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龍血譚   作者: 色タコス
第2シーズン WHAT LIGHTNING SEES

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猛者たちの饗宴

翌朝、聖都オクヘイムの東門には、冷たく澄んだ空気が張り詰めていた。朝日を背に受けて集結した遠征部隊の面々は、それぞれの愛馬を整え、出発の刻を静かに待っていた。


レイは門の傍らに佇みながら、これから共にケルオス大陸へと向かうメンバーたちを一人ずつ観察していた。シヴォンとはすでに度々手合わせをしてきたが、他の精鋭たちとは顔を合わせる程度の付き合いしかなかったからだ。


「なーな、アリス。俺、シヴォンさんのことはよくわかるけど、他の3人のこと、実を言うとあんまり詳しくわかってないんだよね」


レイが小声でアリスに尋ねると、彼女は「ふふ、じゃあこの機会に紹介してあげる!」と弾むような声で答えた。


「みんな、この隊を支えるベテラン戦士たちだよ。まずは――アレキドロさん」


アリスが指さした先にいたのは、腰に奇妙な金属筒を佩いた長身の男だった。


「彼はこの世界でも世にも珍しい『鉄砲使い』だよ。彼が放った弾丸は、どんなに素早い相手でも外れることがないと言われているんだ」


「放った弾は外さない……。どこか既視感があるな」

レイは東門でレイを執拗に狙撃してきたあの侵入者を思い出し、眉をひそめた。だが、アレキドロの瞳には侵入者のような禍々しさはなく、職人のような静かな誇りが宿っていた。


「2人目は、あの大きな盾を背負っているコルドレンさん。この人は、その盾を駆使して戦う守護の達人だよ」


見れば、背丈ほどの巨大な大盾を背負い、泰然自若として立つ大男がいる。


「なるほど……。この隊の、絶対的な鉄壁役か。あんな盾があれば、どんな攻撃も防げそうだ」


「そして3人目は、ジオラさん。この部隊では数少ない女性の一人だけど、彼女の槍さばきは本当に美しいの。まるで舞を見ているみたいよ」


銀色の長槍を軽々と操り、凛とした佇まいで立つ女性戦士。ジオラと目が合うと、彼女はふわりと優雅に微笑んだ。レイは「強い女性の方か……」と思わず見惚れそうになったが、そこでふと気づいた。


「あ、でも……回復とかのサポート役は?」


レイの疑問に、アリスはクスッと笑って答えた。


「回復役? それはミカ副隊長の仕事だよ。あの人は、この大陸でも滅多に見かけない『治癒魔法』の使い手なんだから」


一通り今回の遠征メンバーの紹介を終えたその時、隊の背後から「やれやれ」と溜息混じりの声が響いた。


「皆、待たせて悪かったな。……少し朝から腹を下していてね」


現れたのは、トリスタンだった。普段の冷徹な姿からは想像もつかないような、いかにも人間らしい苦笑いを浮かべている。

隊のメンバーは一瞬呆気にとられたあと、次々と笑い声を上げた。


「隊長、もう! 遠征の前日にしっかりしてくださいよー!」


「そんなことじゃケルオス大陸まで持ちませんよ!」

張り詰めていた空気が一気に和らぐ。トリスタンは苦笑しながら手を振り、再び隊長の顔つきへと戻った。

「よし! 気を取り直してそろそろ向かうとするか。ケルオスへの道は遠いぞ!」


トリスタンが愛馬の手網を力強く握り直すと、隊全体が心地よい緊張感に包まれた。


馬蹄の音が石畳を叩き始め、一行は聖都の門をくぐり抜ける。遥か彼方、霧の向こう側に広がる未知の大陸ケルオス。そこにはまだ見ぬ真実と、親友ノイの足跡が待っている。


レイは深く息を吸い込み、力強く馬を前へと進めた。聖剣アスカリオンの重みが、かつてないほど頼もしくレイの腰で揺れていた。


ケルオス大陸を目指す旅路は、想像以上に過酷なものだった。切り立った断崖や深い森を抜け、ようやく一行が野営の準備を整えたのは、満天の星が降り注ぐ山間の開けた場所だった。


