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英雄が紡ぐ物語   作者: 色タコス
第1シーズン 太陽の戴冠

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第10話 聖騎士長の問いかけと、答え

過酷な半年間の訓練が始まる前の束の間、ヘリオスは騎士団本部の一室へと呼び出されていた。そこに待っていたのは、圧倒的な実力で一行を打ち破った聖騎士長・ヴァルガスその人だった。

窓から差し込む朝日が広い部屋を橙色に染める中、ヴァルガスは机に肘をつき、組んだ指の間に顎を乗せて静かにヘリオスを見据えた。


「で、ヘリオスと言ったか。訓練の前に、一つお前に聞いておきたいことがある」

ヴァルガスの低く落ち着いた声が部屋に響く。ヘリオスは身を引き締め、わずかに緊張した面持ちでうなずいた。


「なんでしょう、ヴァルガスさん」

「お前はあの『ロキ』を倒すために旅をしているそうだな。……だが、先ほどの戦いを見る限り、お前はまだ我流の火球以外にまともな技すら持っていない。基礎の魔力や剣の扱いは、まぁ筋はあるがくないが、世界を支配しようとする化け物を討つには、あまりにも武器が少なすぎる」


図星を突かれた形となり、ヘリオスは悔しそうに歯噛みしながら拳をぎゅっと握りしめた。

「……分かっていますよ。自分の実力が足りないなんて、痛いほど思い知らされた。だけど……!」


「そう熱くなるな。責めているわけではない」

ヴァルガスはふっと柔らかな笑みを浮かべ、まるで我が子を見るような、しかしどこか見透かすような深い瞳でヘリオスを見つめ直した。


「それにしても、最近の世間は物騒になったものだ。お前はロキを追って各地を回っているが、外の状況がどうなっているか知っているか?」

「外の状況……?」


ヘリオスが首を傾げると、ヴァルガスは机の上の書類に視線を落とし、険しい表情で語り始めた。


「あいつが姿を現して以来、王国の周辺だけでなく、遠く離れた交易都市や辺境の村々でも不穏な噂が絶えない。魔物の気性が荒くなっているだけでなく、人間の間でも『ロキの残響』を信仰する不気味な新興宗教の影がちらついているらしい。そして『 6人の大罪人』を従えているとの情報も聞いている。世界は今、目に見えないところで静かに歪み始めているのさ」


王国の中心にいる聖騎士長すらも警戒する、世界の不穏な裏側。そのスケールの大きさに、ヘリオスはごくりと唾を飲み込んだ。


「新興宗教……6人の大罪人……そんな大変な時に、フラフラ旅をしてていいのでしょうか……」


「だからこそだよ。お前がロキを追うことは、結果的にこの世界全体の癌を取り除くことに繋がる。だが、今のままでは旅の途中で足元をすくわれるだけだ」


ヴァルガスは話を本題へと戻し、まっすぐにヘリオスに問いかけた。


「改めて聞こう。お前は、なぜそこまでしてロキを追う? 復讐か? それとも、世界を救うという英雄気取りの正義感か?」


その問いに、ヘリオスは少しだけ言葉を詰まらせた。かつて国を滅ぼされ、父を奪われた記憶が脳裏をよぎる。復讐心がないと言えば嘘になる。だが、それだけではないという熱い想いが胸の奥で渦巻いていた。


「……復讐なんて思わないわけがない。だけど、それだけじゃないんだ」

ヘリオスは顔を上げ、まっすぐにヴァルガスを見返した。

「俺の大層な使命感とかじゃなくてさ……これ以上行く先々で泣いている人たちや、今日聞いたみたいに不安に怯える人たちを、ロキにこれ以上踏みにじられたくないんだ。マニーを守りたいし、誰もが怯えなくていい、皆が望む平和な世界を取り戻したいんだよ……!」


飾らない、しかし嘘偽りのない少年の言葉。ヴァルガスはその答えをじっと聞いた後、満足したように小さくうなずいた。


「ふむ……憎しみだけでも、綺麗事だけでもない。その両方を背負って前に進おうというわけか。背伸びして、重たい荷物を背負い込んだものだな」


ヴァルガスは椅子から立ち上がり、ヘリオスの肩にドンと重みのある手を置いた。


「いいだろう。その真っ直ぐな瞳と覚悟、気に入った。これから始まる半年間の訓練は、地獄のように厳しいものになる。だが、お前が本気で食らいついてくるなら、俺たちも持てる限りのすべてを叩き込んでやる」


「――ありがとうございます!」

ヘリオスの声に力がこもる。広い世界に渦巻く闇を打ち払うため、そして圧倒的な壁の向こう側で見えた光を掴むため、少年は聖騎士長との対話を経て、本当の意味での第一歩を踏み出すのだった。

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