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俺の裏山、世界最高難度らしい ~中古ドローンでいつものダンジョンを配信したら世界中が騒ぎ始めた~  作者: 山ノ上商会


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16/35

第16話 変わっていく日常



翌朝。


いつもと同じ時間に家を出て、いつもと同じ電車に乗る。


昨日、S級指定種のアイアンタイタンを倒したからといって、大学が休みになるわけではない。


探索者になったとはいえ、俺は大学生だ。


講義があるなら大学へ行く。


ただ一つ、いつもと違うことがあるとすれば――。


「……なんか見られてる?」


駅から大学へ向かう途中。


さっきから妙に視線を感じる。


気のせいかと思っていたが、大学の敷地へ入ってからは明らかだった。


すれ違った学生がこちらを見て、そのまま隣を歩いていた友人に何かを囁く。


少し離れたところにいた二人組も、俺と目が合った瞬間に慌てて視線を逸らした。


昨日まではこんなことなかった。


原因を考えていると、前から歩いてきた男子学生が俺の顔を見て足を止めた。


「あの……」


「はい?」


「もしかして、ダンジョン配信してる人ですか?」


「ああ、はい」


答えた瞬間、男子学生の表情が明るくなった。


「やっぱり! 昨日の配信見ました。アイアンタイタン倒したやつ」


「ありがとうございます」


「次も見ます。頑張ってください」


「あ、はい」


男子学生は軽く頭を下げると、そのまま友人らしき人のところへ戻っていった。


その背中を見送る。


「……本当に声掛けられるんだ」


昨日コメント欄で、有名人だとか顔が知られているとか散々言われていた。


登録者十五万人。


数字としては分かっていたけど、実際に知らない人から声を掛けられると話が違う。


「あ」


少し離れた場所に健太がいた。


こっちを見ながら笑っている。


絶対に気付いていた。


健太のところまで歩いていく。


「さっき知らない人に声掛けられた」


「見てたよ」


「なら助けろよ」


「何を助けるんだよ。普通に応援されてただけだろ」


「それはそうだけど」


健太が笑いながら俺の肩を叩く。


「だから昨日、覚悟しとけって言っただろ」


「こういう意味だったの?」


「これだけじゃねえよ」


「まだあるの?」


「お前、自分が昨日どれだけ話題になったか分かってないだろ」


「アイアンタイタン倒したこと?」


「それも含めてだよ」


健太がスマホを取り出した。


画面を見せられると、そこには見覚えのある光景が映っていた。


俺だ。


アイアンタイタンの腕を駆け上がっている。


タイトルには、


『F級大学生、S級指定種を単独撃破』


と書かれている。


再生数を見る。


「……二百八十万?」


「それ、切り抜きだからな」


「俺のじゃないの?」


「お前の配信を切り抜いたやつ。似たようなのが何本も上がってる」


健太が画面をスクロールする。


確かに他にもある。


アイアンタイタンとの戦闘だけじゃない。


二十一階の巨大な湖を映したもの。


これまでの探索歴について話している場面。


さらには、俺がコメント欄の質問に答えているだけの動画まである。


「こんなにあるんだ」


「昨日から一気に増えた。SNSでもかなり回ってるぞ」


「へえ」


「へえ、じゃねえよ」


健太が呆れたような顔をする。


「自分のことだぞ?」


「そうなんだけど、勝手に増えてるから実感なくて」


「お前はそういうやつだよな……」


健太がため息をついた。


そのまま二人で校舎へ向かう。


途中でも何度か視線を感じた。


全員が俺を知っているわけではない。


当然だ。


大学には大勢の学生がいるし、その全員がダンジョン配信を見るわけでもない。


それでも昨日までと違うことだけは、さすがに俺にも分かった。


「これ、ずっと続くのかな」


「お前次第だろ」


「俺?」


「次の配信でも何かやらかしたら、もっと増える」


「やらかすつもりはないけど」


「昨日もそうだっただろ」


それを言われると何も返せない。


アイアンタイタンを倒しただけなんだけどな。


