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英雄が紡ぐ物語   作者: 色タコス
第1シーズン 太陽の戴冠

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第73話 宝物

あれから季節が巡り、穏やかな村の日常は、さらなる大きな奇跡の時を迎えようとしていた。

かつて温かな祝福の中で結ばれたヘリオスとミーナの間に授かった新しい命は、順調に育ち、ついに出産間近の時期に差し掛かっていた。


臨月を迎えたミーナの体には、ずっしりとしたお腹の重みと、いよいよその時が近づいていることを告げる陣痛や倦怠感など、出産直前の様々な症状が現れていた。


「うっ……ふぅ……っ……」


ベッドの上で身をよじり、荒い息を繰り返すミーナ。

その手をしっかりと握りしめ、冷や汗を拭うヘリオスの表情には、これまでにないほどの緊張と不安、そして我が子に会えるという深い期待が入り混じっていた。


「ヘリオス……痛いよ……っ」


「大丈夫だ、ミーナ。俺がずっとそばにいるから……! 頑張ってくれ……!」


部屋の外では、ケルトとマーサが心配そうに祈るように手を組み、マニーもまた


「ミーナ姉ちゃん、頑張って……!」


と涙を溜めながらドアの隙間を見つめている。

そんな中、村で唯一の老医師が急ぎ足で家に駆けつけ、手際よく出産の準備を整えていた。


「よし、いよいよだな。旦那さんは奥さんの手をしっかり握っていてやりなさい。お産婆さんを手伝うよ!」


医師の力強い声が部屋に響き渡る。


痛みに耐え、歯を食いしばるミーナの視線の先――枕元近くの棚の上には、一枚の額縁に入った写真が大切に飾られていた。


それは、聖都の白亜の教会で、レオンの『写真機』によって切り取られたあの日の思い出。


純白のドレスとタキシードに身を包み、満面の笑みを浮かべて寄り添うヘリオスとミーナの晴れ姿だった。

まだ見ぬ我が子をその腕に抱くため、過酷な陣痛と戦うミーナは、その写真に写る自分たちの幸せな姿にそっと目を向けた。


あの日の温かな記憶と、大好きなヘリオスの温もりが、恐怖に押しつぶされそうになる彼女の心に勇気を与えてくれる。


「……うん……私、頑張る……!」


写真を一瞥したミーナは、再びしっかりと前を向き、力強く息を吸い込んだ。


新しい命の誕生という聖なる奇跡の瞬間が、今、まさに始まろうとしていた。


静まり返った夜の村に、産声が響き渡った。


「――おぎゃあ……! おぎゃあ……っ!」


その力強い泣き声を聞いた瞬間、部屋を包んでいた緊迫した空気が一気にほどけ、深い安堵と歓喜へと変わった。


ベッドの上で荒い息を整えていたミーナは、顔いっぱいに汗を浮かべながらも、愛おしそうにふっと柔らかい笑みを浮かべた。


「……よく頑張ったね、ミーナ。本当によく頑張ってくれた……!」


ヘリオスは震える手でミーナの額に貼りついた髪を優しく払い、あふれ出る涙を拭うことすら忘れ、我が子の誕生を心から噛り締めていた。


医師の手によって綺麗に拭われたばかりの小さな命が、そっとミーナの腕の中へと預けられる。


ミーナは、まだ目も開かないほど小さな我が子を両手で包み込むようにして、そっと胸元に抱きしめた。


「……よかった……無事に生まれてきてくれて……私の可愛い赤ちゃん……」


ミーナの頬を伝う涙が、赤ちゃんの小さな産着にポタリと落ちる。温かくて確かな命の重みに、胸が感動でいっぱいになっていた。


その様子を傍らで見つめながら、ヘリオスは自分の胸の内にこみ上げる感情を抑え切れなかった。


かつては行き場を失い、自分の才能や将来に絶望していたあの頃の自分。まさか自分が家庭を持ち、父親になる日が来るなんて、夢にも思っていなかった。命がけで自分を愛し、そばにいてくれたミーナと、こうして奇跡のように繋がった新しい命。


「俺が……父親に……」


こらえきれず、ヘリオスの目からも大粒の涙がこぼれ落ちた。男が人前で泣くものではないと分かっていながらも、あふれる感謝と喜びの涙は止まらなかった。

部屋の外でずっと吉報を待ちわびていたケルト、マーサ、そしてマニーも、産声を聞いた瞬間に歓声を上げ、ドアが開くやいなやすすり泣きながら部屋へと駆け込んできた。


「おめでとう……! 本当によく頑張ったねぇ……!」


とマーサが目元をハンカチで押さえ、マニーは


「お兄ちゃん、赤ちゃん生まれたよ……!」


と飛び跳ねて喜んでいる。

しばらくして、ミーナは優しく微笑みながら、我が子をヘリオスの腕へとそっと預けた。


「ヘリオス……抱いてあげて」


「あぁ……」


おそるおそる両手を差し出したヘリオスの腕の中に、すっぽりと収まるほどの小さな温もり。

腕の中でスースーと穏やかな寝息を立てる我が子を見つめながら、ヘリオスは胸がいっぱいになり、再び熱い涙を流した。


そしてヘリオスは、ミーナと顔を見合わせ、あらかじめ二人で決めていた名前を静かに口にした。


「男の子なら……『レイ』にしようって、ずっと思っていたんだ」


光を意味するその名前は、絶望の闇の中にあったヘリオスの人生を照らしてくれた者たち、そしてこれから家族の未来を明るく照らしてくれるようにという願いが込められていた。


「レイ……うん、すごく素敵な名前ね」


ミーナが愛おしそうに微笑み、赤ちゃんの小さな手を優しく包み込む。


こうして、ヘリオスとミーナの間に、愛しい息子のレイが誕生した。

温かな村の暮らしの中で、新たな光を纏った家族の物語は、ここからまた新たな一歩を踏み出していくのだった。



新しい命が産まれました

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