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俺の裏山、世界最高難度らしい ~中古ドローンでいつものダンジョンを配信したら世界中が騒ぎ始めた~  作者: 山ノ上商会


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4/14

第4話 これはただのオーク



二階に下りた俺を待っていたのは、三体のオークだった。


もちろんこの時点の俺は、こいつらがオークという名前だということすら知らない。


初めて遭遇したのは中学二年生の頃。


一階を突破するのに半年以上かかり、ようやく二階へ下りたその日に、三体のうちの一体と遭遇した。


当時の俺からすれば、とんでもない化け物だった。


身体は大きいし、力も強い。それだけならまだしも、こいつらは普通に武器まで使う。


あの頃の俺は、ホームセンターで買った鉈と自転車用のヘルメットという、今考えればかなり酷い装備でダンジョンに潜っていた。


初遭遇のときは何とか逃げ切ったものの、棍棒で殴られた左腕が一週間くらい上がらなかったことを今でも覚えている。


今となっては、それすら懐かしい思い出だ。


「三体か」


一体だけなら無視して先へ進んでもいい。


でも三体いると、さすがに邪魔だ。


それに今日は配信もしている。


どうせなら戦っているところが映った方が、見ている側も面白いだろう。


俺は鞘から剣を抜いた。


『待て待て待て』


『やる気だぞこいつ』


『さっきの見てなかったのか? 普通にやるだろ』


『オーク三体は話が違うだろ』


『誰かこいつの場所特定できない?』


当然、俺はそんなコメントが流れていることには気付かない。


スマートフォンはすでにポケットの中。


今は目の前にいる三体だけを見ていた。


***


佐々木亮太は、さっきから昼飯にほとんど手を付けられずにいた。


フレイムリザードを倒した時点で、この配信者が普通ではないことは分かっている。


ただ、今回ばかりは少し話が違うように見えた。


「こいつら……本当にオークか?」


画面に映っているのは、三体の人型魔物。


オーク自体は珍しくない。


国内のダンジョンでも確認されている、人型魔物の代表格だ。


一般的なオークの身長は百八十センチから二メートル程度。個体によっては武器を使うこともあり、探索者協会では危険度D級に分類されている。


だが、画面に映っている三体は明らかに大きかった。


比較対象になっている配信者の身長が分からないので正確には判断できないが、少なくとも二メートルを大きく超えている。


それだけではない。


身体つきまで違う。


通常のオークより一回り以上太く、腕や肩回りの筋肉も明らかに発達している。


『ハイオークじゃない?』


一つのコメントが流れた。


『いやハイオークってもっと赤黒くなかった?』


『亜種?』


『少なくとも普通のオークじゃない』


『有識者まだ?』


『今SNSに投げた』


『切り抜き上げたぞ』


亮太はそのコメントを見て、すぐに別のSNSを開く。


検索欄に『裏山探索』と入力してみると、まだ投稿自体は少なかった。


それでも、すでに一つ。


十数秒ほどの短い動画が上がっている。


映っているのは、先ほどのフレイムリザード戦だった。


投稿されたばかりなのに、すでにいくつか反応が付いている。


「これ、増えるぞ……」


そう呟きながら配信へ戻った、その瞬間。


画面の中で戦闘が始まった。


***


真ん中にいた一体が、突然大きく息を吸い込んだ。


「ブオオオオッ!」


洞窟に雄叫びが響く。


相変わらずうるさい。


こいつらは俺を見つけると、ほぼ必ず最初に叫ぶ。


何か意味があるのかもしれないが、今のところ知る必要も感じていない。


右側にいた一体が先に動いた。


手にしているのは、俺の身長と変わらないくらいの長さがある太い棍棒。


それを両手で持ち、大きく振りかぶる。


分かりやすい。


俺は横へ一歩だけ動いた。


直後。


ドンッ!


棍棒が地面へ叩きつけられ、小石が周囲へ飛び散る。


「危ないって」


俺はそのままオークの懐へ入った。


狙うのは膝裏。


昔からこいつらは力こそ強いが、関節の辺りは比較的斬りやすい。


剣を横薙ぎに振る。


刃が膝裏へ深く食い込み、オークの巨体が大きく傾いた。


「グオッ!」


そのまま踏み込み、今度は首を狙う。


一閃。


刃は首の半分ほどまで食い込んだ。


さすがに一撃では落とせない。


剣を引き抜こうとした瞬間、左側から風を切る音が聞こえた。


振り向く必要はない。


二体目だ。


大剣がこちらへ迫っている。


俺は剣から手を離し、そのまま身体を沈めた。


頭上を大剣が通過する。


最初のオークの首には、俺の剣が刺さったままだ。


「やべ」


武器を手放してしまった。


とはいえ、今すぐ取りに戻っている余裕はない。


大剣を振り抜いたオークが体勢を戻すより先に距離を詰める。


腰を落とし、右拳を握る。


そして。


腹へ叩き込んだ。


ドンッ!


