↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍血譚   作者: 色タコス
第2シーズン WHAT LIGHTNING SEES

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/111

選択と決意

「あ、そうだ。自己紹介がまだだったね」

薄緑の髪を風になびかせながら、少年は軽やかな足取りでレイに近づき、柔らかな笑みを浮かべて言った。


「俺はノイ。ノイ・アルフレッドだ。よろしく、若いの」


ノイはそう名乗ると、すぐ傍でうずくまり動けなくなっている巨漢のガルドを一瞥し、手慣れた手つきで懐から「魔力を抑制する特殊な手錠」を取り出した。ガルドの両腕に素早くそれを嵌めると、その巨躯から厄介な魔力の気配が綺麗に消え去る。


「暴れん坊はこれで大人しくさせておこう。測量の道具がこれだから役立つんだよね」


ノイが涼しげに笑ったその時、背後の木立の向こうから、もう一つの足音と、呆れを含んだよく通る声が響いた。


「おいノイ、勝手に一人でどこへ行っている。測量の仕事はどうした」


その声の主が現れた瞬間、ヒューガは思わずピクリと動きを止めた。

現れた男は、かつてヘリオスたちと共に数々の死線をくぐり抜けてきた仲間――ジンガーその人だった。

ヘリオスたちと肩を並べて戦っていた当時は『副聖騎士長』という揺るぎない身分にあった彼だが、時代の流れを経て、現在は聖都の『軍師』という重要な立場に身を置いていた。


「……おいおい、まさかここでその顔を見ることになるとはな」


ヒューガが懐かしさと驚きが入り混じった表情で声をかけると、ジンガーもまた、目の前にいるはずのない旧友の姿を認めてわずかに目を見開き、そして深く納得したようにフッと笑った。


「ヒューガ……生き延びていたのか。お前こそ、こんなところで何をしている」


二人が久々の再会に言葉を交わしていると、ジンガーの視線はふと、その傍らに立ち尽くす一人の少年に向けられた。


黄金の輝きを放つ『アスカリオン』を手にし、驚きに目を見開いているレイの姿をじっと見つめ、ジンガーは静かに頷いた。


「……間違いない。君がヘリオスの息子だな?」


レイがわずかに息を呑むと、ジンガーはどこか誇らしげで、しかしどこか切なさを帯びた瞳で微笑みながら告げた。


「その手に握られた剣こそが、彼が遺した最高の証だ。……よくぞここまで育ってくれた」


レイに優しい視線を向けたあと、ジンガーはすぐに表情を引き締め、周囲の空気をピリリと引き締めるような真剣な面持ちで語り始めた。


「……かつて、私たち聖都の騎士団とヘリオスの間には、ある『約束』があった。いつか世界に大きな有事が訪れたときには、互いに手を取り合い、共に戦ってくれないかという誓いにな」


ジンガーの言葉に、ヒューガは腕を組み、険しい表情でうなずく。


「ああ……あのときの約束か。いよいよ、その時が来たってわけだな」


ジンガーは視線を再びレイに戻し、重々しい口調で続けた。


「そうだ。……そして今、あの男の動きが再び活発になってきている。あいつはまだ直接表舞台に立って手を下しているわけではないが、着々と不気味な手駒を増やし、世界の脅威になりつつあるんだ」


その説明を聞いた瞬間、レイの脳裏には先ほど目の前の空間を歪めて現れ、不敵な笑みを浮かべた仮面の男の姿が鮮やかに蘇った。


(あの男……さっき目の前に現れた、ロキのことだ……!)


レイがハッとした表情で息を呑むと、ジンガーは一歩歩み寄り、切実な、だが逃れられない宿命を帯びた瞳で見据えた。


「龍の血を持つ子よ……。こんな頼みは、君のような若者に背負わせるにはあまりに我儘な願いかもしれない。だが……どうか、ヘリオスの代わりに、私たちと共に戦ってくれないか?」


軍師として聖都を支えるジンガーの言葉には、かつて友を失った男の悲壮感と、世界を守り抜くという揺るぎない覚悟が満ちていた。


手元の『アスカリオン』が、まるでレイの決意を試すかのように、静かに青白い光を帯びて微動したのだった。レイの返答を急かすことなく、ジンガーは静かに頷き、穏やかながらも重みのある声で続けた。