***


午前の講義が終わり、健太と学食へ向かう。


席を確保してスマホを見ると、また通知が増えていた。


最近、画面を見るたびに通知が増えている気がする。


その中に、見慣れない通知が一つあった。


「……あ」


「どうした?」


「収益化、通ったみたい」


「マジ?」


健太が身を乗り出す。


通知を開く。


申請していたチャンネルの収益化が承認されたらしい。


説明を読んでいくが、正直よく分からない部分も多い。


「これでお金入るの?」


「入る。設定は必要だけどな」


「どのくらい?」


「再生数とか広告とかで変わる」


「バイト代くらいになれば助かるんだけど」


健太が黙った。


「何?」


「お前、自分の配信の再生数見た?」


「切り抜きはさっき見た」


「そっちじゃなくて、お前のチャンネル」


見ていない。


自分のチャンネルを開く。


昨日の配信アーカイブ。


表示されている再生数を見て、少しだけ目を疑った。


「……百七十万?」


「だから言っただろ」


「これ、全部に広告がつくの?」


「全部かどうかは知らん。でもバイト代どころじゃない可能性はあるぞ」


「そんなに?」


「俺も詳しくは知らんから、自分で調べろ」


「そうする」


適当に設定して、後から困るのも嫌だ。


スマホを閉じようとしたところで、今度は着信が入った。


表示されているのは探索者協会。


「協会からだ」


「昨日の件じゃね?」


電話に出る。


「はい」


『探索者協会です。今、お時間よろしいでしょうか』


昨日会った職員の声だった。


「大丈夫です」


『昨日お話しした再審査についてですが、結果が出ました。併せて、お預かりした魔石の査定も終了しています』


『本日、お時間があれば一度協会までお越しいただきたいのですが』


今日の講義はもう終わっている。


「今日行けますよ」


『ありがとうございます。それでは、お待ちしています』


電話を切る。


「何だって?」


「ランクの再審査と、魔石の査定が終わったって」


「今日行くの?」


「うん」


健太が少し考える。


「ランク、何になると思う?」


「さあ」


「S級倒したんだから、結構上がるんじゃね?」


「単純に戦闘力だけで決めるものじゃないって言われてるから」


「まあ、いきなりS級とかはないか」


「俺もそれは困る」


そもそも登録したばかりだ。


ランクが上がると言われても、いまいち実感がない。


「それより魔石の方が気になる」


「最低三百万だっけ?」


「うん」


「そっちにはちゃんと食いつくんだな」


当たり前だ。


三百万円は大金だ。


***


午後。


探索者協会へ到着すると、昨日会った職員が待っていた。


「お待ちしていました」


「こんにちは」


案内され、そのまま奥へ進む。


通されたのは昨日と同じ会議室だった。


中には佐伯さんもいる。


軽く挨拶をして席へ座った。


「今日は主に二点、お伝えすることがあります」


佐伯さんが書類を机の上へ置く。


「まず、探索者ランクの再審査についてです」


「はい」


「審査の結果、C級への昇格が決定しました」


「C級」


F、E、D、C。


三つ上がったことになる。


「随分上がるんですね」


「異例ではあります。ただ、S級指定種であるアイアンタイタンの単独討伐が正式な記録として確認されていますから、F級のままにしておく方が不自然です」


「なるほど」


「ただし、誤解しないでいただきたいのですが」


佐伯さんが続ける。


「あなたの実力をC級相当と判断した、という意味ではありません」


「違うんですか?」


「むしろ逆です」


佐伯さんは少し困ったような表情を浮かべた。


「現時点では、どこまで評価すればいいのか判断できません」


「……そんなことあるんですか?」


「普通はありません」


即答された。


「アイアンタイタンを単独で討伐できる戦闘能力だけを見れば、当然C級の範囲には収まりません。しかし探索者ランクは、単純な戦闘能力だけで決定するものではありません」


前にも聞いた話だ。


「加えて、あなたの場合は探索実績の大部分が確認できていません。三十八階まで到達したという事実についても、現時点で協会が確認できているのは、あなたの証言と途中までの配信映像だけです」