火を囲み、温かいスープを啜りながら、張り詰めていた空気が少しずつ緩んでいく。そんな時、先ほどまで槍の手入れをしていたジオラが、しなやかな足取りでレイの隣に腰を下ろした。


「私、ジオラっていうの。これからよろしくね、レイ!」


不意に距離を詰められ、レイは心臓が跳ね上がるのを感じた。年上の女性というものに不慣れな上、月明かりに照らされた彼女の無防備な胸元が視界に入り、思わず顔を真っ赤にして慌てて目を背けてしまう。


「あ、あぁ……っ、はい! こちらこそ、よろしくお願いします……っ!」


そんな様子を察したのか、ジオラは楽しそうにクスクスと笑った。すると、隣から重厚な声が響く。


「そうか、こちらから自己紹介をしていなかったな。俺はコルドレン。守りなら俺に任せろ」


巨漢の戦士が差し出したその手は、まるで岩のように大きく、厚い。その自信に満ち溢れた瞳を見た瞬間、レイの心には不思議な安心感が広がった。単なる力強さではなく、仲間を必ず守り抜くという鋼のような決意を感じたからだ。レイは、尊敬の眼差しでその手を取り返した。


そして、手入れしていた奇妙な金属筒――鉄砲を膝に置いていたアレキドロが、静かに口を開いた。


「俺はアレキドロだ。この鉄砲は、レオンという聖都屈指の発明家から譲り受けたものだ。……長年の相棒さ」


その名を聞いて、レイは驚きに目を見開いた。


「レオンさん……! 俺、そのレオンさんから、この写真機を貰ったんです!」


レイは興奮しながら、聖剣を下げているのとは反対の腰に吊り下げていた小さなケースを開き、大事に持ち歩いている写真機をみんなに見せた。


アレキドロは、その写真機を目にした瞬間、驚愕で目を丸くした。


「ほぇぇ……! あの男の初めての発明品じゃないか。これを持たせてもらえるとは……さすが英雄の息子だな」


「まさか、この隊で他にもレオンさんと交流がある人がいるなんて! いやぁ、本当にびっくりです」


レイの興奮冷めやらぬ様子を見て、アリスは温かい眼差しでレイを見つめ、そっと声をかけた。


「みんな、とってもいい人たちでしょう? これからは一人で抱え込まずに、沢山頼ってね」


その時、焚き火の向こうで薪をくべていたトリスタンが、パチパチと爆ぜる火の粉を見つめながら口を開いた。


「……まだまだケルオス大陸への道は遠い。これから先、何が起こるか予測もできん。気を引き締めていけ。無論、仲間と仲良くなることは悪いことではない」


「そうですね」


トリスタンの隣で静かに地図を畳んでいた副隊長ミカが、優雅に微笑んで付け加えた。


「まぁ、信頼関係を築くのも、この遠征においては大切なことですからね。……たとえ、どんな困難が待ち受けていようとも」


焚き火の炎が、それぞれの顔を赤く染め上げる。

ノイがいなくなったという喪失感は消えない。だが、こうして新しい仲間たちと語り合う夜は、レイの心に「守るべきもの」の輪郭を少しずつ明確にさせていた。


ケルオス大陸に何が待っているのか。そこにあるのは希望か、それとも深い絶望か。


しかし、頼れる仲間たちがいる。その事実が、レイの旅路を力強く支えていた。夜は静かに更け、明日に備えて騎士たちはそれぞれの夢路へと就く。遠征の旅は、まだ始まったばかりであった。


穏やかだったはずの夜の静寂が、突如として激しい地響きによってかき消された。地面が振動し、木々が大きく揺れる。獣の咆哮が闇の奥から木霊し、獣特有の荒々しい臭気が周囲に充満した。


「……魔物が向かってきている。それも、ただの群れじゃない。全員、武器を取れ!」


シヴォンの鋭い警告が響く。焚き火を囲んでいた騎士たちが、一瞬で臨戦態勢へと切り替わる。森の闇から現れたのは、並外れた怪力と凄まじい耐久力を誇る人型の怪物、『オーガ』たちだった。その角や牙が月光を反射し、飢えた眼光が騎士たちを獲物として捉えている。


レイは腰の聖剣アスカリオンに手をかけながら、内心で激しい興奮を覚えていた。


(ここだ……! ここで、この隊の猛者たちの真の実力が目の当たりにできる……!)


