第5話 出会いと最初の夜戦
老夫婦の温もりと餞別を胸に、ヘリオスとマニーは数日間の道のりを経て、ついに大陸最大級の都市――聖都オクヘイムへとたどり着いた。
街を歩く人々の活気、そして数多くの腕利きたちが集まる巨大な冒険者協会。ここならロキを倒し、父の仇を討つための力が手に入ると希望を抱いたヘリオスだったが、現実は甘くなかった。
ギルドのロビーで、一旗揚げようと集まるベテランの冒険者たちに片っ端から声をかけ、仲間になってほしいと頼み込んだが、相手は誰もが冷ややかな視線を向けるだけだった。
「おいおい、ガキの相手をしている暇はないんだよ」
「おい聞いたか? 最近、ルミナス王国を滅ぼした『ロキ』ってふざけた野郎の名前があちこちで広がり始めているらしいぜ。あんな化け物を倒しに行くだと? 命がいくつあっても足りねぇよ、失せろ」
冒険者の間ですでにその名は恐怖と警戒とともに広く知れ渡っており、誰もが関わり合いになることを恐れていた。
ことごとく門前払いされ、まともに取り合ってももらえない。聖都という巨大な光の裏で、無力な少年であるヘリオスは再び冷たい現実の壁にぶち当たり、蓄えていたわずかな資金も底をつきかけていた。
行くあてをなくし、夕暮れの街角で途方に暮れていたその時――不敵な笑みを浮かべた一人の男が、ヘリオスの前にふらりと現れた。
「よう、随分と冴えない顔をしてるじゃないか。世間じゃあの『ロキ』の噂で持ちきりだってのに、そいつを倒すために仲間が欲しいならさ……俺のギルドに入ってくれよ」
振り返ると、そこに立っていたのは長い槍を背負った男だった。彼の名はヒューガ。どこか飄々とした軽口を叩くが、その鋭い眼光はヘリオスのただならぬ事情や切羽詰まった内面をしっかりと見抜いていた。薄い緑色の髪が特徴的だ
それから数時間後。「まずは実戦だ」とヒューガに連れられ、ふたりは夜の闇が迫る聖都外縁の森へと向かっていた。マニーも「お兄ちゃんから離れたくない」と不安そうな顔でついてきたが、危険な戦いに巻き込まれないよう、木の陰からそっと二人の戦いを見守ることになった。
やがて、森の奥で突如として凶暴な夜行性の魔物の群れが姿を現し、初陣となる討伐任務の幕が上がる。
「来るぞ、ヘリオス!」
ヒューガの合図と共に戦闘が始まった。ヘリオスはロキを倒すという目的のため、必死に絞り出すように己の魔力を燃え上がらせた。
「ふっ……!」
両手を掲げ、覚えたての『火球』を連続で放ち、迫り来る魔物の足を止めようと応戦する。しかし、極限の焦りと実力不足から、放った炎は狙いを外し、威力も浅く、かえって魔物を逆上させてしまう。敵の鋭い爪がヘリオスの目前へと迫り、彼は恐怖で足がすくんでしまった。
(お兄ちゃん……っ!)
木の陰からその様子を見ていたマニーは、自分の無力さに震えながら、小さな両手を固く握りしめて息を殺すしかなかった。
――足手まといになっている。俺の力じゃ、ロキを倒すどころか足もとにも及ばない……!
絶望が脳裏をよぎったその瞬間、目の前を風が切り裂いた。
「そこまでだ、下がりな」
ヒューガが踏み込み、その手にした長槍を鮮やかに閃かせる。繰り出されたのは、彼の得意とする必殺の槍技だった。
『ゲイル・ハザード!』
ヒューガが猛烈な回転とともに槍を薙ぎ払うと、真空の刃を纏った疾風の渦が瞬く間に周囲一帯を包み込んだ。暴風は鋭い刃の如く魔物たちの群れを切り裂き、わずか一撃で敵を完璧に一掃してしまったのだ。
森の中に、静寂が戻る。
荒い息を吐くヘリオスの足元に、魔物の残骸が崩れ落ちていた。圧倒的な実力差を見せつけられ、ヘリオスが歯噛みしながら地面に膝をつく。
「……すまない。俺が足を引っ張って……足手まといで、ごめん……」
悔し涙が滲むヘリオスに対し、ヒューガは飄々とした笑みを引っ込め、ふっと優しく微笑みながら、彼の目の前に無造作に大きな手を差し伸べた。
「何謝ってんだよ。誰だって最初はゼロだ。お前の炎の魔力には、熱い芯があった。……実力はまだまだ足りないが、だからこそ一緒に強くなろうぜ」
その周りが見えているからこその的確な気遣いと、真っ直ぐな言葉に、ヘリオスは胸を打たれ、差し出されたその手を取った。
木の陰からそっと見守っていたマニーも、安心したように小さく息をつき、安堵の涙を拭う。
こうして、失意の底にいた少年にとっての「本当の仲間」との出会いが訪れ、ふたりはロキを討つための冒険者としての歩みを始めるのだった。
任務を終えた帰り道、ヒューガは愛用の槍を肩に担ぎながら、楽しげにヘリオスへと声を飛ばす。
「さて、初仕事は上々ってところだな。だが、あのロキの野郎を本気で討ち取るなら、俺たち二人だけじゃちと戦力が心元ねぇ。……ってなわけで、新しい仲間を迎えに、これから『聖都の大学』へ顔を出すぞ」
ロキを打倒するための新たな力を求め、ヘリオスたちは聖都の学び舎へと足向けていくのだった。




