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俺の裏山、世界最高難度らしい ~中古ドローンでいつものダンジョンを配信したら世界中が騒ぎ始めた~  作者: 山ノ上商会


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第25話 7年分の魔石


翌日の夕方。


大学から帰った俺は、自分の部屋でバイトへ行く準備をしていた。


時計を見ると、家を出るまであと三十分ほど。


財布とスマートフォン、それから家の鍵を鞄に入れていると、机の上に置いていたスマートフォンが震えた。


画面に表示された名前を見る。


佐伯さんだ。


「はい、相川です」


『お疲れさまです。探索者協会の佐伯です。今、お時間よろしいですか?』


「大丈夫ですよ」


何だろう。


昨日会ったばかりだ。


裏山のことで何か分かったのかと思ったが、続いて聞こえてきたのは別の話だった。


『先日お預かりした魔石ですが、査定が終わりました』


「ああ」


そういえば、それがあった。


段ボール三箱分。


七年間、何となく持ち帰っては部屋に溜めていた魔石だ。


「いくらくらいになりました?」


何気なく尋ねる。


三箱もあったとはいえ、これまで何となく溜めていただけの魔石だ。


アイアイタイタンの魔石ほどのものが混ざっているとも思っていない。


そんなことを考えていると、佐伯さんが金額を口にした。


『買取総額は、八千百二十六万四千円になります』


「はい」


…………。


「……はい?」


『八千百二十六万四千円です』


聞き間違いではなかった。


「八千万?」


『はい』


思わずスマートフォンを耳から離した。


画面を見る。


間違いなく佐伯さんとの通話中だ。


もう一度耳へ戻す。


「あの三箱で?」


『はい』


「…………」


どうやら本当に八千万円らしい。


『もちろん、すべてが高額だったわけではありません。今回の査定額の大部分を占めているのは、高ランクの魔物から得られたと思われる魔石です。特に深い階層で入手されたものですね』