「だからC級?」


「はい。現段階で正式に認定できる範囲での、特例的な昇格だと考えてください」


納得できる。


俺自身、いきなりS級ですと言われる方が困る。


「分かりました」


「今後の実績次第では、さらに再審査を行うことになります」


新しい探索者カードを受け取る。


手元のカードには、まだ見慣れないFの文字。


それがもうCに変わるらしい。


「F級、短かったな」


思わず呟く。


向かいの職員が小さく笑った。


「私も、これほど早く交換することになるとは思いませんでした」


それは俺も同じだ。


新しいカードを財布へしまう。


「それと、昨日の配信についてもう一つお話があります」


「まだ何か?」


「身体強化です」


その言葉で、少し姿勢を正す。


登録の際にも言われた。


俺は無意識に身体強化を使っている可能性がある、と。


佐伯さんがタブレットを操作する。


画面に映ったのは、アイアンタイタンとの戦闘の終盤だった。


巨体から放たれた攻撃を掻い潜り、一気に距離を詰める。


そのまま踏み込み、最後の一撃を叩き込む。


自分の戦いをこうして改めて見るのは、なんだか変な感じだ。


「昨日の映像を確認しましたが、やはり戦闘中に身体強化を使用している可能性が高いと考えています」


「やっぱり使ってるんですか?」


「断定はできません。ただ、登録時の測定結果とこの映像を比較すると、その可能性が最も高い」


画面を見る。


自分では、必死に戦っていただけだ。


「全然分からないです」


「でしょうね。意識して使っているのであれば、そもそも身体強化を知らなかったという話にはなりません」


「確かに」


「おそらく戦闘中、必要に応じて無意識に魔力を身体へ回しているのでしょう」


必要に応じて。


昨日の戦闘を思い出す。


途中から、身体の奥が熱くなるような感覚があった。


あれがそうだったんだろうか。


「自分で使えるようになるんですか?」


「可能性はあります」


今度は隣にいた職員が答えた。


「無意識とはいえ、実際に行っているのであれば、感覚を掴むことで意識的に再現できるようになる可能性はあります」


「どうやって?」


「まずは無理に魔力を動かそうとしないことです」


職員は少し考えながら説明する。


「戦闘中に身体がどう変化しているのか。普段と何が違うのか。最初はそれを意識してみる程度でいいでしょう」


なるほど。


いきなり身体強化を使おうとするんじゃなくて、すでに使っているものを探す。


それならできるかもしれない。


「ただし、一つだけ注意してください」


職員の声が少しだけ強くなった。


「仮に今よりも強く身体を強化できそうな感覚があったとしても、それ以上は試さない方がいいでしょう」


「なんでですか?」


「身体への影響が分からないからです」


職員が俺を見る。


「身体強化は、魔力を流せば流すほど安全に強くなれるものではありません。出力を上げれば、それだけ筋肉や骨、内臓への負荷も大きくなります」


「なるほど」


「特にあなたの場合、これまで意識的に身体強化を使った経験がない。どこまで身体が耐えられるのかも分かっていません」


確かに。


そもそも、今どのくらい身体強化しているのかすら分かっていない。


「まずは今まで無意識に使っていたものを理解する。それだけにしてください」


「分かりました」


危ないと言われてまで試す理由もない。


俺が知りたいのは、昨日感じた身体の変化が本当に身体強化なのかどうかだ。


次に魔物と戦うとき、少し意識してみよう。


「では、もう一点」


佐伯さんが別の書類を取り出した。


「アイアンタイタンの魔石についてです」


こっちも気になっていた。


「査定が終わりました」


「いくらでした?」


昨日、少なくとも三百万円は下らないと言われている。


それだけでも十分すぎる金額だ。


「協会としての買取額は、四百二十万円です」


「…………」


聞き間違いかと思った。


「四百二十万?」


「はい」


「昨日より結構上がりましたね」


「詳しく調べた結果、かなり質の高い魔石だと分かりました」


佐伯さんが査定書をこちらへ向ける。


「特に魔力の純度が非常に高い。加えて、内包している魔力量も通常のアイアンタイタンを大きく上回っています」


「そんなに違うんですか?」


「ええ。魔石だけを基準に評価するなら、S級の中でも上位に相当する数値です。大きさも十分ですから、それらを考慮して四百二十万円という査定になりました」


「へえ……」


魔石を拾ったときは、いつもより随分大きいなと思ったくらいだった。


そんなに質のいいものだったとは知らなかった。


「これ、本当に俺がもらっていいんですよね?」


「あなたが討伐した魔物から得たものです。当然です」


四百二十万円。


大学生の俺にとっては、まったく現実味のない金額だ。


バイトを何年すれば貯まるんだろう。


「売ります」


