第62話 十四日の処分と、最初の五枚
「懲罰房十四日。外部作業からは外す。処分が終わっても、自動的には戻さない」
俺が言い渡すと、ロイドは机の向こうで顎を引いた。
窓の外では、朝の作業へ向かう列が中庭を横切っている。靴音が遠ざかるにつれ、部屋の中で椅子の軋む音が目立った。
「門から出てねえだろう。金も盗ってねえ。それで二週間かよ」
「別人の名で返事をし、そいつを代わりに中へ残して、外へ出ようとした。看守に止められたから済んだという扱いにはできん」
「働いて帰るつもりだったと、何度言わせるんだ」
「外に出てから考えるつもりだったとも、お前は話している。その後の説明が変わっても、名を偽って門を通ろうとした行為は残る」
ロイドは舌打ちをし、机の縁から手を離した。
二人を別々に聞き取り、門の勤務記録と看守の報告を照合した。入れ替わりを認めた点は二人とも一致しているが、誰が持ちかけたかという説明は最後まで揃わなかった。
ダレンの申出だったというロイドの主張も、供述以外に裏付けはない。ただ、自分がダレンの名で外へ出ようとしたことは、本人も認めている。
凶器は見つかっておらず、制止された際に負傷者も出ていない。それでも、隣の囚人を押して前へ出ようとした動きまで含め、軽く扱う理由はなかった。
ギルの脱獄未遂へ科したのも、懲罰房十四日だった。そちらは荷袋へ隠れ、こちらは他人の名を使っている。
方法が違っても、外へ出る許可を得ていないというところは変わらない。
「ダレンは俺に代わると承知したんだ。そっちは、何もなしで済ませるのか」
「本人の関与に応じて処分する。お前に何日科したから、もう一人にも同じ日数を付けるという決め方はしない」
ロイドの目が細くなった。
「だったら、俺の事情も聞けよ。中で働いてたって、銅貨一枚にもならねえんだぞ」
「仕事や対価への不満は聞く。その不満を理由に名を偽れば、外へ出せるとは判断しにくくなる。今日は、その違反への処分を伝えている」
ロイドはしばらく俺を睨んでいたが、やがて戸口の看守へ顔を向けた。
「連れていくなら、早くしろ」
立ち上がるとき、椅子の脚が石床を擦った。納得した様子はなかったが、そこで同意を取り付ける必要はない。
処分の理由と期間を記録し、開始と終了の扱いを看守同士でも確認してから、房へ移した。
*
ダレンへは、懲罰房七日と、外部作業から外すことを伝えた。
ロイドとは別の時間に、別の部屋で説明している。ダレンは最初から座っていたが、日数を聞くと、膝の上で両手を組み直した。
「七日、入るんですね。俺が替わらなければ、あいつも出られなかった。それは分かっています」
「お前は、別人として働きに出ることを知って承知した。一日で戻れば誰にも損はないと考えたとしても、見逃せる行為ではない」
「逃げるつもりまで知っていたわけではありません。そこも、同じにされるのかと思っていました」
「そこは確認できた範囲で扱う。ロイドと同じ処分にしていないのも、お前がしたことと、確かめられた認識に違いがあるからだ」
ダレンは口を閉じ、机に置かれた処分の記録を見つめた。
俺は、作業を代わってもらった借りを持ち出され、断りにくかったと話した点にも触れた。
「その関係は、配置を考える際にも扱う。ただ、断りにくかったというだけで、お前が承知した事実まで消すことはできん」
「分かりました。……七日が終わったら、あいつと同じ班へ戻すのだけは、避けてもらえませんか。俺が何を話したか聞かれたら、また余計なことを言いそうです」
「当面は接触しにくい配置にする。脅されたり、話を合わせろと迫られたりしたら、その時点で知らせろ」
ダレンは頷いた後、袖口へ視線を落とした。
