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俺の裏山、世界最高難度らしい ~中古ドローンでいつものダンジョンを配信したら世界中が騒ぎ始めた~  作者: 山ノ上商会


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29/49

第27話 コラボ配信


投稿ミスがありました。

修正済みです。




ダンジョンの中へ入り、黒龍さんと並んで奥へ進む。


俺たちの後ろからは、それぞれの配信用ドローンがついてきていた。


黒龍さんの配信は相変わらず凄い。


表示されるコメントは、ほとんど文字の塊にしか見えないほどの速さで流れている。


それに比べれば俺の方はまだ緩やかで、なんとか目で追えるくらいだ。


『きた!』


『A級ダンジョン攻略!』


『黒龍×裏山とか豪華すぎる』


『今日はどこまで行くんだ?』


『二人とも頑張れ!』


流れていくコメントへ目を向けていた黒龍さんが口を開いた。


「先に言っておくが、今日は攻略が目的じゃない」


『え?』


『そうなの?』


『じゃあ何するんだ?』


「今日は裏山の身体強化の特訓をする。俺が教えた魔力の循環を、実戦でどこまで使えるかを見る」


『黒龍が教えた!?』


『マジで?』


『裏山に身体強化教えたのかよ』


『まだ強くなるの?』


『もう十分だろwww』


コメントをちらっと確認する。


皆が言うほど十分ではないことは、自分でも分かっている。


せっかく黒龍さんがこうして付き合ってくれているんだ。


何としてでも今日で身体強化をものにしてみせる。


そう思いながら奥へ進んでいると、ふと違和感を覚えた。


何だろう。


さっきから妙な感じがする。


息苦しいわけでもない。


むしろ、その逆だ。


「なんだか空気が軽いですね」


「空気?」


「うまく言えないですけど、裏山と全然違うというか」


黒龍さんが呆れたように俺を見る。


「裏山ダンジョンが異常なだけだ。あんな魔素量のダンジョンと比べるな」


「そうなんですか?」


「ここだってA級ダンジョンとしては十分高い方だ」


そう言われても、俺にはかなり違って感じる。


それにしても、裏山を基準にして話すといつも妙な反応をされる。


やっぱり、あそこは他のダンジョンとはかなり違うみたいだ。


『A級で空気軽いは草』


『裏山基準にすんなwww』


『ここ普通にA級だぞ?』


『裏山に慣れすぎなんよ』


『黒龍に即ツッコまれてて草』


流れていくコメントを眺めながら、俺は身体の中へ意識を向ける。


全身へ魔力を巡らせる。


どこか一か所に偏らせるのではなく、均等に。


そして、淀ませない。


「……お」


思っていたよりスムーズだ。


《深淵の四眼》と戦ったとき。


あのときは戦いながら必死に魔力の流れを意識して、どうにか今と同じような状態まで持っていくことができた。


けれど、あの戦いが終わってから何度試しても上手く再現できなかった。


それが今は違う。


黒龍さんに教えてもらい、その後も練習したおかげか、少なくともあのときくらいにはスムーズに魔力を巡らせることができている。


「できてるな」


隣を歩く黒龍さんが言った。


「分かるんですか?」


「それくらいはな。ただ、今は歩いてるだけだ。問題は戦いながらできるかだぞ」


「やってみます」


そう答えてから、さらに奥へ進む。


それから数分ほど経った頃だった。


前方から、何かが地面を蹴る音が聞こえた。


黒龍さんとほぼ同時に足を止める。


薄暗い通路の向こうから、一頭の魔物が姿を現した。


見た目はトラに近い。


黄褐色の体毛には黒い縞模様が走り、四本の脚は太い。


肩の高さだけでも俺の胸元近くまであり、普通のトラより明らかに大きかった。


何より目を引くのが口元だ。


上顎から伸びた二本の牙が、口を閉じていても顎の下まで突き出している。


魔物はこちらを見つけると、身体を低く沈めた。


尻尾がゆっくりと左右へ揺れる。


『ファングタイガーだ』


『C級きた』


『浅い階層だとこいつか』


『裏山、どうせ名前知らないだろwww』


