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龍血譚   作者: 色タコス
第1シーズン 太陽の戴冠

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80/111

第80話 家族の笑顔を写すレンズ

時は流れ、あの激闘と悲劇の日から9年が過ぎていた。


村の景色は少しずつ変わり、ヘリオスとミーナの忘れ形見であるレイは、無事に10歳の誕生日を迎えていた。


レイはとにかく好奇心旺盛で、じっと家の中に収まっていることができない子供だった。目を離した隙にすぐ家の外へ飛び出しては、村の小川や森の入り口へと冒険に出かけてしまうため、母であるミーナや周囲の大人たちはいつもハラハラさせられていた。


そんな、穏やかでありながらも賑やかな誕生日を迎えた村に、ふと一人の男がたどり着いた。


旅装束を纏い、どこか懐かしい顔立ちをしたその男――レオンだった。


彼はミーナからの密かな頼みを受け、遠路はるばる、成長したレイの誕生日プレゼントを届けるためにこの村へとやってきたのだ。


村の広場で、元気に泥だらけになりながら遊んでいたレイの前にレオンが姿を現すと、レイは不思議そうに首を傾げた。しかし、出会った瞬間からどこか見覚えがあったのか、幼い頃の記憶の断片がそうさせたのか、レイは満面の笑みを浮かべてこう言った。


「お久しぶりです!」


その言葉に、レオンは思わず目を丸くし、そしてどこか切なそうに、しかし優しく目を細めて微笑んだ。かつてヘリオスと共に戦った日々が、昨日のことのように思い出される。


レオンが懐から取り出し、レイへと手渡したのは、ずっしりと重みのある精巧な機械だった。それは、レオン自身が人生で初めて手掛けた発明品である「写真機」だった。


かつてヘリオスとミーナの結婚式の席で使ったあの試作品から大幅な改良が施され、今では技術が洗練され、世界中の国々で広く流通するほどの一大発明となっていた。


「わあ……! なにこれ、すごい……!」


レイは見たこともない不思議な金属の箱を両手で受け取り、宝石を見るかのように目をキラキラと輝かせた。あちこちを興味津々な指で触り、レンズを覗き込もうとするレイの姿に、レオンは愛おしそうに笑った。


「気に入ったかい? それはね、目の前にある素敵な景色や大切な瞬間を、魔法みたいに一枚の紙に切り取って残せる機械なんだよ」


そう言って、レオンは優しく腰を落とし、かつて自分が初めて写真機を使った日のことを語り始めた。


ヘリオスとミーナの結婚式、皆が笑顔で祝福し、未来への希望に満ち溢れていたあの日のこと。緊張しながら初めてシャッターを切ったときの、手の震えと胸の高鳴りのこと。


レイは、レオンの紡ぐ冒険と発明の物語を、まるで伝説の英雄譚を聞くかのように、息を呑んで聞き入っていたのだった。


レオンが語る数々の冒険の物語、そしてかつて父・ヘリオスが仲間たちと共に駆け抜けた激闘の日々は、十歳の少年の心を捉えて離さなかった。


レイは目を輝かせ、その胸を激しく踊らせながら、目の前で優しく微笑む発明家を見上げた。


「ねえ、レオンおじさん……僕も、大きくなったら父さんみたいな、強くてかっこいい人になれるかな?」


まっすぐな瞳でそう尋ねるレイの姿に、レオンは思わずかつての親友の面影を重ね合わせた。


胸が熱くなるのを堪えながら、レオンはレイの頭を優しくポンと撫でた。


「ああ、きっとなれるさ。君のの父親は、誰よりも強くて優しい最高の英雄だったからね。……まっすぐ、立派な男になるんだよ、レイ」


レオンの言葉に、レイは力強くうなずいた。その小さな胸の奥には、いつか父のような誇り高き男になりたいという、大きな夢がしっかりと芽生えていた。


しばらくして、見送りのために佇んでいたミーナの元へとレオンは歩み寄った。


ミーナは穏やかな、しかしどこか深い感謝の色を宿した瞳でレオンを見つめ、静かに頭を下げた。


「レオン、遠いところまでわざわざありがとう。……レイにあんな素敵なプレゼントと、ヘリオスの思い出を届けてくれて、本当に感謝しているわ」


「いいんだよ、ミーナ先輩。僕にとっても、ヘリオスとの思い出はかけがえのないものだからね。それに……あいつの息子に会えて、本当に良かった」


レオンは微笑むと、首から下げた写真機を軽く掲げ、愛用の旅装束の端を整えた。


これ以上引き止めるまいと、ミーナは優しい笑みでうなずき返す。


またいつか、どこかで。


言葉には出さなくとも確かな絆を確かめ合い、レオンは背負っていた荷物をしっかりと持ち直した。


やがてレオンは、吹き抜ける穏やかな風に背中を押されるようにして、村の出口へと歩き出す。振り返り、大きく手を振るレイとミーナに見送られながら、発明家は新たな道を進むために、静かに村をさっていったのだった。


レオンが去ったあとも、レイの手にはもらったばかりの写真機がしっかりと握られていた。


その不思議な箱を見つめながら、少年は何かを思いついたかのように、急にパッと顔を輝かせた。


「そうだ……! ねぇ、お母さん!」


「どうしたの、レイ?」


突然声を弾ませる息子に、ミーナが優しく微笑みながら歩み寄る。レイは興奮を抑えきれない様子で、村のほうを指さしながら言った。


「あのね、マニーおばさんと、おじいちゃん、おばあちゃんも呼んできて! みんなで一緒に、この写真機で写真を撮りたいんだ!」


レイのその言葉に、ミーナは少し驚いたような、しかし愛おしさがこみ上げるような温かい笑みを浮かべた。ヘリオス譲りのまっすぐで優しい心根が、こんなところにも表れていた。


「ふふ、わかったわ。ちょっと待っててね」


ミーナは快くうなずくと、すぐに村の中へと走っていった。


しばらくして、温かく見守るケルトとマーサの老夫婦、そしてすっかり大人びて優しく微笑むマニーの姿を連れて、ミーナが戻ってきた。


「レイ、写真なんて撮れるのかい?」


「おじいちゃん、おばあちゃん、マニーおばさん! こっち、ここに立って!」


レイは大人たちを案内し、庭の真ん中に並ばせた。

初めて触る写真機に戸惑いながらも、レイはレオンから教わった見よう見まねの手つきでレンズの向こう側を覗き込む。


ファインダーの向こうに映ったのは、かけがえのない家族の姿だった。


ケルトとマーサが穏やかに微笑み、マニーが楽しそうに手を振り、そして愛する母・ミーナが、天国のヘリオスに見せるように優しく微笑んでいる。


心臓がドキドキと高鳴る中、レイはしっかりとファインダーを合わせ、決意を込めてシャッターのボタンを押し込んだ。


――カシャッ……!


静かな世界に響いた小気味よい音とともに、未来へ続く瞬間が、しっかりと一枚の銀板に焼き付けられた。

写し出された写真の中では、温かい太陽の光に包まれた家族全員が、最高の笑顔を咲かせていた。


ヘリオスが遺してくれた愛の絆は、十年の時を越えて、今もこうしてこの場所でしっかりと生き続けているのだった。

第1シーズン完結です

ここからはバトンタッチしてレイが主役の物語が始まります

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