第9話 聖騎士長との激突、そして圧倒的な壁
聖都の一角で突如として持ち上がった、聖騎士をパーティに迎えるという無謀な提案。周囲が呆れる中、先ほどまで冷ややかに腕を組んでいた副聖騎士長『ジンガー』が、ふっと不敵な笑みを浮かべて一歩前に出た。
「おいおい、道端の勧誘じゃあるまいし、タダで王国の精鋭が動くわけないだろう。……どうしても聖騎士を仲間に引き入れたいってんなら、我が団の最高峰、聖騎士長のもとに連れていってやるよ。そこで直接直談判してみな」
ジンガーのその言葉に導かれ、ヘリオスたちは王国の最高峰が控える場へと連れられていくことになった。やがて案内された先で突然の急な客人たちに通されたのは、厳重に警備された王城の広間であり、そこにいた聖騎士長『ヴァルガス』は、思いがけない訪問者たちの姿に目を丸くして驚きを隠せなかった。
「ほう、急な客人だと思えば……一体、我が団にどのような用件だ?」
筋骨隆々な白髪の男性がヘリオス一行を見つめた……
ヒューガが臆面もなく聖騎士をパーティに欲しいと告げると、ヴァルガスはしばし呆れたように沈黙したのち、やがて愉快そうに豪快な笑い声を上げた。
その性格は、豪快で度胸があり、面白そうと感じれば身分を問わず受け入れる懐の広さを持つ一方で、物事の本質や実力を一瞬で見抜く冷徹なほどの鋭さと、決して揺るがない圧倒的なカリスマ性を併せ持っていた。どこかヒューガに通じる軽妙さと面倒見の良さを漂わせながらも、国を背負う者としての厳格さと底知れぬ気高さを纏う人物だった。
「面白い。いいだろう、その無謀な願い、我が力で試してやろう」
ヴァルガスはすぐさま国王に向かってこの御前試合の許可を求め、直談判を行った。国王は最初、あまりの突拍子もない申し出にあきれ返ったような深い溜息をつき、呆れた顔を隠さなかったが、「――だが、ヴァルガスがそこまで言うなら、お前が言うなら間違いないのだろう」と、信頼する聖騎士長の言葉を信じてその戦いを快く了承した。
特等席のバルコニーから国王が見守る中、その場ですぐに御前試合が執り行われることになった。最初に飛び出したのはヒューガだった。
「おっしゃ、若造のハッタリに付き合ってやるのも一興だが……手加減なしといこうぜ!」
ヒューガは愛用の長槍を構え、自らの『風』のソルシュを開放して超高速の突きを放つ。
『疾風一閃・翠嵐槍!』
しかし、聖騎士長ヴァルガスはわずかに体を傾けただけでそれを見切る。
「遅い」
『風刃・真空界』
たった一撃。放たれた圧倒的な真空の壁がヒューガの防御を正面から粉砕し、彼は激しい衝撃と共に吹き飛ばされて地面に倒れ込んだ。一瞬にして意識を刈り取り、ヒューガはピクリとも動かない。
バルコニーから見下ろす国王が「ほう……見事な手際だな」と小さく呟く中、絶句するヘリオスの横で、レオンが鋭く眼鏡を光らせて前に出た。
「……計算以上の脅威だね。だが、ここで引く選択肢はない」
レオンは手元で極限まで冷却された絶対零度の冷気を一気に解き放つ。
『氷結陣・絶対零度』
無数の鋭い氷の槍がヴァルガスを包囲するが、ヴァルガスは纏った風を鋭い竜巻へと変化させた。
『暴風輪・風神の帳』
猛烈な旋風が絶対零度の氷の槍をものの見事に弾き飛ばし、冷気ごと掻き消してしまう。圧倒的な力の差に、レオンは歯噛みしながら床へと膝をついた。
残されたのは、ヘリオスとマニーだった。守るべき妹を背にかばい、ヘリオスは震える手で父の形見である剣『アスカリオン』の柄を強く握りしめる。
(火球以外の技なんて、まだ使えない……! だけど、この剣に、俺のすべてを乗せるんだ……っ!)
「うおおおおおっ……!!」
ヘリオスは己の持つ『炎』の魔力を限界を超えて絞り出し、火球を生み出す要領そのままで、アスカリオンの刀身に熱量を叩き込んだ。燃え盛る熱情を乗せたむき出しの炎の斬撃を叩きつける。
『炎剣・焦熱紅蓮斬』
紅蓮の刃が一直線に迫るも、ヴァルガスは静かに右手を翳した。
「熱い想いだけでは、壁は越えられんよ」
放たれた風の余波が、ヘリオスの炎の斬撃を完璧に消し去る。強烈な風圧に吹き飛ばされ、ヘリオスはアスカリオンを手放しながら地面に倒れ込んだ。
戦闘の静寂が戻る。ヒューガ、レオン、そしてヘリオス――全員が敗北を喫した。
バルコニーの国王も静かに見守る中、剣を収めたヴァルガスは、倒れたヘリオスたちへ静かに手を差し伸べると、ふっと含みのある笑みを浮かべた。
「だが、お前たちのその無謀な熱意は買った。……よし、我が団の戦力を分けてやろう。案内役を務めたジンガーと、私の頼れる部下2人を連れて行くといい」
その言葉に、先ほどまで余裕の表情を浮かべていた副聖騎士長ジンガーは、「は……? 私ですか!?」と思わず目を丸くし、間抜けな声を漏らして盛大にずっこけそうになった。自分をも巻き込むあまりの鶴の一声に、彼の整った顔立ちは信じられないといった驚愕の色に染まる。
そんなジンガーの反応を尻目に、ヴァルガスはさらに続けた。
「ただし、条件がある。騎士団の過酷で厳しい訓練を、今から半年間しっかりと耐え抜くことだ。それがクリアできれば、彼らを正式に加えることを許可しよう」
「半年間だって……!? そんなことしていたら、ロキの魔の手が世界にもっと広まってしまう! 時間がないんだ!」
ヘリオスは焦りと怒りを滲ませて声を荒らげたが、ヴァルガスは静かに諭した。
「焦る気持ちは分かる。だが、基礎の土台すらできていない未熟な者が、ただ勢いだけで特異な怪物のもとへ突っ込んでいけば、それは全滅を意味する。……本気で奴を討ちたいのなら、足元を固める覚悟を持て」
その厳しくも確かな言葉に、ヘリオスは苦渋の決断を下す。
こうして、ロキを討つための力を得るため、そして火球以外の真の戦い方を学ぶため、彼らは騎士団のもとで半年間におよぶ過酷な訓練に参加することになったのだった。