「ちょうどいい。やってみろ」


「はい」


俺は背負っていたバッグを通路の端へ置き、剣を抜く。


全身を流れる魔力へ意識を向けた。


均等に。


淀みなく。


さっきまでの流れを崩さない。


目の前の魔物が低く唸る。


後ろ脚に力が入り――一気に飛び出した。


地面すれすれを滑るように駆け、その勢いのまま俺へ飛びかかってくる。


速い。


だけど――。


俺も地面を蹴った。


「――っ」


景色が一気に後ろへ流れた。


一瞬前まで離れていたはずの魔物が、もう目の前にいる。


いや。


俺が一気に距離を詰めたんだ。


相手も予想していなかったのか、空中でこちらへ顔を向ける。


その横をすれ違いざまに剣を振り抜いた。


ほとんど手応えはなかった。


数歩進んだところで足を止め、振り返る。


魔物の身体に斜めの線が走り、そのまま崩れて魔石だけを残した。


「おぉ……」


思わず自分の脚を見る。


速い。


今までより明らかに身体が軽かった。


『はっや!?』


『消えたwww』


『ファングタイガー何もできてないじゃん』


『C級とはいえ一瞬だぞ』


『裏山また速くなってね?』


『黒龍先生すげえ!』


戦闘が終わってから、ようやくコメントへ目を向ける。


「ファングタイガー……あれ、そういう名前なんですね」


『やっぱ知らなかったwww』


『知ってた』


『こいつコメント欄で魔物の名前覚えてるだろ』


『裏山にもいるんじゃね?』


『居ても名前知らないだろwww』


「……確かに」


同じような魔物を見た記憶がないわけでもない。


でも、いたとしても名前なんて知らない。


「どうです?」


少し自信を持って黒龍さんを見る。


「まだ駄目だな」


「え?」


即答された。


けっこう上手くいったと思ったんだけど。


「それだと、ただ循環させてるだけだ。攻撃するときは、前に教えた通りだ。もっと細部まで意識しろ」


「あ……」


そうだった。


循環ができたことが嬉しくて、そこまで意識が回っていなかった。


「もう一回やってみます」


「ああ」


地面に落ちた魔石を拾い、バッグへ入れる。


それから先も、俺の練習は続いた。


魔物を見つけるたびに戦い、黒龍さんから指摘を受ける。


歩いているだけなら、全身に魔力を巡らせ続けることもだいぶ楽になってきた。


けれど戦闘となると話は違う。


相手の動きを追い、攻撃を避け、こちらも剣を振る。


少し戦闘に集中すれば、全身を巡る魔力の流れが乱れる。


逆に魔力へ意識を向けすぎれば、今度は身体の反応が遅れる。


何度か上手くいったと思っても、次の瞬間には一部の流れが乱れていた。


「今、乱れたぞ」


「はい」


「一度整えろ」


言われた通り、乱れた魔力をもう一度全身へ巡らせる。


「……よし」


「今度は意識しすぎだ。魔物から目を離すな」


「はい」


「返事してる間にまた乱れてるぞ」


「……はい」


何だか部活の練習みたいになってきた。


『黒龍塾厳しくて草』


『完全に先生と生徒www』


『裏山めっちゃ素直』


『でも最初より良くなってね?』


『黒龍がちゃんと先生してるのジワる』


それでも、繰り返しているうちに少しずつ感覚は分かってきた。


そうやって何度か戦闘を繰り返し、数階層進んだ頃。


前方の曲がり角から、荒い鼻息が聞こえてきた。


ドン。


ドン。


今までの魔物とは明らかに違う、重い足音が通路に響く。


姿を現したのは、巨大な猪のような魔物だった。


大きさは牛ほどもある。


全身は黒褐色の剛毛に覆われているが、肩から頭にかけてだけは岩のような灰色の皮膚が露出していた。


そして額の中央から、太く短い一本角が突き出している。


『クラッシュボア』


『B級きた』


『こいつ突進まともに食らうとヤバいやつ』


『裏山気をつけろよ』


『今までより一段上がったな』


「B級だ。気を抜くなよ」


「はい」


俺はバッグを置いて剣を構える。


クラッシュボアが前脚で地面を掻く。


次の瞬間。


その巨体からは想像できない勢いで、一気に加速した。


速い。


でも、避けられないほどじゃない。


