48話 激突の城門、それぞれの戦端
幾重にも張り巡らされた悪意の瘴気と、冷徹な静寂に包まれた黒曜の谷の最奥。
ついにヘリオス、ジンガー、ヒューガ、レオン、そしてガレオンの一行は、天を突くようにそびえ立つロキの居城へと足を踏み入れた。
城の内部は、栄光など微塵も感じさせない、すべてを凍りつかせるような漆黒の回廊が続いていた。足音だけが虚しく響く中、彼らが巨大な玉座の間へと続く大広間に差し掛かったその時――重厚な扉の向こうから、静かで、しかし圧倒的な威圧感を放つ気配が近寄ってきた。
そこに立っていたのは、他の誰でもない『深淵の王』ロキその人だった。
禍々しいオーラを纏いながらも神々しいまでの美しさを湛えたロキは、侵入者たちを値踏みするかのように冷ややかに見据え、薄ら笑いを浮かべていた。
「よくぞここまでたどり着いたものだ、虫けらどもよ」
そのロキの姿を見た瞬間、ジンガーの怒りは一線を越えた。彼は一歩前に踏み出し、研ぎ澄まされた殺意を剥き出しにしながら、凄まじい気迫で問い詰めた。
「貴様がロキか……! シリルはどこだ! 」
ジンガーの怒号を受け流すように、ロキは優雅に肩をすくめ、嘲るような口調で答えを返した。
「ふッ……焦るなよ。お前の大切な仲間なら、この城のどこかにいるさ。もっとも、生きて元の姿のままである保証はできないがな」
「てめぇ……っ!!」
シリルの身に何が起きているのかを想像し、ジンガーは怒りのあまり全身の血が逆流するような激昂に駆られた。今すぐにでもロキの喉元に飛びかからんと拳を握り締める。
しかし、そのジンガーの突撃を遮るように、突如として空間が歪み、重苦しい衝撃波が周囲を揺るがした。
「ロキ様に近づくなど、烏滸がましいわ!」
現れたのは、肉体を鋼のように硬化させた屈強な男――バルドだった。彼は不気味な笑みを浮かべながら巨体を躍らせ、凄まじい勢いでヘリオスたちに向かって襲いかかってきた。
「くっ……!」
ヘリオスは咄嗟に身を翻してバルドの重い一撃を鮮やかに回避した。バルドの猛攻をいなしつつ、ヘリオスの視線の先には、悠然と佇むロキの姿が捉えられている。
(あいつを討たなければ、すべては終わらない……!)
ヘリオスはバルドを無視して一気にロキの許へと肉薄
し、懐から放つ渾身の一撃を叩き込もうと剣を突き出した。しかし、その刃がロキに届くことはなかった。
『――ガキィンッ!!』
すさまじい金属音が響き渡り、ヘリオスの剣の軌道が完全に阻まれる。
ロキの目前に割り込むようにして現れたのは、『黄泉還りの剣聖』ゼノンだった。ゼノンは無機質な眼差しでヘリオスの剣を受け止め、冷徹に押し返す。
「王への道は、この私が塞ぐ」
ゼノンの圧倒的なプレッシャーがヘリオスを縛り付ける。
状況は一瞬にして混迷を極めた。バルドが暴れ回り、ゼノンがヘリオスの進路を完全に塞ぐ。
その修羅場の中、ジンガーはロキの言葉を思い出していた。
(この城のどこかにいる……!)
「シリル……今すぐ助け出してやる!」
ジンガーは敵の混乱に乗じ、ロキやゼノン、そして暴れるバルドから身をかわすようにして、広間から続く奥の回廊へと単身走り出した。仲間を救うため、彼は広大な城内をくまなく散策し、シリルが囚われている部屋を探し始める。
残された仲間たちは、それぞれの対決へと引きずり込まれていく。
バルドの重戦車のような猛攻に対し、ヒューガとガレオンの二人が素早く前に出た。
「おいおい、デカブレイい相手だな! ならば俺のこの剣で、その固い筋肉ごと叩き割ってやるぜ!」
ヒューガが闘気を漲らせて叫び、ガレオンも双剣を構えて鋭い眼光を向ける。
ヒューガ・ガレオン VS バルド の激闘が幕を開けた。
一方、ゼノンの絶対的な剣技と圧倒的な圧力を前にしたヘリオスは、レオンへと鋭い視線を送る。
「レオン、あいつの動きを分析してくれ! 俺が隙を作る!」
「任せてくれ。あの男の剣閃の理、すべての動きを計算し尽くして見せるさ」
レオンは冷静に魔導書を翻し、ゼノンの魔力の淀みを見極め始める。ヘリオスは相棒の支援を受けながら、最強の剣聖に挑みかかる。
ヘリオス・レオン VS ゼノン の死闘が始まった。
広大なロキの居城は、一瞬にして幾重もの激しい戦火に包まれた。
仲間たちの叫びが響き渡る中、ジンガーは城の奥深くへと急ぐ。それぞれの運命をかけた決戦の歯車が、いま激しく噛み合い始めていたのだった。




