53話 砕け散る巨兵そして崩落の地下牢
「――風雷双撃・砕岩破ッ!!」
ヒューガとガレオンの放った渾身の合体技が、凍りついて脆くなったバルドの黒きマグマの装甲を完全に粉砕した。
凄まじい衝撃波が広間全体を揺らし、バルドの巨体はたまらず床へと激しく打ち付けられる。装甲を失い、完全に戦闘不能となった彼の全身から力が抜けていく。
「これで……終わりだッ!」
ヒューガが追撃の風の刃を浴びせ、ガレオンも双剣で残る魔力を叩き込み、バルドに完全にトドメを刺した。大男はうめき声を漏らすことすらできず、そのまま意識を失ってぐったりと倒れ伏した。
難攻不落の巨兵を打ち破った二人は、激しい息を整えながらも、仲間たちの待つさらなる戦場へと視線を向け――場面は一気に、崩壊の進む地下牢へと移る。
ロキの居城の最下層。
シリルをワームホールで連れ去られた怒りと絶望の中、ジンガーとジークの激しい戦いは続いていた。
周囲の石壁は先ほどからの激闘によって無数の亀裂が走り、天井からは絶えず巨大な轟音を立てて落下している。いつ生き埋めになってもおかしくない、まさに崩壊寸前の死地であった。
しかし、そんな極限の状況にあって、ジンガーの瞳には一切の焦りや迷いがなかった。彼は荒ぶる感情に呑まれることなく、極めて冷静に戦況を見極めていた。
(天井の崩落スピードが上がっている……。このままだと、瓦礫の下敷きになるのはこっちのほうだ。それに、あの男の動き――さっきから右足の踏み込みがわずかに浅い。氷の魔力を使いすぎて、下半身の冷気が自分の足をも蝕み始めている……!)
ジンガーは鋭い洞察力でジークの肉体のわずかな綻びを正確に看破した。
敵は狂気に満ちているがゆえに、自らの消耗に気づいていない。ならば、この崩壊する地形と相手の隙を巧みに利用し、一気に勝負を決めるのみ。
「どうしたぁ副聖騎士長さんよぉー! 大切なおもちゃを奪われて、足がすくっちまったかぁ! ひゃはははっ!」
ジークは狂ったような笑い声を上げながら、絶対零度の氷の鎌を振り回し、ジンガーへと突撃してきた。
激しく揺れ動き、崩れ落ちていく地下牢の闇の中で、ジンガーは静かに、しかし確実に対抗の一手を構えるのだった。
冷気が充満する地下牢の中、ジークの吐息は白く、その足取りはかつての圧倒的な重厚さをわずかに欠いていた。しかし、その瞳に宿る殺意は衰えるどころか、むしろ研ぎ澄まされていく。
対するジンガーもまた、吸い込むたびに胸の奥が鋭く焼かれるような激痛に苛まれていた。氷の魔力が肺の深部にまで浸透し、酸素を求めるたびに体が悲鳴を上げる。それでも彼は、その痛みを意志の力でねじ伏せ、全身の神経を極限まで研ぎ澄ませていた。
(長引けば、こちらの内側から先に凍りつき、崩れ落ちる……!)
(ここで終わらせてやるよ。この一撃にすべてを賭ける……!)
互いの思考が重なり、双方が同時に限界を超えた魔力を解放した。
ジンガーの身体から迸る闘気が、周囲の空気を歪ませる。痛む肺を無視して全身の血流を加速させ、己の極限を引き出す彼の姿は、まるで全てを切り裂く刃のようだ。
一方のジークも、纏う冷気を凄まじい密度へと圧縮していく。その周囲の空間は極低温によって凍てつき、空間そのものがきしむ音を立てていた。
「「――行くぞッ!!」」
轟音と共に、二人の影が激突する。
ジンガーが放つのは、自らの全神経と肉体の機能を一点に集中させ、死角なき隙を断つ究極の剣技
――『極点・無明断』。
ジークが放つのは、全てを絶対零度の氷塊へと閉じ込め、粉砕する最強の奥義
――『絶氷・獄界封殺』。
閃光と絶対零度の吹雪が交錯し、激しい衝撃波が周囲のすべてを吹き飛ばした。
極限の戦いの果てに、最後に立ち上がるのはどちらの意志か――。