全身の循環を維持する。


その上で、身体の細かな部分にも意識を向ける。


脚。


腰。


肩。


腕。


剣を握る指先。


全部を意識しながら、相手の動きも――。


「っ!」


クラッシュボアが直前で頭を大きく振った。


突進だけじゃない。


横から振り抜かれた頭部と角が迫る。


気づいたときには遅かった。


「ぐっ!」


太い頭部が脇腹を捉える。


強烈な衝撃に思わず声が漏れた。


身体が地面から浮き、そのまま数メートル吹き飛ばされる。


背中から地面へ落ち、何度か転がった。


『え!?』


『食らった!?』


『裏山!!』


『今まともに入ったぞ!』


『クラッシュボアの一撃はヤバい』


『大丈夫か!?』


地面へ手をついて身体を起こす。


「っ……」


衝撃でまだ身体が少し痛む。


けれど、予想していたよりも痛みは大したことがない。


「……あれ?」


攻撃を受けた場所を確かめてみる。


痛みは残っている。


けれど、それだけだ。


怪我の一つもしていなさそうだった。


確かにまともに食らったはずなのに。


「これが、循環で安定した魔力の膜……」


思っていた以上にすごい。


「いや」


黒龍さんの声が飛んできた。


「循環ができていたのは確かだ。けど、B級の攻撃をまともに受けて痛いだけで済むかは別の話だ」


「え?」


黒龍さんがクラッシュボアへ視線を向ける。


「俺でも、今のをまともに食らって無傷でいられる自信はない」


『え?』


『黒龍でも?』


『じゃあなんで裏山ほぼ無傷なんだよwww』


『クラッシュボアの一撃だぞ?』


『こいつやっぱおかしいだろ』


『魔力の膜が硬すぎる?』


『循環覚えさせちゃ駄目な奴だった説』


俺はもう一度、自分の脇腹を見る。


そんなにおかしいんだろうか。


「勘違いするなよ」


黒龍さんの声で顔を上げる。


「循環ができるからって、攻撃を食らっていいわけじゃない。細かい操作に意識を取られて、相手を見るのが疎かになってる」


「……はい」


「今のも突進だけ見て、その後の動きを見てなかっただろ」


その通りだった。


魔力のことを考えるのに精一杯で、クラッシュボアが頭を振った瞬間への反応が遅れた。


「最終的には考えなくてもできるようにしろ」


「分かりました」


もう一度剣を構える。


クラッシュボアは既に次の突進へ入ろうとしていた。


今度は魔力だけに意識を向けない。


まず相手を見る。


前脚。


頭。


角。


その動きを見ながら、全身を流れる魔力を感じる。


クラッシュボアが地面を蹴った。


真正面から迫ってくる。


俺はぎりぎりまで引きつけて横へ跳ぶ。


また頭が振られる。


今度は見えていた。


身体を沈めて角をかわし、そのまま懐へ踏み込む。


一瞬、魔力の流れが乱れる。


でも、止まってはいない。


そのまま剣を振り抜く。


刃が硬い肩口を避け、その下へ深く食い込んだ。


クラッシュボアの巨体が大きく傾く。


完全には倒しきれない。


すぐに距離を取る。


もう一度。


相手を見る。


魔力の流れを整える。


クラッシュボアがこちらへ向き直った。


荒い鼻息とともに前脚で地面を掻き、再び突進してくる。


さっきと同じだ。


ぎりぎりまで引きつける。


頭が動く。


今度は、その先まで見えている。


振り回された角をかわし、すれ違いざまに首元へ剣を振り抜いた。


巨体が数歩進んだところで崩れ落ち、そのまま魔石を残して消えていく。


「ふぅ……」


C級のときとは違う。


考えることが多すぎる。


「さっきよりはマシだ」


黒龍さんが言った。


「本当ですか?」


「ああ。まだ全然だけどな」


やっぱり少し厳しいんじゃないだろうか。


◇◇◇


それからさらに奥へ進んだ。


途中で何度かC級の魔物と遭遇し、そのたびに俺が戦った。


まだ魔力の流れが乱れることはある。


ただ、最初の頃に比べれば、自分でそれに気づけることが増えてきた。


乱れたら整える。


相手から意識を外さない。


それを何度も繰り返す。


そんな中、俺はまた足を止めた。


何かいる。