鈍い音が洞窟に響く。


「グッ……!」


オークの身体が僅かに浮き、そのまま後ろへ吹き飛んだ。


二メートルほど飛んでから地面を転がる。


「……あ」


思ったより飛んだ。


最近、身体の調子がいい気はしている。


それとも単純に、こいつの体勢が悪かっただけだろうか。


そんなことを考えている間にも、三体目がこちらへ迫ってきた。


武器は大剣。


振り下ろされる。


俺は横へ避ける。


続けて二撃目。


それも避ける。


三度目は横薙ぎ。


今度は後ろへ跳んで距離を取った。


素手のままだと、さすがに少し面倒だ。


周囲を見回す。


最初の一体はまだ倒れず、片膝をついたままこちらを睨んでいる。


首には俺の剣が刺さったまま。


「ちょっと返して」


俺は一気に距離を詰めた。


オークがこちらに気付いて腕を伸ばしてくる。


その手を掻い潜り、剣の柄を握る。


一気に引き抜く。


血が噴き出した。


同時に、オークの身体が淡い光に包まれ始める。


これで一体目。


振り返ると、さっきの三体目がもうすぐ後ろまで来ていた。


大剣が振り下ろされる。


今度は避けず、剣を両手で握って真正面から受けた。


ガキンッ!


重い衝撃が両腕を通して身体へ響く。


「重っ!」


足元の地面が僅かに沈んだ。


やっぱり、こいつらの力は強い。


まともに受け止めるものじゃない。


俺は剣を滑らせるようにして大剣を横へ流した。


オークの体勢が崩れる。


首が空く。


そこへ剣を振る。


今度は綺麗に入った。


首が宙を舞う。


二体目。


いや。


さっき殴り飛ばした方を二体目と数えるなら、こいつが三体目か。


どっちでもいい。


残った一体へ視線を向けると、先ほど殴り飛ばしたオークがちょうど立ち上がろうとしていた。


「結構丈夫だな」


腹を押さえながら、ゆっくり立ち上がる。


持っていた武器はどこかへ落としたらしい。


今のこいつも素手。


それならちょうどいい。


俺は剣を鞘へ戻した。


『なんで!?』


『剣しまったぞ』


『いや待て』


『まさか素手でやる気?』


『さっき殴って吹っ飛ばしたからな』


『おかしいだろ』


『何で誰もあのパンチに突っ込まないんだよ』


『突っ込みどころ多すぎるんだよ』


***


視聴者数は、すでに三百八十七人まで増えていた。


つい数分前まで百人程度だった配信に、次々と新しい視聴者が流れ込んでいる。


その大半が、SNSに投稿された短い切り抜き動画からやって来た人間だった。


そして新しく入ってきた視聴者たちが最初に目にしたのは。


パーカー姿の大学生が、自分より遥かに大きなオーク型魔物と素手で向かい合っている光景だった。


『初見です。何これ?』


『俺らも分からん』


『何級探索者?』


『自称大学生』


『???』


『装備は?』


『パーカー』


『?????』


亮太はその流れを見て、思わず笑ってしまった。


数十分前まで、自分もほとんど同じ状態だったからだ。


「そうなるよな……」


画面の中で、オークが動いた。


***


向こうから来る。


オークが右腕を大きく引いた。


どうやら殴るつもりらしい。


こういう戦い方は久しぶりだ。


中学生の頃はまともな剣なんて持っていなかったから、石を投げたり木の棒で殴ったりして何とか戦っていた。


さすがに素手で殴り合ったことはない。


でも。


一度くらい試してみてもいいか。


オークの拳が飛んでくる。


俺は身体を横へずらした。


巨大な拳が頬のすぐ横を通り過ぎる。


そのまま懐へ入る。


さっきと同じように、腹へ拳を叩き込んだ。


ドンッ!


