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龍血譚   作者: 色タコス
第1シーズン 太陽の戴冠

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79/110

第79話 受け継がれる光

長い夜がようやく明けて、世界が青白く染まり始める頃。


村から避難していたミーナは、昨夜遠くの空を引き裂いたあの凄まじい爆発の音と、胸を締め付けるような悪寒が頭から離れずにいた。


まさか、そんなはずはない。心の中で何度も打ち消そうとする。しかし、胸の奥底の冷たい確信は、残酷なまでに真実を告げていた。


(――ヘリオスは、もういないんだわ……)


足取りが鉛のように重い中、それでも村へと戻ってきたミーナが最初に目にした光景は、あまりにも痛々しいものだった。


焼け焦げた大地の中心、静まり返ったその場所に、かつてヘリオスが肌身離さず持ち歩いていた愛剣――『アスカリオン』が、柄まで深く地面へと突き刺さっていたのだ。主を失った剣は、冷たい朝露に濡れながら、ただ静かに佇んでいた。


言葉を失い、その場に立ちすくむミーナ。


頭が真っ白になり、足元から崩れ落ちそうになる身体をどうにか支えながら、彼女はふと、ある一つの場所を思い出していた。


それは、かつて自分がヘリオスを優しく呼び出し、美しい誓いを交わしてくれた、あの絶景の景色が見える丘の上の場所。


導かれるようにしてその場所へと足を運んだミーナの視界に飛び込んできたのは、朝の光を浴びて、ひっそりと、しかし確かな輝きを放つ小さなものだった。


駆け寄るようにして拾い上げたそれは、まだ二人が正式な夫婦になる前、遠い聖都の小さなお店で並んで買った、お揃いの婚約指輪だった。


激しい戦いと爆発の中でも失われず、ここで主の帰りを待っていたかのように転がっていた指輪の温もりに触れた瞬間、ミーナの中で張り詰めていた糸がプツリと音を立てて切れた。


「……っ、どうして……っ、嘘よ、嘘だと言ってよ……!」


崩れ落ちるように膝をつき、震える両手で指輪を胸元に抱きしめながら、ミーナの瞳から大粒の涙がとめどなくあふれ出し、朝の冷たい地面を濡らしていったのだった。朝日が昇り、明るさを取り戻した村の一角。

避難していた人々が集まる場所へと、ミーナは重い足取りで戻ってきた。その姿を見つけたケルトやマーサ、そしてマニーたちが安堵の表情を浮かべて駆け寄ろうとする。しかし、ミーナの纏うただならぬ雰囲気に、誰もが言葉を呑み込んだ。


ミーナの瞳は赤く腫れ上がり、その手にはひとつの小さな金属が握りしめられていた。


彼女はゆっくりと開いた手のひらをみんなの前に差し出した。そこにあったのは、朝の光を鈍く反射する、見覚えのあるお揃いの婚約指輪だった。


「……これ、ヘリオスが身につけていた指輪を……拾ってきたの」


震える声で絞り出すように言ったミーナの言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。


説明など必要なかった。どれほど奇跡を願っても、どれほど無事を祈り続けても、ヘリオスが自らの最も大切な証をその場に残して還らぬ人となったという事実を、指輪の存在が残酷なまでに物語っていた。


ケルトは深く帽子を目深に被り直して唇を噛み締め、マーサは両手で顔を覆って小さく嗚咽を漏らす。マニーは信じられないといった様子でその場に膝をつき、言葉を失ってうつむいた。


誰もが、それが何を意味しているのかを痛いほど理解していた。


悲しみの沈黙がその場を支配し、ただ静かな朝の風だけが、英雄の死を悼むように吹き抜けていったのだった。世界を救うために自らの命を燃やし尽くし、英雄ヘリオスはこの世から去った。


その喪失感はあまりにも大きく、遺された者たちの心にぽっかりと空いた穴は、容易に塞がるものではなかった。


しかし、絶望の闇に包まれた世界の中で、確かな光が静かに息づいていた。


それは、ヘリオスが命を懸けて守り抜き、その魂の欠片を未来へと託した我が子――レイ。


ミーナは涙を拭い、愛しい我が子を強く、優しく抱きしめた。その小さな胸の鼓動は、紛れもなくヘリオスがこの世界に生きていた証であり、彼が未来へ遺した最大の奇跡そのものだった。


ケルトやマーサ、マニー、そして仲間たちが温かい眼差しで見守る中、レイはすくすくと小さな手を伸ばし、未来へと向かって新しい一歩を踏み出していく。


英雄の物語は幕を閉じたが、彼が遺した愛と希望の炎は、遺された者たちの胸の中で、これからも決して消えることなく燃え続け、新しい時代を照らし出していくのだった。

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