けれど、さっきのクラッシュボアとは違う。


音がほとんどしない。


通路の先に目を凝らす。


黒灰色の影が、一瞬だけ岩陰を横切った。


「速いぞ」


黒龍さんが短く言った。


次の瞬間。


岩壁を蹴る音がした。


右。


振り向く。


大型の猫科に似た魔物が壁を蹴り、こちらへ飛びかかってきていた。


ファングタイガーより一回り小さい。


代わりに四肢は細く長く、黒灰色の体毛が薄暗いダンジョンの中へ溶け込んでいる。


着地したと思った次の瞬間には、再び岩壁を蹴って別方向へ飛ぶ。


一か所に留まろうとしない。


『シャドウリンクス!』


『またB級』


『こいつ速いぞ』


『クラッシュボアとは真逆だな』


『今度はちゃんと見ろよ裏山』


俺は剣を構える。


シャドウリンクスは正面から来ない。


壁を蹴る。


着地する。


また別の岩へ飛ぶ。


動くたびに方向が変わる。


速さだけなら、追えないほどじゃない。


でも、次にどこから来るのか分かりづらい。


全身へ魔力を巡らせる。


シャドウリンクスが壁を蹴った。


左から来る。


そう思った直後、途中の岩へ前脚をつき、強引に方向を変えた。


右。


今度は見失わない。


鋭い爪をかわし、そのまま剣を振る。


浅い。


刃が黒灰色の毛を掠めただけだった。


シャドウリンクスは着地すると、すぐに距離を取る。


俺も追わない。


焦るな。


まずは相手を見る。


黒龍さんからの声は飛んでこない。


今度は自分でやれということだろう。


シャドウリンクスが再び走り出す。


正面。


壁。


右。


違う。


上だ。


頭上の岩を蹴り、真上から飛びかかってくる。


一歩後ろへ下がる。


鋭い爪が目の前を通り過ぎた。


シャドウリンクスが地面へ着地する。


その瞬間、俺も地面を蹴った。


全身を巡る魔力の流れは崩さない。


その上で、右脚へ意識を向ける。


太腿。


膝。


ふくらはぎ。


そこから足首の関節へ。


さらに足の裏を通り、最後は地面を蹴る指先まで。


今までより細かく。


身体の動きに合わせて、一つ一つへ魔力を巡らせていく。


「っ!」


足先が地面を蹴った瞬間、身体が弾かれたように前へ出た。


速い。


全身に魔力を巡らせているだけのときより、明らかに速い。


距離を取ろうとしていたシャドウリンクスへ一気に追いつく。


魔物がこちらを振り返る。


まだだ。


今度は剣を振る。


肩。


上腕。


肘。


前腕。


手首。


そして、剣を握る一本一本の指先まで。


全身を巡る魔力を止めない。


剣を振る動きに合わせて、さらに細かな部分へ魔力を巡らせていく。


今まで別々に考えていたものが、一瞬だけ繋がった。


「――っ!」


剣を振り抜く。


手に伝わった感触は、今までとは明らかに違った。


ほとんど抵抗を感じない。


シャドウリンクスの身体を、剣が一気に通り抜けた。


そのまま数歩駆け抜け、足を止める。


後ろでシャドウリンクスの身体が崩れ、魔石を残して消えていった。


「……できた?」


自分の剣を見る。


さっきまでとは違った。


脚の細かな部分まで意識した瞬間、明らかに速度が上がった。


最後の一撃もそうだ。


ただ腕に力を込めるより、ずっと軽く剣を振り抜けた。


『今の速っ!?』


『また加速したぞ』


『シャドウリンクスに追いついたwww』


『さっきより明らかに速かった』


『最後の一撃もヤバくね?』


『黒龍が言ってたのこれか?』


『成長早すぎるだろwww』


俺は黒龍さんを見る。


「今のはどうです?」


「ああ。今のは良かった」


「おぉ」


初めてまともに褒められた気がする。


「最後だけだけどな」


やっぱり厳しい。


「今の感覚を忘れるな。全身の循環を維持したまま、必要な場所へ必要なだけ魔力を回す」


「はい」


「今は脚や腕を細かく意識してやっとだが、それも考えずにできるようになれば、動きも攻撃も今とはかなり変わる」


俺は自分の手を開いて、もう一度握る。


ほんの一瞬だった。


でも、さっきの感覚はまだ残っている。


この感覚を忘れずにおこう。