今度は吹き飛ばなかった。


オークが僅かに後ろへ下がっただけだ。


「やっぱさっきは体勢が悪かっただけか」


もう一度。


腹を狙う。


今度は左拳。


オークも腕を振ってくるが、それを避けて右拳を脇腹へ打ち込む。


鈍い感触。


オークの身体が僅かにぐらついた。


「いけそうだな」


その一言に、コメント欄が一斉に反応した。


『何が!?』


『何がいけそうなんだよ!』


『素手でオーク倒そうとしてる!?』


『こいつマジで何者?』


『誰か有名探索者にこの配信送れ』


『もう送った』


『俺も送った』


***


その頃。


ダンジョン配信界隈では、一つの短い動画が急速に拡散され始めていた。


タイトルは、


『【新人?】私服の大学生がB級魔物を一分で倒したんだが』


最初は数十回だった再生数が、百を超え、五百を超え、やがて千へ届く。


そして、その動画は一人の男の目にも留まった。


「なんだこれ」


都内のマンション。


トレーニングを終えたばかりの男が、スマートフォンの画面を見ながら眉をひそめる。


黒い短髪に、鍛え上げられた身体。


テーブルの上には、黒い龍を模した仮面が置かれていた。


スマートフォンに映っているのは、見知らぬ青年がフレイムリザードの口へ剣を突き刺す場面。


男は動画を最初からもう一度再生した。


「……フェイクじゃないよな?」


画面を止める。


炎。


魔物。


剣。


青年の動き。


何度見ても、不自然な加工は見当たらない。


投稿に添えられたリンクを見る。


現在配信中。


チャンネル名は『裏山探索』。


男は迷うことなくリンクを押した。


『黒龍さんが入室しました』


その表示が流れた瞬間、コメント欄が一瞬止まった。


そして次の瞬間。


『は????』


『黒龍!?』


『本物?』


『認証マークあるぞ』


『マジで本物だ』


『誰か呼んだって言ってたけど黒龍呼んだの誰だよw』


『登録者200万来たぞ』


コメント欄が一気に加速する。


視聴者数も、それに合わせて跳ね上がった。


四百。


五百。


七百。


そして千。


黒龍が入室したという情報がSNSへ流れ、それを見た人間がさらに配信へ押し寄せていく。


***


もちろん俺は、そんなことなど何も知らない。


目の前にいるオークの腹へ、三発目の拳を叩き込んでいた。


「これでどうだ!」


ドンッ!


オークの巨体が後ろへ倒れる。


しばらく痙攣するように動いていたが、やがて完全に動かなくなった。


数秒後。


身体が淡い光に包まれ、そのまま消えていく。


「おお」


俺は自分の拳を見る。


少し赤くなっているし、軽い痛みもある。


「やっぱ剣の方が楽だな」


当たり前の結論に辿り着いた。


俺はポケットからスマホを取り出す。


コメントを確認しようと画面を見るが、文字が凄い勢いで上へ流れていた。


「何これ?」


速すぎて、ほとんど読めない。


ただ、何人かが同じ名前を書き込んでいることだけは分かった。


黒龍。


どこかで聞いた名前だ。


「黒龍……?」


少し考える。


そして、ようやく思い出した。


昨日、健太が話していた配信者。


登録者二百万人。


投げ銭だけで百万円。


「ああ、百万円の人か」


コメント欄がさらに加速する。


『百万円の人www』


『その認識なのかよ』


『黒龍知らないの!?』


『昨日知ったばっかだろこれ』


『黒龍さん何か言って』


その中に、認証マークの付いたコメントが一つ流れた。


『黒龍:そこ、どこのダンジョンですか?』


俺はそのコメントを何とか見つけた。


「どこって……」


少し考える。


ここに正式な名前なんてあるのだろうか。


少なくとも俺は知らない。


だったら答えは一つしかない。


「うちの裏山ですけど」


そう答えた。


『は?』


『裏山???』


『嘘だろ』


『個人所有?』


『未登録ダンジョンってこと?』


『待って。それヤバくない?』


『黒龍さん固まってるじゃん』


***


画面の向こうで。


黒龍こと黒田龍一は、本当に固まっていた。


「裏山……?」


聞き間違いではない。


配信者は確かにそう言った。


もしそれが本当なら、この青年が潜っている場所は探索者協会にも登録されていない可能性が高い。


しかも一階にはフレイムリザード。


二階には通常種とは明らかに特徴の違うオーク型魔物が複数。


新しいダンジョンが国内で発見されること自体は、極めて珍しいものの前例がないわけではない。


問題は、その中身だった。


「いや、これ……洒落になってないぞ」


一階からB級魔物。


二階では、それ以上の危険度である可能性すらある魔物。


しかも青年は、そんな場所をどう見ても普段から探索している。


そのとき。


配信画面の中で、青年が何気なく口にした。


「今日は十階くらいまで行こうかな」


散歩にでも行くような口調だった。


黒田は無意識に、スマートフォンを握る手へ力を込める。


コメント欄も一瞬静かになった。


『……十階?』


誰かが打ち込む。


『今二階だよな?』


『一階でB級出たよな?』


『十階って何がいるんだよ』


その疑問に答えられる人間は、配信者本人を除けば誰もいなかった。


少なくとも。


今、この配信を見ている人間の中には。


そして本人だけが。


自分のいる場所が、どれほど異常なのかを知らなかった。

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