65話 二つの力の猛威と、反撃の糸口
「さあ、どうする? 一つだけでも手札としては十分すぎるのに、僕には二つの極致が備わっている。君に勝てる道理など、初めからないのさ」
ロキが冷徹な笑みを浮かべ、再び両手を軽くかざした。
その瞬間、彼の背後から異質な二つのエネルギーが同時に解き放たれる。一つは、空間を歪めて瞬時にあらゆる物体を形作る『創造の力』。そしてもう一つは、一切の予兆を許さずすべてを破壊し尽くすロキ自身の本来の魔力――。
「くっ……!」
ヘリオスがアスカリオンを構え直した刹那、容赦のない猛攻が牙をむいた。
前からは無数の漆黒の棘や重力弾が容赦なく襲いかかり、それを何とか無の炎で相殺しようとした矢先、今度は視界の死角からロキ本来の魔力による不可視の衝撃波が直撃する。
「がぁっ……!」
二つの異なる理が織りなす同時攻撃の前に、覚醒した龍の血を宿すヘリオスであっても、防御の隙を完全に突かれ、満身創痍となって床を激しく転がった。圧倒的な物量と質の異なる暴力の前に、防戦一方に追い込まれていく。
ロキは冷ややかに見下ろしながら、追撃の手を緩めない。
「『魂の牢獄』がすべての負荷を肩代わりしているおかげでね、僕の魔力は無限に等しい。君のそのあがきも、ここまでだ」
冷酷な宣告が響き渡る中、幾度となく地面に叩きつけられたヘリオスは、激しい痛みに顔を歪めながらも、鋭い眼光をロキへと向けた。
――おかしい。どれほど強大であっても、二つの力を同時に行使している以上、どこかに必ず無理が生じているはずだ。
ヘリオスは荒い息を整えながら、ロキの魔力の流れを必死に観察した。
すると、ロキが『創造の力』を放つ瞬間と、自身の本来の魔力を撃ち出す瞬間の間に、わずかコンマ数秒の魔力の切り替え――ほんの微小な「タイムラグ」と「歪み」が存在することに気づいた。
(そうだ……! 外付けの魔力機関で負荷を逃がしているとはいえ、それをコントロールしているのはロキの肉体だ。二つの異なる力を同時に扱い続けている以上、その中核には確実に過剰な負担がかかっている……!)
ロキの絶対的な強さの裏に隠された、唯一の綻び。
それに気づいた瞬間、ヘリオスの瞳に強い光が宿った。
「機関が完璧なら……そこを直接ぶっ壊せばいいだけだ!」
ヘリオスは血を拭い去り、渾身の力を込めて立ち上がると、全身の無の炎を聖剣アスカリオンの一点へと極限まで圧縮させていく。反撃の狼煙を上げ、ヘリオスは再びロキの「心臓部」めがけて猛然と飛び出したのだった。
ヘリオスの瞳に宿る鋭い光を見た瞬間、ロキの微動だにしなかった瞳に、わずかな警戒の色が走った。
「小賢しい真似を……! その程度であがきが通じるとでも思ったかい?」
ロキは冷徹に手を振り上げ、空間を歪ませて生み出した無数の漆黒の棘と、自身の本来の魔力による見えざる衝撃波を重ね合わせ、文字通りすべての退路を断つ圧倒的な迎撃弾幕を浴びせかけた。
だが、今のヘリオスには迷いがない。
「通じる、通じさせてみせる……!」
アスカリオンに纏わせた純白の『無の炎』を極限まで圧縮し、迫り来る幾重もの弾幕を片端から消し飛ばしていく。幾度となく肉体を裂かれ、鮮血が飛び散ろうとも、ヘリオスは一歩も引かずにロキの懐へと一気に距離を詰めた。
至近距離まで肉薄されたロキの表情から、ついにいつもの余裕が消え失せる。
(馬鹿な……僕の完璧な二重運用を見切ったというのか……!?)
ヘリオスの狙い通り、二つの異なる理を無理に同時運用し続けていたロキの胸元――外付けの魔力機関である『魂の牢獄』に、凄まじい負荷による肉体と魔力の軋みが走り始めた。黒曜石のような機関の表面に、パキリ、と微小な亀裂が走るのが見える。
機関に生じたそのわずかな「綻び」を見逃さず、ヘリオスは絶叫と共に全霊の炎を剣身に爆発させた。
「終わりだ、ロキ――ッ!!」
すべてを無へと還す純白の閃光が、ロキの胸元に直撃する。
「――甘いね、ヘリオス」
漆黒の闇の中から、冷酷な嘲笑が響く。
ヘリオスが放った全霊の無の炎は、『魂の牢獄』の表面を確かに捉えていた。しかし、魔力が接触した瞬間、機関の表面に走っていたはずの微小な亀裂が、まるで生き物のように禍々しい光を放って瞬時に修復されてしまったのだ。
パキィィンッ! と高音が響き、ヘリオスの渾身の一撃は逆に激しい反発力を生んで弾き返される。
「なっ……!?」
目を見開くヘリオスの前で、ロキはふわりと軽やかに後方へと身をかわした。彼の胸元で異彩を放つ『魂の牢獄』は、傷一つついていないどころか、先ほどよりも一層深い漆黒の光を帯びて脈打っている。
「いくら僕の魔力の流れの歪みを見抜き、機関の綻びを突いたところで無駄さ。あれはただの『外付けの機関』なんかじゃない……僕の肉体、そしてこの世界の理そのものと完全に同化している絶対の核だ。そう簡単に壊せるものかよ」
ロキの言葉通り、機関が破壊されることはなかった。
むしろ、ヘリオスの攻撃を弾き返したことで、『魂の牢獄』はさらに活性化し、ロキの周囲の空間を重く歪ませ始めていく。
「さあ、お返しの時間だ。小細工はここまでにして、本当の絶望を教えてあげようか」
再び二つの異なる圧倒的な魔力がロキの全身から解放され、冷酷な殺気がヘリオスへと襲いかかるのだった。