「借りを返すつもりが、仕事まで失くしました。自分で断っておけばよかったと、今なら思います」
言葉はそれきりで、しばらく衣擦れの音だけがした。
外部作業を再び認めるかは、処分を終えた後の行動や保安上の条件を見て判断する。少なくとも、いま請けている倉庫の仕事へは戻さない。
そこまで説明すると、ダレンは自分で椅子から立った。
*
昼前に懲罰房の区画へ行くと、配膳を終えた看守が、空の盆を重ねていた。
ロイドの房の小窓からは、煮豆の匂いが出ている。皿に残ったパンを見た彼が、俺の足音に気づいて顔を上げた。
「二週間ぶち込んで、飯は普通に出すんだな。前の黒塔なら、こんな皿は来なかったぞ」
「食事は減らさん。水も医務も必要なものは出す。十四日間、ほかの者と同じ作業や生活に戻れない処分だ」
「ひとりでいられる方が、気楽な奴もいるだろうよ」
「お前がどう感じるかまで、こちらで決めるつもりはない。ただ、昼間は医療上の理由がなければ寝続ける扱いにはしない。房内でできる作業はある」
ロイドが顎をしゃくった先には、整理用の麻縄が置かれていた。
「これをやってりゃ、十四日で終わるんだろうな。気に入らねえ返事をしたから延ばすとか、そういうのは御免だぞ」
「別の違反があれば、その行為について確認する。不機嫌な顔をしているというだけで、決めた期間を延ばしはせん」
ロイドは返事をせず、パンを千切った。
奥の房では、ダレンが寝具の置き場所を看守へ尋ねている。二人が直接話せないよう、房の位置も離してあった。
俺が区画を出ると、担当の看守が盆を棚へ置いた。
「以前を知っている者ほど、飯を減らさないと知ると、処分が軽いように受け取ることがあります。今のロイドも、こちらを試しているようでした」
「そういう返しはあるだろう。だが、あいつが強がっているのか、本当に一人の方が楽なのかを当てようとして、待遇を変える必要はない」
「作業を拒めば、そこは記録して上げます。食事の量を、その場の返事で変えることはしません」
「それで頼む。決めた期間が終わった後まで、担当者の腹一つで留めることもないようにしてくれ」
看守は頷き、房ごとの確認表を持ち直した。
食事や寝具を削らなくても、閉じた扉の中で七日、十四日を過ごすことになる。俺はそれを、軽い措置だとは思っていなかった。
*
その日の朝、門を出た二十人の中には、ギルがいた。
外部作業の禁止を条件付きで解除してからも、候補へ戻ることと、実際に配置されることは分けて確認してきた。医務、黒塔内の仕事、現場で任せる作業と警備を確かめ、この日は出せると判断した。
往路と復路は手枷を付ける。出庫する荷車や荷袋を扱う役には入れず、建設現場の中で土を運ばせる。
本人へ条件を伝えたとき、ギルは看守が持つ名簿を見たまま、すぐには返事をしなかった。
「希望はしたが、その作業では行かないというなら、今のうちに言え。黒塔の中で別の仕事をすることになる」
「行きます。荷車に触るなと言われる理由も、俺の場合は分かっています」
ギルはそう答え、帯の結び目を直した。
「ただ、今日一日働いたら、あの倉庫の五枚は俺の名で預けてもらえるんですね。堤の礼みたいに、行っていない仕事の金まで欲しいとは言いません」
「今日の作業に応じた対価を、お前の名義で保管する。途中で医務の判断や作業の変更があれば、その扱いは確認する」
「それなら、お願いします」
俺の横で聞いていたグラッドが、現場へ出る看守へ作業の範囲を伝え直した。
特別にギルだけへ一人付けるわけではない。決めた作業区域と配置の中で、誰が見ているかを曖昧にしないようにする。
列へ入ったギルを、前にいた囚人が振り返った。
「今度は荷袋を使わずに出るんだな。戻るときまで面倒を起こしてくれるなよ」