「もちろん、君にも選ぶ権利がある。拒否権だって当然あるさ。だから、今日から1日あげる。その間に、自分の心のなかとしっかりと向き合って考えておいてほしい」


ジンガーは一呼吸置くと、薄緑の髪を揺らすノイに合図を送り、手錠をかけた巨漢のガルドを連れてその場を後にしようとした。


「一日後、またこの場所に来る。そのときに、君の選択を聞かせてもらうよ」


そう言い残すと、ジンガーとノイは夕闇に包まれつつある村の道を歩き、静かに去っていった。

取り残された静寂の中、ヒューガはふっと息を吐き、レイの肩にそっと重い手を置いた。その瞳には、親友の息子を気遣う温かい光が宿っていた。


「……思い悩むことはないさ、レイ。お前には、この村に帰る場所があり、守るべき日常がある。だから、世界を背負うことだけじゃなく、自分のこれからの人生についてもしっかり考えるんだ。……もしお前が戦うことを拒否したとしても、あのジンガーたちはお前を責めたりは絶対にしないさ」


ヒューガの優しい励ましの言葉に、レイは力強くうなずいた。


こうして、激動の出会いと戦いを終えたレイとヒューガは一時的に別れ、それぞれの帰路へと就いたのだった。


家に帰宅したレイを迎えたのは、温かい灯りのともるリビングだった。


今日起きた信じられない出来事、聖剣アスカリオン、龍の血と雷の覚醒、そして世界を揺るがす戦いへの誘い――。


レイがその日、一番最初に言葉を交わしたのは、この村でずっと自分を育てて見守ってくれていた、自分の「じいちゃん」とお「ばあちゃん」だった。夕食の温かい灯りがともる食卓で、レイは意を決したように、向かいに座る祖父母にまっすぐ視線を向けた。


「ねぇ、じーちゃん、ばーちゃん……もし、俺がこの村から出るってなったら、悲しくなる?」


レイの突然の問いかけに、じーちゃんとばーちゃんは手を止め、穏やかで深いしわの刻まれた顔で静かに顔を見合わせた。どちらもそれを否定することはなかった。ただ、優しく、そして孫の背中をいつだって押す覚悟ができているかのような温かい笑みを浮かべるだけだった。言葉がなくとも、その瞳が「お前の選んだ道なら、いつでも見守っているよ」と語りかけていた。


その時、ガチャリと玄関の戸が開き、仕事から帰ってきた母・ミーナが家に入ってきた。彼女の顔には疲労の色とともに、微かな緊張が滲んでいる。


「ただいま……。ねえ、さっき村の外れですごく大きい音がしたんだけど、何があったか知ってる?」


ミーナは心配そうにレイへと歩み寄り、尋ねた。

レイは一瞬息を呑んだが、隠し通せることではないと思い、真剣な表情で答えた。


「実はさっき……ロキっていう男の部下が、この村を襲撃しに来たんだ。でも、ヒューガさんがあの男を無力化してくれたから、村は無事だよ」


しかし、息子の言葉を聞いたミーナは、レイの瞳の奥や手の震えを逃さなかった。長年育ててきた母親の勘が、息子が何か重大な秘密を隠していることを見抜いていた。


「……それはそうとして。レイ、あなた、他にも何か言うことがあるんじゃない?」


ミーナの鋭くも慈愛に満ちた問いかけに、レイはごくりと唾を飲み込み、すべてを打ち明けることにした。


「……父さんの剣を、抜いたんだ。そしたらさっき言った敵がやってきて、俺とヒューガさんを襲ってきた。その時、一瞬だったけど……自分の体の中で、龍の血の力がものすごく大きくなっていく実感がしたんだよ」