「なるほど……」


確かに、箱には色々な魔石が混ざっていた。


ただ、どれを何階で拾ったのかなんて覚えていない。


そもそも、そんなことを気にして保管していなかった。


『一つ確認したいのですが』


「はい」


『あれが、相川さんがこれまで入手した魔石のすべてですか?』


「違いますよ」


電話の向こうが静かになった。


『……違うんですか?』


「はい。最初の頃は全部拾ってたんですけど」


中学生の頃は、魔物を倒したあとに残る魔石が珍しくて、見つけるたびに持ち帰っていた。


だけど数が増えてくると、それも段々面倒になった。


「途中からは、気に入ったやつくらいしか持って帰ってないです」


『気に入ったもの、ですか?』


「大きいやつとか、色が綺麗なやつとか。最近はほとんど拾ってないですね」


『…………』


また電話の向こうが静かになる。


『では、深い階層で倒した魔物の魔石も、その大半は回収していないと?』


「そうですね」


『……そうですか』


佐伯さんの声が、少しだけ疲れたように聞こえた。


『今後は、安全に回収できる状況であれば、持ち帰ることをお勧めします』


「そんなに違うんですか?」


『少なくとも、ハズレではありません』


「…………」


どこかで聞いたような言い方だった。


そういえば初めて配信したとき、魔物を倒して残った魔石を見て、そんなことを言った気がする。


『買取に必要な書類はこちらで用意しておきます。あとは相川さんのサインをいただければ、前回と同じ口座へ振り込まれます』


「分かりました」


『準備ができましたら、改めてご連絡します』


「ありがとうございます」


電話を切る。


静かになった部屋で、しばらくスマートフォンを見つめた。


八千百二十六万四千円。


もう一度、頭の中で繰り返す。


「……八千万」


以前売ったアイアイタイタンの魔石は、四百二十万円だった。


あのときだって、魔石一つがそんな金額になることに驚いた。


それが今回は八千万円を超えている。


しかも、俺が何となく部屋に溜めていたものだけで。


金額が大きすぎて、いまいち実感が湧かなかった。


とりあえず、父さんと母さんには伝えておいた方がいいだろう。


時計を見る。


バイトまで、あと二十五分。


俺はスマートフォンを持ったまま部屋を出た。


一階へ降りると、リビングには父さんがいた。


テレビを見ながらくつろいでいる。


キッチンでは母さんが夕食を作っていた。


「父さん、母さん」


「ん?」


父さんがテレビからこちらへ視線を向ける。


母さんもフライパンを動かしながら振り返った。


「どうしたの?」


「この前渡した魔石の値段、分かった」


「もう分かったのか」


「うん。今、佐伯さんから電話来た」


父さんがテレビの音量を少し下げる。


母さんは料理を続けながら尋ねてきた。


「それで、いくらだったの?」


「八千百二十六万四千円」


「そう。八千百二十六万――」


母さんの手が止まった。


父さんも黙ってこちらを見ている。


数秒の沈黙。


「……いくら?」


母さんがもう一度聞いた。


「八千百二十六万四千円」


「八千万!?」


「うん」


父さんが勢いよく身体を起こした。


「ちょっと待て。八百万じゃなくて?」


「八千万」


「あの段ボール三箱が?」


「そうみたい。深い階で拾ったやつがかなり高かったらしいよ」


「…………」


父さんが黙った。


母さんも何も言わない。


さすがに俺も、二人が驚くのは分かる。


俺だってさっき同じような反応をした。


「俺も聞き間違いかと思って聞き直したけど――」


そこまで言ったところで、何かが焦げるような匂いがした。


「……母さん」


「何?」


「フライパン」


「え?」


母さんが振り返る。


「あっ!」


慌てて火を止める。


フライパンから薄く煙が上がっていた。


「もう! 湊が変なこと言うから!」


「俺のせい?」


「八千万なんて急に言われたら焦がすわよ!」


理不尽だ。


俺が査定したわけでもない。


母さんがフライパンの中身を確認している間に、父さんが立ち上がった。


「それで湊」


「何?」


「この前話した通り、この金も父さんたちが管理するからな」


「うん。そのつもり」


俺自身、その方がいいと思っている。


四百二十万円でも十分すぎるほどの大金だったのに、今度は八千万円だ。


自分で持っていても、どうすればいいのか分からない。


「それにしても……八千万か」


父さんがもう一度呟く。


どうやら、まだ金額を飲み込めていないらしい。


母さんも焦げかけた料理を何とかしながら、何度かこちらを見ていた。


そのとき、手にしていたスマートフォンが震えた。


画面を見ると、黒龍さんからメッセージが届いていた。