そうすれば次もできるはずだ。


たぶん。


◇◇◇


それからさらに進んだところで、黒龍さんが足を止めた。


「来るぞ」


俺も前を見る。


ズシン。


重い足音。


通路の奥から姿を現したのは、人の形に近い魔物だった。


ただし、大きさは人間とは比べものにならない。


三メートル近い巨体。


太い腕と脚。


灰色の皮膚の上には、ところどころ黒い金属のようなものが浮き出している。


特に胸から肩にかけては、それ自体が鎧のように分厚い。


片手には俺の身体ほどもある棍棒が握られていた。


『アーマードオーガ!』


『A級きた!』


『硬いやつじゃん』


『裏山いけるか?』


『練習相手にするには一気にレベルが上がったぞ』


俺は背負っていたバッグへ手をかける。


今の感覚を、もう一度試してみたい。


そう思ったところで。


「こいつは俺がやる」


「黒龍さんが?」


「ああ。ここまで俺、ほとんど戦ってないだろ」


言われてみればそうだ。


今日はコラボ配信のはずなのに、ここまでほとんど俺の練習に付き合ってもらっている。


『黒龍きた!』


『やっと黒龍戦うのか』


『先生役しかしてなかったからなwww』


『後方腕組みドラゴンがとうとう動くぞ』


『誰が後方腕組みドラゴンだよwww』


『今日ほぼ裏山の保護者だからな』


『アーマードオーガ逃げて』


黒龍さんがコメントを見て、小さく息を吐く。


「好き勝手言いやがって」


「後方腕組みドラゴン……」


「拾うな」


思わず笑いそうになった。


黒龍さんが剣を抜く。


アーマードオーガが棍棒を持ち上げた。


それまでふざけていたコメント欄の流れが、一気に変わる。


「裏山」


「はい?」


「魔力の扱いに慣れれば、応用も利かせられる」


「応用?」


「よく見てろ」


黒龍さんの身体を流れていた魔力が動く。


全身を巡る流れは変わらない。


その一部が腕へ。


さらにその先。


握られた剣へと流れ込んでいく。


剣身を魔力が覆った。


俺はその流れから目を離さない。


身体の中を循環していた魔力が、そのまま剣まで伸びているように見える。


アーマードオーガが吠えた。


巨大な棍棒を振り上げ、黒龍さんへ向かって走り出す。


黒龍さんも一歩踏み込んだ。


そして、剣を振る。


ただ、それだけだった。


剣身を覆っていた魔力が、一瞬だけ大きく伸びたように見えた。


直後。


アーマードオーガの棍棒が真ん中から切れた。


その奥。


金属のような胸部にも、一本の線が走る。


アーマードオーガの巨体が止まった。


次の瞬間、その身体が左右に分かれ、崩れていく。


「……え?」


一撃だった。


あれだけ硬そうだった身体ごと。


『きたああああ!!』


『魔法剣!!』


『これだよこれ!』


『棍棒ごといったwww』


『A級ワンパン』


『後方腕組みドラゴン強すぎる』


『先生ちゃんと化け物で草』


『これがS級か』


俺は消えたアーマードオーガより、黒龍さんの剣を見ていた。


「今のって……」


「さっき教えたことの応用だ」


黒龍さんが剣を軽く振る。


「魔力は身体の中だけで使うものじゃない。扱いに慣れれば、武器に流すこともできる」


「魔法剣……」


「まあ、そう呼ばれてるな」


俺も自分の剣を見る。


ちょっとやってみたい。


「真似するのはまだ早いぞ」


先に言われた。


「まだ何も言ってないですよ」


「顔に出てる。まずは身体の中の魔力くらい、考えなくても扱えるようになれ」


「……はい」


まだ循環だって安定していない。


細かな部分まで上手く魔力を巡らせられたのも、さっきの一度だけだ。


確かに、剣にまで魔力を流すのは早そうだ。


でも。


いつかはやってみたい。


そう思っていると、アーマードオーガが消えた場所に何かが残っていることに気づいた。


魔石の隣。


白っぽい何かが転がっている。


「……何ですか、あれ」


黒龍さんがそちらへ目を向ける。


「ああ。アーマードオーガの牙だな」


「牙?」


近づいて見てみる。


三十センチほどはありそうな、太く湾曲した牙だった。