さらにレイは、息継ぎをするように言葉を継いだ。


「それに……その後、聖都の人たちがやってきて、父さんが昔交わした約束の続きを、俺に頼んでいったんだ。一緒に戦ってほしいって」


すべてを聞き終えたミーナは、驚きで言葉を失うのではなく、ただじっと息子の目を覗き込み、静かに問いかけた。


「……そっか。それで、レイはどうしたいの?」


母のその真っ直ぐな問いかけに、レイは自分の膝の上でぎゅっと拳を握りしめた。胸の奥に渦巻いていた恐怖と迷いが、ようやく言葉になって溢れ出す。


「ホントは……怖くてしょうがないんだ。父さんを殺したあんな化け物みたいなヤツらに、俺なんかが到底かなうわけないって思う。……だけど、あいつらをこのまま放置したら、母さんも、じーちゃんも、ばーちゃんも、ずっと怯えて暮らすことになる。それだけは、絶対に嫌なんだ……!」


恐怖に震えながらも、家族を守りたいという強い意志を宿したレイの瞳を見て、ミーナは優しく微笑み、そしてそっと我が子を包み込むように見つめ返すのだった。レイの震える肩と、家族を守りたいという強い決意が宿った瞳を見つめながら、ミーナは優しく微笑んだ。そして、どこか懐かしいものを見るような遠い目をしながら、静かに口を開いた。


「レイ……。少しだけ、昔話をさせてちょうだい」


母親のその穏やかな声に、レイはぐっと息を呑み、しっかりと耳を傾けた。


「あなたのお父さん――ヘリオスもね、昔はあなたと同じように、戦うことが怖くて、自分の無力さに打ちひしがれていた時期があったのよ」


「父さんが……?」


驚くレイに、ミーナは懐かしむように頷いた。


「そうよ。彼はいつも、世界の重みや、自分の背負う宿命の大きさに押しつぶされそうになっていたわ。だけどね、ヘリオスはどんなに怖くても、そこから逃げたりはしなかった。彼はね、不安に呑まれそうになると、ただ一つのことにだけ――『目の前の大切な人を守る』ということだけに意識を集中させていたの」


ミーナの言葉が、レイの胸に深く染み入っていく。


「恐怖を完全に消すことなんて誰にもできないわ。でもね、その恐怖に負けず、ただ真っ直ぐに己のなすべきことに集中したとき、彼は奇跡のような力を発揮したの。……そして、あの強大なロキを、ついに自分の手で打ち倒したのよ」


かつて世界を救った英雄の知られざる素顔と、恐怖と戦い続けた父親の真実。それを聞いたレイの心の中で、冷たい恐怖の奥から、じんわりと温かく強い光が灯るような感覚が広がっていった。


「父さんも……怖かったんだな」


レイは自分の手に握られたアスカリオンの温もりをそっと感じながら、母の言葉を噛み締める。

自分が進むべき道の意味と、その先にある覚悟が、レイの胸の中で少しずつ形を成していくのだった。


「俺、決めたよ!」


翌日、約束の時間が訪れると、ジンガーとノイが再び静かな村へとやってきた。村の広場に立ったジンガーは、まっすぐレイを見据え、その決断を静かに促した。

「――レイ。昨日の今日で急かしてしまうが、君の答えを聞かせてもらおうか」


その眼差しにはプレッシャーではなく、一人の戦士としての選択を尊重する深い信頼が込められていた。

レイは大きく息を吸い込み、逃げ出したい恐怖を心の奥底へと押し込め、しっかりと顔を上げた。そして、かつて父が握り、今は自分の手にある聖剣アスカリオンを強く握りしめて言った。


「ジンガーさん……俺、父さんの約束を引き継ぐよ。聖都の騎士団として、みんなと一緒に戦う!」


レイの力強い言葉を聞いた瞬間、ジンガーは満足したように深くうなずき、わずかに笑みを浮かべた。


「そうか……よく決心してくれた。そうとなれば、まずは旅立ちの支度をしてきなさい。聖都に着き次第、君を正式な騎士団の一員として迎える」


ジンガーのその言葉にレイが「はい!」と返事をし、駆け足で自宅へ戻って荷物をまとめようとしたその時――。


背後から、ジンガーが静かな声でレイを引き止めた。


「待ってくれ、レイ。……出発する前に、ひとつだけ頼みがある。ヘリオスの墓に案内してくれないか?」


レイは足を止め、振り返るとこくりとうなずいた。


「……うん、分かった。こっちだよ」


レイはジンガーを連れ、村の裏手にある静かな丘の上――かつての英雄が眠る墓所へと足を向けたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。