『今週の日曜、空いてるか?』


そういえば、裏山でA級ダンジョンへ一緒に潜る話をしていた。


今週の日曜日なら大学もないし、バイトのシフトも入っていない。


『空いてます』


そう返信すると、すぐに返事が来た。


『なら日曜で決まりだ』


続けて、もう一件。


『朝迎えに行く』


『分かりました』


これで日曜日の予定が決まった。


「誰?」


母さんが聞いてきた。


「黒龍さん」


「この前、一緒にダンジョンに行った人ね」


「うん。今度の日曜日に、また一緒にダンジョンに行くことになった」


そう伝えると、母さんの表情が僅かに曇った。


やっぱり、まだ俺がダンジョンへ行くことを快く思ってはいないらしい。


「でも、いつものところより安全らしいし、配信もするよ。それに黒龍さんも一緒だから」


「……無茶はしないでね」


「分かってる。この前約束しただろ?」


母さんはまだ少し心配そうだったが、それ以上は何も言わなかった。


時計を見ると、そろそろ家を出ないとバイトに間に合わない。


「じゃあ、行ってくる」


「行ってらっしゃい。気を付けてね」


「うん」


俺は鞄を持って家を出た。


◇◇◇


「八千万!?」


「声でかいって」


俺は思わず周囲を確認した。


幸い、今は客が少ない。


レジから少し離れたところで商品の補充をしていた俺と健太以外、近くに人はいなかった。


「マジで?」


「マジ」


「八百万じゃなくて?」


「父さんも同じこと言ってた」


「だって八千万だぞ?」


「俺も聞き直したよ」


健太が持っていた菓子の箱を棚へ置くと、俺の顔をじっと見た。


「……お前、なんでここにいるの?」


「何が?」


「八千万持ってるんだろ?」


「持ってないよ」


「は?」


「父さんと母さんに管理してもらうことになってるから」


「そういう意味じゃねえよ!」


健太が呆れたように俺を見る。


「ここのバイト、時給千百二十円だぞ?」


「知ってるよ。働いてるんだから」


「八千万あるのに?」


「それとバイトは関係ないだろ」


「あるだろ!」


何がそんなにおかしいのか分からない。


今日はシフトが入っている。


八千万円になったからといって、急に休む方がおかしい。


「俺なら辞める」


「何するんだよ」


「とりあえず大学卒業まで遊ぶ」


「なくなるぞ」


「四年で八千万使うほど遊ばねえよ!」


確かに。


そんな話をしていると、健太のポケットから通知音が鳴った。


「ん?」


健太がスマートフォンを取り出す。


「なんだ、SNSの通知か……」


何気なく画面を確認した健太の手が止まった。


「……相川」


「何?」


「お前、日曜に黒龍と配信すんの?」


「するよ」


「聞いてねえんだけど」


「言ってないからな。けど、なんで知ってるんだ?」


「黒龍が告知してる」


健太がスマートフォンをこちらへ向ける。


画面には、黒龍さんの投稿が表示されていた。


『次回配信決定。


今週日曜日、午後から。


国内A級ダンジョンにて。


――ゲスト、裏山』


「もう告知したんだ」


「反応そこかよ」


投稿されたばかりなのか、表示されている時間はほんの数分前だった。


それなのに、すでにかなりの数のコメントが付いている。


『黒龍×裏山!?』


『ついにコラボきた!』


『裏山が他のダンジョン行くの初めてじゃね?』


『いきなりA級で草』


『黒龍先生、裏山に探索者の常識を教えてやってください』


『まず普段着で潜るのやめさせろ』


『それはマジでそう』


『裏山がA級ダンジョン見てどういう反応するのか楽しみ』


次々と新しいコメントが増えていく。


「午後からなんだ」


「お前、時間知らなかったのか?」


「聞いてなかった」


そう答えながら、少しだけ引っ掛かる。


黒龍さん、朝迎えに行くって言ってたよな。


ダンジョンまで結構遠いんだろうか。


「それより仕事しようぜ」


「お前な……」


「店長見てるぞ」


俺の言葉に健太が振り返ると、レジの奥から店長がこちらを見ていた。


健太は気まずそうに視線を戻し、俺たちは揃って商品の補充を再開した。


◇◇◇


それから日曜日までの数日間。


大学へ行き、バイトのシフトが入っていればいつも通り働く。


八千万円という金額を聞いても、生活そのものは何も変わらなかった。


ただ、家にいる時間に庭へ出ることが増えた。


「……違うな」


目を閉じる。


身体の中にある魔力を意識し、頭から首、肩、腕、指先へ。胸や腹、脚から足先まで、流れが偏らないよう意識しながら魔力を巡らせていく。


ここまではできる。


《深淵の四眼》と戦ったときも、途中から全身へ魔力を巡らせていた。


問題は、その先だ。


黒龍さんが見せてくれた循環は、俺があのときやったものとは明らかに違った。