根元は俺の手首ほどの太さがあり、表面は象牙のような色をしている。


先端へいくほど灰色がかり、見るからに硬そうだ。


黒龍さんがそれを拾い上げる。


「アーマードオーガのドロップとしては普通だな」


「へぇ……」


受け取ってみる。


思ったより重い。


指で表面を撫でてみると、つるつるとしているのに石みたいな硬さがあった。


「こんな素材を落とすこともあるんですね。初めて見ました」


「初めて?」


「はい」


黒龍さんの動きが止まった。


俺を見る。


それから手の中の牙へ視線を落とし、僅かに眉を寄せた。


『初めて?』


『え?』


『そんなわけないだろwww』


『裏山何年潜ってるんだよ』


『素材ドロップ見たことないってこと?』


『いやいや、さすがに嘘だろ』


『そういや裏山の配信って……』


『魔石ばっかじゃね?』


『待って、なんかおかしくない?』


俺の一言で、コメント欄が少し荒れ始める。


けれど、俺はコメントを見ていなかった。


手の中の牙に目が釘付けになっていたからだ。


魔物を倒したら、こんなものまで出るのか。


裏山では魔石と、たまに武器くらいだったから、何だか新鮮だ。


「これって何かに使えるんですか?」


「……加工して武器の素材にしたり、装飾品にしたりだな。アーマードオーガの牙なら、それなりの値段にはなる」


「売れるんだ……」


もう一度、手の中の牙を見る。


普通のダンジョンでは、こういうものまで手に入るらしい。


◇◇◇


その後も少しだけ探索を続け、予定していたところで引き返すことになった。


帰りにも何度か魔物と遭遇した。


さっきの感覚を思い出しながら試してみたものの、毎回上手くいくわけではない。


脚の細かな部分まで意識すれば全身の流れが乱れ、全身を意識すれば今度は細かな部分まで魔力を巡らせられない。


結局、黒龍さんから合格をもらうことは最後までできなかった。


それでも、来たときとは明らかに違う。


一度だけとはいえ、確かにできた。


あとはあの感覚を何度も繰り返すしかない。


「じゃあ、今日はこの辺で終わります」


『おつ!』


『面白かった!』


『黒龍塾おつ』


『後方腕組みドラゴンおつ』


『裏山また強くなりそう』


『魔法剣習得編待ってる』


『次の配信も待ってる!』


『てか素材の話どうなった』


『裏山のドロップ気になるんだが』


最後まで好き勝手なコメントが流れている。


俺は苦笑しながら配信を終了した。


施設へ戻り、着替えを済ませる。


帰る準備をしていると、黒龍さんが口を開いた。


「そういえば、明後日から裏山ダンジョンに入ることになった」


「裏山に?」


「ああ。今度は協会からの正式な調査だ」


「正式な調査……」


「俺を含めて何人かでチームを組んで潜る」


今度は俺と一緒に入ったときとは違う。


協会が正式に人員を集めて調べるらしい。


「どのくらい潜るんですか?」


「二、三日の予定だ。どこまで行けるかは分からないけどな」


「配信はするんですか?」


「しない。今回は調査だからな」


それは少し残念だ。


黒龍さんたちが裏山をどこまで進めるのか、見てみたかった。


「じゃあ、結果だけ教えてくださいね」


「ああ」


俺にとっては七年間通い続けた、いつもの裏山。


そこへ今度は、黒龍さんたちが正式な調査として入ることになった。


「……少し気になることも増えたしな」


小さく呟いた黒龍さんの声を、俺の耳が拾うことはなかった。



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― 新着の感想 ―
裏山くん、騙されてる スポンサーがついたら、装備+広告料なのに 黒龍のスポンサーなら、装備もらえただけだよwww
ふ~ん 今までドロップ無かったんだ じゃああのいつも使ってる剣は宝箱?
更新めちゃくちゃ面白かったです! 普通なら笑っちゃいけない状況だとわかってはいても 黒龍先生に黒龍塾に後方腕組みドラゴン噴きましたwww 裏山は昨日から読み始めたのですが、最近の新連載で1番面白いで…
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