第60話 絶対の支配と魔力の意味
場面は再び、城の最上階――広大な玉座の間へと戻る。
空間の歪みの中で、神の釘が大陸の魔力を吸い上げ続ける中、亡国の王子ヘリオスと、世界のすべてを我が物にしようとするロキが対峙していた。二人の間には、世界を揺るがすほどの重く冷たい静寂が支配している。
ヘリオスは神剣アスカリオンを強く握り締め、怒りと悲しみを押し殺した瞳で目の前の男を真っ直ぐに見据えた。
「ロキ……答えてくれ。なぜ、僕の故郷であるルミナス王国をあんなにも容赦なく陥落させたんだ? あの国は、君にとって何も危害を加えた覚えはないはずだ!」
ヘリオスの問いかけに対し、ロキは冷ややかに微笑むと、肩を軽くすくめて淡々と答えた。
「理由かい? そんなもの、ただの『力試し』さ。僕の持つ絶対的な力が、この世界でどれほどのものか試すためのね」
「力試しのために……多くの命を踏みつけにしたというのか……!」
ヘリオスの怒りに満ちた声を聞いても、ロキの表情微動だにしない。彼は静かに玉座の前へと歩み寄り、冷徹な持論を展開し始めた。
「怒るなよ、ヘリオス。僕の考えを聞けば、少しは理解できるはずだ。この世のすべてが絶対的な強者――つまり、僕という存在に支配されれば、無駄な争いなど一切生まれなくなる。それこそが、本当の意味での平和な世界を作り上げる唯一の方法なのさ」
ロキの瞳に宿るのは、狂気ではなく、歪んだ純粋さだった。彼はさらに言葉を重ねる。
「そして、争いの火種となる『ソルシュ』という厄介な力は、下劣な人間たちが持つべきではない。世界に君臨する、この僕ただ一人が持つべきものなのだよ。すべてを管理し、すべてを統べる者――それが神の在り方だ」
ロキの主張を聞き終えたヘリオスは、剣を下ろすことなく、しかしわずかに目を伏せて静かに首を横に振った。
「……君の言うことにも、一理あるかもしれない。争いのない平和な世界を望む気持ち自体は、否定しないさ」
ヘリオスのその言葉に、ロキがわずかに眉を上げる。だが、ヘリオスの瞳には、先ほどまで以上の強い光が宿っていた。
「しかし、ソルシュの魔力をすべて君だけのものにするというその理屈には、どうしても納得がいかない!」
ヘリオスは神剣をふたたびロキへと突きつけ、己の信念を力強く主張した。
「ソルシュはたしかに、使い方を誤れば世界を滅ぼすほどに危険な存在だ。だが、それは力そのものが悪だからじゃない。それを扱う人間の心次第で、正しくも歪みもするんだ。人々は魔力と共に歩み、知恵を絞り、互いを理解し合うことで、今日までの世界を築き上げてきた!」
ヘリオスの纏う純白の炎が、彼の強い意志に共鳴するように激しく燃え盛る。
「ソルシュがあったからこそ、僕たちは仲間と出会い、絆を結び、こうして未来へ進むことができた。それをすべて奪い去り、君一人の道具にすることなど、絶対に許さない……! 人間の可能性を、僕たちの歩んできた歴史を、君の勝手な独裁で踏みにじらせはしない!」
ヘリオスの叫びが、崩壊する城の空気を大きく震わせる。
絶対の支配を掲げる神の化身ロキと、人々の絆と可能性を信じる覚醒の王子ヘリオス。
大陸の存亡を賭けた、雌雄を決する最終決戦が、いよいよ激突の瞬間を迎えようとしていた。




