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英雄が紡ぐ物語   作者: 色タコス
第1シーズン 太陽の戴冠

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第43話 狂宴の双剣士

禍々しい瘴気を立ち昇らせる北西の未踏領域――「黒曜の谷」へ向けて、ヘリオス、ジンガー、ヒューガ、レオン、そしてガレオンの一行は慎重に足を踏み入れていた。


周囲の環境は一変し、足を踏み外せば二度と戻れないような深い裂け目や、精神を狂わせるような妖しい霧が立ち込めている。いつ何時、敵の奇襲を受けるか分からない未踏の地。ひとたび油断でもしようものなら、容赦なく黒曜の谷の深淵へと引きずり込まれてしまう。そのため、一行は互いに声を掛け合い、細心の注意を払いながらゆっくりと、しかし確実に進軍を続けていた。


かつて「黄泉還りの剣聖」ゼノンとの死闘において、ガレオンは愛用の双剣のうち片方を激しい衝撃でへし折られていた。しかし、その後の旅の途中で立ち寄った小さな街の片隅にある鍛冶屋で、見事な仕上がりの新たな一振りを手に入れ、再び対となる双剣を完璧な状態に整えていたのだった。今、その新しい双剣が彼の両手にしっかりと握られている。


張り詰めた緊張感が周囲を支配する中、ふと、前方の岩陰から奇妙な足音と、不気味な笑い声が響いてきた。


「……おい、何か聞こえるぞ」


ジンガーが低く呟き、反射的に愛用の剣に手をかける。レオンも魔導書を構え、周囲の魔力の揺らぎを警戒した。

霧の奥から姿を現したのは、不敵な笑みを浮かべた一人の男だった。纏う気配は尋常ではなく、全身から狂気と殺意が入り混じった異様な圧力が放たれている。


『六人の大罪人』の一人――『狂宴の双剣士』ガレオス。


その顔を見た瞬間、ガレオンは全身の血が凍りつくような衝撃を受け、目を見開いたままその場に釘付けになった。


「なっ……嘘だろ……兄貴……!?」


ガレオンの口から漏れたその言葉に、ヘリオスたちも息を呑んだ。


目の前に立つ狂気の双剣士ガレオス。その正体は、かつて聖都オクヘイムの最高戦力と謳われ、数々の戦場で英雄視されながらも、ある日突然すべての絆を断ち切って姿を消した、ガレオンの実の兄に他ならなかった。


かつて、世界を二分するほどの強大さを誇っていた「亡国ルミナス王国」。


ヘリオスが王子として生まれ育ち、のちに悲劇の滅亡を迎えることになったその国が全盛期にあった頃、ガレオスは聖都オクヘイムでの安住の地に背き、血にまみれた強さを求めて自らそのルミナス王国へと身を投じた過去があった。


――なぜ、兄は故郷を捨ててまでルミナス王国へ行ったのか。


当時のルミナス王国は列強の一つとして数えられ、終わりなき戦乱の中心にあった。ガレオスはその王国軍のなかで圧倒的な最高戦力として文字通り戦いに明け暮れ、無数の敵を屠り続けた。しかし、果てしない殺戮と終わらない戦いのなかで、彼の心の中で何かがプツリと音を立てて「切れて」しまったのだ。


理性が壊れ、狂気に囚われたガレオスは、敵味方の区別すらも曖昧になったまま、己を匿い、使役していたはずのルミナス王国の兵士たちすらも無差別に惨殺し続けるという大虐殺を引き起こした。


その暴走の末に国中を血の海に変えた彼は、あまりの危険性から当時の王国首脳部によって捕らえられ、のちに『六人の大罪人』の一人として漆黒の牢獄へと収監された――それが、ガレオスが歩んできた血塗られた経歴の真相だった。


「……兄貴、どうしてだ……! なんであんたが、あんな大罪人どもと一緒にいるんだよっ!」


ガレオンは怒りと困惑、そして血を分けた肉親に対する複雑な感情に震えながら、新調したばかりの新しい剣を含む双剣を構えて一歩前に出た。


しかし、かつての兄の面影はそこになく、ガレオスは冷酷で狂気に満ちた瞳を弟に向け、歪んだ笑みを浮かべるだけであった。


「……血の臭いが心地いい。お前も、あの頃から少しは強くなったのか、ガレオン……!」


会話の余地など最初から存在しない。ガレオスは狂気に満ちた嬌声を上げながら、瞬時に間合いを詰め、愛用の双剣に凄まじい漆黒の稲妻の魔力を纏わせた。

ガレオスはもともと凄まじい電撃を操る「雷の使い手」であり、その双剣から放たれる雷光は、かつての弟を遥かに凌駕するほどの圧倒的な破壊力を秘めていた。


「行くぞ……!」


ガレオンもまた、逃げることのできたはずの現実から目を背けず、亡き兄を止めるために怒涛の勢いで踏み込む。


ガレオスが両の剣を交叉させ、凄まじい電光を纏った一撃を放つ。


「――雷獄双閃らいごくそうせんっ!」


紫電の奔流が周囲の岩を粉々に砕きながらガレオンへと襲いかかる。しかし、ガレオンもその猛攻に怯むことなく、新調した双剣を含めた全魔力を込めて真っ向から迎撃した。


「――雷神迅雷牙らいじんじんらいがっ!」


激突の瞬間、廃墟の岩肌を揺るがすほどの凄まじい衝撃波と無数の稲妻が周囲へと爆発的に拡散した。


『――ガキィンッ!! ズシャアァッ!!』


二人の剣士が放つ必殺の連撃が、空間を切り裂くように交錯する。

ガレオンが渾身の力を込めて放つ雷迅の斬撃に対し、ガレオスはそれをも軽々と上回る、さらに強烈な雷の使い手としての圧倒的な殺意と、経験に裏打ちされた変幻自在の双剣術で真正面から叩き伏せていく。一合ごとに周囲の空気が焦げ、激しい稲妻の火花が視界を埋め尽くした。


実の兄弟による、救いのない殺し合い。

かつての絆が血に染まっていく残酷な戦いの最中、ヘリオスやジンガーたちは、目の前で繰り広げられる絶望的な光景を前に、どう介入すべきか息を呑むことしかできなかった。

狂気の双剣士となった兄を止めるため、ガレオンは自らの血と涙を拭い去り、命を削るような激闘の渦中へと身を投じていくのだった。

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