「では、こちらに署名をお願いします」


書類を確認して名前を書く。


振込先などの必要事項も記入して、手続きを進める。


その途中で、佐伯さんがふと思い出したように尋ねた。


「そういえば、他にも魔石をお持ちなんですよね?」


「ありますよ」


「どのくらいですか?」


「どのくらい……」


考えてみる。


七年間、魔物を倒して魔石が出れば持ち帰っていた。


数えたことはない。


「結構あると思います」


「それぞれ、どの魔物から得たものか分かりますか?」


「いや、ほとんど覚えてないです」


「分類などは?」


「してないですね」


佐伯さんが一瞬黙った。


「……全部まとめて保管しているんですか?」


「はい。大したものじゃないと思ってたし、俺、探索者でもなかったので」


魔石に価値があることくらいは知っていた。


ただ、わざわざ持ち込むほどのものだとは思っていなかった。


拾ったものを捨てるのも何となく勿体なくて、そのまま家に置いてある。


「では、後日で構いません。一度まとめて持ってきていただけますか?」


「全部ですか?」


「できれば」


「分かりました」


何個あるか分からないけど、持って来られない量ではないと思う。


「それと、もう一つお願いがあります」


「はい?」


「以前、ダンジョン内の宝箱からポーションを入手したとお話しされていましたよね?」


「ああ」


そういえばあった。


家に置いたまま、すっかり忘れていた。


「まだお持ちですか?」


「ありますよ。家に」


「可能であれば、そのポーションも一度調査させていただけないでしょうか」


「いいですよ」


使う予定もない。


「ありがとうございます。貴重なダンジョン産アイテムですので、成分や含有魔力などを分析したいと考えています」


「分かりました。魔石と一緒に持ってきます」


「お願いします」


手続きが終わり、書類を受け取る。


四百二十万円。


C級探索者。


身体強化。


大量の魔石。


忘れていたポーション。


一度に色々ありすぎて、少し頭の整理が追いつかない。


***


協会を出る。


まだ夕方には少し早い。


今日はバイトもない。


何となくスマホを取り出し、自分のチャンネルを開く。


「……十八万」


朝より増えている。


昨日までなら、数百人増えただけでも驚いていた気がする。


今は数万人増えても、「また増えた」くらいに感じ始めている。


慣れるのが早すぎる。


財布には、新しく発行されたC級の探索者カード。


数日後には四百二十万円が振り込まれる。


チャンネルの収益化も承認された。


数日前まで、俺は大学へ行って、バイトをして、時間があれば一人でダンジョンへ潜っていた。


やっていること自体は、今もそれほど変わっていない。


ただ、配信を始めただけだ。


それなのに周りだけが急に変わり始めた。


スマホをポケットへ戻す。


ふと、昨日のアイアンタイタンとの戦いを思い出した。


身体の奥が熱くなった感覚。


あれが魔力だったのだとしたら。


俺は七年間、ずっと知らないまま身体強化を使っていたことになる。


「身体強化か……」


次にダンジョンへ入ったら、少し意識してみよう。


強くする必要はない。


今まで自分が何をしていたのか。


まずはそれを知りたい。


そして、もう一つ。


頭に浮かんだのは、四つの目を持つ黒い狼だった。


三十八階。


初めて遭遇したときは、まともに戦うことすらできなかった相手。


アイアンタイタンと久しぶりに戦って、昔より自分が強くなっていることは分かった。


身体強化についても、ようやく知るきっかけを得た。


今なら。


あいつと、どこまで戦えるんだろう。


スマホを取り出し、予定を確認する。


大学。


バイト。


その間にある空いている日を探す。


「……次、もう少し深くまで行ってみようかな」


三十八階まで行くとは、まだ決めていない。


それでも。


久しぶりにあの狼と戦ってみたい。


そんな気持ちが、少しずつ大きくなっていた。

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― 新着の感想 ―
普通のF級がS級を倒せると思われては困るから切り抜きについては少しは協会側も一言ぐらいないのかね。 乱雑に切り抜きされると悪意のある切り抜きとかも出てくると思うのだが。
s級指定種と言う凄そうな相手の魔石にしては安いな、、、と思ったら皆さん同じ感想だったか。 命懸けでもなくサクッと倒せる主人公的には十分な金額なんだろうけど、本来ならs級と言う国内でも数十人しかいない人…
S級でその値段…。魔石は確定ドロップでは無い&S級だからまだ実用化の目処=価値が確定してない?にしてもだいぶ安い気がする。 でも協会=役所と考えるとそんなものって気もする。
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