看守が移動を告げると、ようやく椅子から立つ。


「セドという看守が、お前を外へ出さずに済んだか、気にしていた」


 俺が言うと、レグスは足を止めた。


「あの人が射られたとき、俺は立っているだけで、動けませんでした。俺が呼んだと思われているんじゃないかと……」


「共謀の裏付けは、まだないと伝えた。お前の話も、ほかの目撃した者の話と合わせて確かめることになる」


 レグスは口を開きかけ、何も言わず閉じた。


 看守に促されて歩き出す背中を見送り、俺は警邏の報告へ目を戻した。


 鉄箱は見つかったが、道を塞いだ二人と、藪から矢を射た者は外にいる。


 報告を門の当直へ回そうとしたところで、戸口に看守が立った。


「レグスの親族だと名乗る男が来ています。確認が済むまで門外の控えで待たせていますが、面会を望んでいると」


 俺は紙をグラッドへ渡し、看守と一緒に門へ向かった。


 詰所の窓から、控えに座る男が見えた。小さな布包みを膝へ置き、閉じた門が開くのを待っている。


「面会は、まだ許可しない。まず、名乗った名前と来た理由を確かめる」


 俺が告げると、門番は頷き、手元の来訪記録を開いた。




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