シヴォンが一番に駆け出した。愛用の巨大な斧をまるで風車のように振り回し、その圧倒的な膂力で正面に立ちはだかるオーガたちを容赦なくなぎ倒していく。切り裂かれた肉塊が飛び散り、闇に怪物の断末魔が響く。


パァァンッ!!


乾いた銃声が戦場にこだまする。アレキドロの鉄砲から放たれた弾丸は、闇の中を一瞬で駆け抜け、突撃してくるオーガの眉間を正確無比に貫いた。オーガは反動で後方へ吹き飛び、絶命する。


「あぁ……やはり、狙い違わず!」


続けてコルドレンが巨大な盾を構え、オーガの突撃を真正面から受け止めた。


「防御は最大の攻撃……だ!」


彼はただ耐えるだけではなかった。盾の重厚な縁でオーガの懐を強打し、その怪物を空高く宙へと放り投げる。巨体が宙に浮いたその刹那――。


ヒュンッ! という美しい風切り音と共に、ジオラの長槍が閃いた。宙に舞ったオーガの胸を一撃で正確に貫き、地面へと縫い付ける。その槍さばきは、まるで舞踏家が優雅なステップを踏むかのような、流れるような芸術品だった。


「ふふ、隙だらけよ」


さらに、後方で様子を伺っていた副隊長ミカが、優雅に歩み寄る。回復魔法の使い手として名高い彼だが、その実力は伊達ではなかった。オーガの腕を軽く掴み、関節を極めるような最小限の動作で、強靭なはずの怪物を地面へと叩き伏せた。


「……力を使うまでもないね。これ以上、騒がないでくれるかな」


戦況を見守っていたアリスも、愛用の竜の装飾が施された長槍を手に取る。今回は騎乗しない彼女だが、その槍さばきはジオラを彷彿とさせる繊細かつ力強いものだった。彼女の槍が描く幾筋もの軌跡が、迫りくるオーガの群れを次々と切り裂いていく。


そして、最後にトリスタンが悠然と前へ出る。

彼は魔力を持たない。しかし、その身に宿る「人間としての極み」は、魔力で強化された獣たちをも凌駕していた。ただの拳と剣だけで、オーガの群れを支配し、圧倒的な力の差を見せつけて蹂躙する姿は、まさにこの部隊を束ねる王の風格があった。


(……やっぱ、みんな凄いなぁ。全員、次元が違う……!)


レイは圧倒的な光景に呑まれそうになりながらも、その情景を焼き付けた。同時に、自分の心の中に眠る龍の血が、熱く脈打つのを感じる。


(……負けられない。俺も、ただ見ているだけなんて嫌だ!)


レイは自分を鼓舞し、向かってくる最後の巨大なオーガを見据えた。


「これを受けてくれ!」


レイは聖剣を強く握り込み、全身の雷の魔力を剣先へと集中させる。電光石火の踏み込みとともに、彼は渾身の奥義を放った。


「喰らえ……! 『雷霆神斬らいていしんざん』――っ!!」


レイの剣から放たれた稲妻の斬撃は、夜の闇を白銀に塗りつぶし、オーガの巨体を一瞬で粉砕した。

闇に溶けゆくオーガたちの死体を背に、レイは荒い息を吐きながら剣を収める。猛者たちの競演と、自身の成長を実感した夜。ケルオス大陸への旅路は、確実にレイを「英雄の息子」から、一人の「騎士」へと変貌させていた。

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