「そっちも、俺の名前で返事をするなよ。自分の名で呼ばれたときに歩け」
言い返したギルへ、看守が顔を向けた。
「列の確認を続ける。話はそこで切れ」
ギルは口を閉じ、呼ばれるまで待った。
そのやり取りを、ロイドとダレンの処分に関する記録を受け取りに来た看守も見ていた。何か言いかけたが、門の確認が済むまでは脇で待っている。
二十人が出発した後、彼は俺に尋ねた。
「名を偽った二人を外した日に、以前逃げようとしたギルを出すと、ほかの囚人が不公平だと言いませんか。申出が来たときに、説明を揃えておきたいのですが」
「ギルは前の違反への処分を受け、その後の行動も見た上で、禁止を見直した。今日の二人も、処分とは別に、先々の配置を判断することになる」
「違反を一度した者は、ずっと出せないという扱いにはしないわけですな」
「ああ。ただ、日数が過ぎただけで出せるわけでもない。ギルを出した理由を聞かれたら、配置と警備を含めて、今日確認した条件を説明してくれ」
看守は門の方へ目をやり、グラッドから記録を受け取った。
俺は閉じた外扉を見た。
荷袋へ潜り込んだ男が、今朝は列の中で、自分の名が呼ばれるのを待っていた。だからといって、逃げる気が永久になくなったと考えているわけではない。
それでも、以前の行為だけを理由にして一生同じ扱いへ留めるなら、その後の行動を確かめる意味もなくなる。
俺が前世で二十二年働いた場所でも、一度の面談で人の中身が分かったことなどなかった。日々の作業や、都合の悪いことを言われたときの振る舞いまで見て、ようやく判断の材料が増えていく。
*
夕方、二十人は全員戻った。
門で顔と名前を確かめ、持ち帰った物を調べ、現場の報告と人数を合わせる。ギルもほかの者と同じように待ち、手枷が外れると、手首を一度擦った。
現場での逸脱や負傷の報告はなく、二十人分の労働対価、小銅貨百枚が届けられた。警備と輸送の実費は別に受け取り、保管へ回す。
ギルの分は五枚で、その名義の保管記録へ加えられた。
受領票を渡されると、ギルは指で名前を押さえ、次に金額を見た。横から覗こうとした囚人には、紙を自分の胸へ寄せて隠している。
「見なくても五枚だろ。今日、働いた奴は同じなんだから」
「それでも、俺の紙だ。自分のを見てろよ」
相手は鼻で笑い、先へ歩いていった。
ギルは紙を折ってから、近くにいた俺へ顔を向けた。
「監獄長。作業中、倉庫の角から街道が見えました。敷地を出て、あの曲がり角まで抜ければ、現場からは見えなくなるんですね」
グラッドの手が、報告書の上で止まった。
「そこで作業区域を出た者がいたのか。見たことがあるなら、現場の看守にも伝えてくれ」
「誰も出ていません。俺が、あそこまで行けば先が見えなくなると思っただけです」
ギルは折った紙の端を、親指で押さえ直した。
「考えたことまで、後から隠していたと言われるのは嫌なので。今日は土を運んで、戻りました。それで五枚になったから、俺はそれでいいです」
「分かった。現場の見通しは確認させる。お前が区域を出なかったことと、街道を見たことも分けて記録する」
ギルは俺の顔を見てから頷き、紙を懐へしまった。
「今夜の飯は、まだ残ってますよね。五枚貰っても、飯を食い損ねたら割に合わない」
「二十人分、残してある。手を洗って行け」
ギルはようやく肩の力を抜き、先に行った連中を追って食堂へ向かった。
懲罰房へ運ぶ夕食の盆が、その脇を通っていく。看守は列とぶつからないところで待ち、二十人を通してから、二人分の食事を奥へ運んでいった。
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