全身に均等に、淀みなく魔力が流れている。


それでいて、必要な瞬間には全体の流れを崩すことなく、必要な場所へより細かく魔力を巡らせていた。


俺がこれまでやってきたのは、そんなものじゃない。


速く動こうとすれば脚へ。


剣を振るなら腕や体幹へ。


そのとき必要な場所へ魔力を移動させる。


それを七年間、ほとんど無意識に繰り返してきた。


自分がそんなふうに魔力を使っていると意識したのだって、《深淵の四眼》と戦ったあの日が初めてだった。


あのとき初めて、特定の場所へ集めるだけではなく、全身へ魔力を巡らせようとした。


そして今は、それをもっと均等に、淀みなく。


さらに必要な場所へ、より細かく巡らせようとしている。


右脚へ意識を向ける。


全身の流れを保ったまま、そこへさらに魔力を巡らせる。


「あ」


僅かに左腕の流れが乱れた。


一度止め、呼吸を整えてから、もう一度最初からやり直す。


今度は左腕の流れを意識したまま右脚へ魔力を巡らせる。


さっきよりはいい。


しかし今度は、背中の辺りで魔力の流れが僅かに滞った。


「難しいな……」


黒龍さんは、これを戦いながらやっていた。


それどころか、俺に説明しながらでも全身の循環を乱していなかった。


もう一度、全身へ魔力を巡らせる。


すぐにできるとは思っていない。


七年間、無意識に身体へ任せてきた魔力の扱い方だ。


それを数日で変えられるなら苦労しない。


それでも、初日に比べれば少しだけ分かるようになってきた。


どこかの流れが乱れたとき、以前なら気付かなかったような小さな違和感を感じ取れる。


まだ黒龍さんのようにはできない。


でも、少しずつ近付いている感覚はあった。


◇◇◇


日曜日。


朝食を済ませ、自分の部屋で荷物を確認する。


準備は昨日のうちにほとんど終わらせてある。


いつもの剣に配信用ドローン、ポーション。


その他、ダンジョンへ持っていくものを鞄へ入れていく。


服装もいつもと変わらない。


パーカーに動きやすいパンツ。


何度も裏山へ潜ってきた、いつもの格好だ。


一通り確認を終えたところで、スマートフォンが震えた。


黒龍さんからだ。


『着いた』


「早いな」


まだ朝も早い。


告知では配信は午後からだったはずだ。


鞄を持ち、剣を手にして一階へ降りる。


「行ってきます」


「気を付けてね」


母さんがキッチンから顔を出す。


「うん」


「黒龍さんと一緒だからって、無茶しないのよ」


「分かってる」


玄関を出ると、家の前に一台の車が停まっていた。


近付くと運転席の窓が開く。


「おはよう、裏山」


「おはようございます」


もうその呼び方には突っ込まなかった。


荷物を後ろへ載せて助手席へ乗り込み、シートベルトを締めると、黒龍さんが車を発進させた。


住宅街を抜けてしばらく走ったところで、車内の時計を見る。


やっぱり早い。


「黒龍さん」


「ん?」


「けど、なんでこんなに早いんですか? 配信は午後からですよね?」


「ああ」


「ダンジョンまでそんなに時間掛かるんですか?」


「いや」


じゃあ、何でだ?


そう思っていると、黒龍さんが俺の方を一度だけ見た。


正確には、俺の服を見た。


「その前に、お前の装備を揃えに行く」


「装備?」


「ああ」


黒龍さんが前へ視線を戻す。


「さすがにこれ以上、普段着でダンジョンに潜らせるわけにはいかない」


俺は自分の服へ目を落とした。


いつもこれで潜っている。


特に困ったこともない。


「……これじゃ駄目なんですか?」


「駄目だ」


即答だった。

魔石の金額についてのご意見が多いので

簡易的な表を貼っておきます(^^)


買取額の目安

F〜E級

数百円〜数千円

D級

数千円〜1.5万円

C級

2万〜15万円

B級

15万〜50万円

A級

50万〜200万円

S級

300万円〜


これはこの世界の設定に基づいて決めています。

ちょっと踏み入った話は次回黒龍先生がしてくれる、かもしれません。

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― 新着の感想 ―
魔石だけで8000万だと、親が仕事辞めて管理会社作った方がいいレベルだな。 税金がもったいなさ過ぎる。
8000万円の収入で、必要経費0円だとすると、所得税は3000万円超。さらに翌年に住民税が800万円かかる 税理士か協会に委任契約することを強くお勧めする
>「この前話した通り、この金も父さんたちが管理するからな」 子役の親みたく、親が使い込む事態になりそうな言い回しに聞こえてちょっと怖いですね……。
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