第44話 黒曜の嵐と、血族の死闘
紫電が激しくぶつかり合い、周囲の空気を焦がす凄まじい爆音が黒曜の谷の入り口付近に響き渡る。
ガレオンは、目の前で狂気に染まった兄・ガレオスと激しい死闘を繰り広げていた。
ガレオンは、この黒曜の谷が持つ特異な地形、すなわち地の利を最大限に活かしながら兄に対抗しようとしていた。足場が不安定な崖や、死角を生む巨大な岩陰を巧みに利用し、ガレオスの猛攻をいなそうとする。
しかし、かつて列強ルミナス王国軍の最高戦力として無数の戦場を渡り歩き、血にまみれた戦乱に明け暮れていたガレオスの戦闘経験は、ガレオンの想像を遥かに超越していた。実戦の場数が生み出す圧倒的な場数と場慣れは、わずかな地の利程度の不利など容易にねじ伏せてしまう。
「甘いな、ガレオン……! その程度の地形の利で、この俺の百戦錬磨の刃がしのげるとでも思ったか!」
ガレオスは冷酷な笑みを浮かべると、周囲の環境そのものを武器へと変貌させた。
この黒曜の谷では、鋭利な黒曜石が豊富に採取できる。ガレオスは凄まじい雷撃の魔力を纏わせた双剣で足元の地面を抉り、そこに無数に眠る黒曜石の群れを次々と激しく弾き飛ばした。
ザシュッ! ガキィンッ!
無数の黒曜石の破片が、雷光を帯びた高速の弾丸と化してガレオンへと降り注ぐ。ただの岩の破片ではない。ガレオスの圧倒的な魔力によって鋭く研ぎ澄まされた黒曜石の弾幕は、触れただけで防御を貫き、皮膚を深く切り裂く凶器へと変わっていた。
「くっ……!」
ガレオンは新調したばかりの双剣を十字に構え、迫り来る黒曜石の雨を必死に弾き返すが、その衝撃の重さに足元が大きくよろめく。
周囲の豊かな黒曜石を自在に利用し、敵の退路を巧みに塞ぎながら追い詰めていくガレオスの戦い方は、まさに戦場の修羅そのものだった。
膠着した戦況を打破するため、ガレオスはさらに踏み込み、無数の黒曜石を雷の軌道に乗せて一斉に射出する大技を放つ。
「――黒雷双牙陣っ!」
城壁のような黒曜石の弾幕と紫電の嵐が一体となり、ガレオンを押し潰さんと襲いかかる。その圧倒的な威力の前に飲まれそうになった瞬間、ガレオンは新調した双剣にすべての魔力を一点集中させ、渾身の迎撃技を叩きつけた。
「――雷光双破斬っ!」
激しい衝撃波が周囲の黒曜石を粉々に粉砕し、鮮烈な電光が暗い谷間を眩しく照らし出す。
息も絶え絶えになりながら激闘を繰り広げるガレオンの姿を見て、傍らで戦況を見守っていたヘリオスは居ても立っても居られず、
「一人では危ない、加勢します!」
と一歩前に踏み出した。しかし、その肩をジンガーが静かに、しかし強い力でガシリと掴み、制止した。
「待て、ヘリオス。手を出すな」
「ジンガーさん!? なぜ、このままだとガレオンが殺されます!」
ヘリオスの焦りに満ちた問いかけに対し、ジンガーは鋭い眼光を崩さず、真っ直ぐに兄弟の戦いを見据えたまま低く告げた。
「あれは血を分けた兄弟同士の決着の場だ。他人が安易に踏み込むべき場所じゃない。……それに、ガレオンの眼を見てみろ。あいつ自身が、自分の手で兄を止める覚悟を決めている」
ジンガーの言葉にハッとして視線を戻すと、ガレオンは傷だらけになりながらも、決して折れない強い意志を宿した瞳で兄を見据えていた。
「どうした、そんなものか! 兄を超えてみせると言ったその意気込みはどこへ行った!」
ガレオスの容赦ない追撃がさらに加速する。
双剣から放たれる稲妻と、飛び交う黒曜石の嵐が混ざり合い、あたり一面はまるで地獄のような様相を呈していた。
一歩間違えば命はない。しかし、ガレオンは引き下がるわけにはいかなかった。仲間たちの見守る視線と背中合わせの信頼を胸に、彼は自らの血と涙を拭い去り、命を削るような激闘の渦中へと再び身を投じていくのだった。




