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シーズン1:神剣の叙事詩 5世代の英雄が紡ぐ物語  作者: しー


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42話 黒曜の谷の深淵と、残酷な野望

冷徹な静寂に支配された北西の未踏領域――黒曜の谷の奥深く。


ゼノンによって連れ去られたシリルは、過酷な道程を進みながらも、自身の強い意志を失っていなかった。彼女はただ連行されるがままになっていたわけではない。


いつかジンガーやヘリオスたちが自分を追いかけ、この場所にたどり着いてくれることを信じ、その道すがら、わずかに自身の魔力を微細な光の粒子として地面や岩肌に残し続けていた。それは仲間たちへ向けた、言葉なき確かな道標だった。


やがて、その微かな痕跡の導きの先に、威圧感を放つ巨大な黒曜の城塞――ロキの居城が姿を現した。

城の重厚な大扉が不気味な音を立てて開き、ゼノンに促されるままシリルはその禍々しい内部へと足を踏み入れる。そこは、ありとあらゆる生気が吸い取られるかのような、冷え切った空間だった。


玉座の間の中央。そこに静かに佇む一人の男がいた。


――『 深淵の魔王』ロキ。


彼の身体からは、周囲の空間を歪めるほどの圧倒的で禍々しいオーラが噴き出していた。しかし、その佇まいは邪悪な怪物というよりも、すべてを超越したかのようなどこか神々しさすら感じさせる、美しくも冷酷な神のようだった。


ロキは静かに振り返り、囚われたシリルを冷徹かつ魅惑的な瞳で見据えながら、ゆっくりと口を開いた。


「よくぞ来てくれた、聖都の結界使いよ。……お前の持つその強固な結界術、私に貸せ。お前の力を私に捧げれば、新たな世界の礎として厚遇してやろう」


ロキの不敵な誘いに、シリルは怯えるどころか、凛とした眼差しで真っ直ぐに王を見据え、はっきりと拒絶の言葉を叩きつけた。


「お断りします……! 私は、あなたのような者に協力するためにここにきたわけじゃない。仲間を裏切るくらいなら、ここで命を落とした方がましよ!」


シリルの毅然とした態度にも、ロキは怒るどころか、楽しむかのように薄ら笑いを浮かべるだけだった。彼の目的は、シリルの意志を変えることではなく、彼女が持つ「固有魔力の結界」そのものを手に入れることにあったからだ。


なぜ、ロキほどの存在が、一人の少女の持つ結界術をそこまで欲しているのか。

その理由は、彼が企む世界規模の狂気に満ちた計画にあった。


この世界に暮らす人々が日々の生活や戦闘で身につけ、利用している身近な魔法――「ソルシュ」。その力の根源を辿ると、この世界の片隅に静かに佇む世界樹「ユグドラシル」の根に行き着く。だが、そのユグドラシルは、すでに遠い過去の時代に切り倒され、現在は巨大な「切り株」の状態のまま放置されていた。

ロキの真の目的は、その切り株と化したユグドラシルの根に対し、シリルの持つ強力な結界術を用いて、世界中を覆い尽くすほどの巨大な「魂の牢獄」を張り巡らせることだった。


そして結界術を使用すればより早く目的を成せるからだ。


人々が普段使い慣れているソルシュの流通網や魔力の理を利用し、結界によって全人類から魔力を強制的に奪い去り、生きる気力も抗う力も失わせた「完全なる無気力な世界」を創り上げる――それこそが、ロキが胸に抱く冷酷な世界改変の野望だった。


「みんなが日常で身につけて使っているソルシュの理を悪用して、全人類から魔力を奪い、すべてを無気力な人形に変える……そんな残酷な目的のために、私の結界術を使わせようなものなら、死んだ方がマシだわ!」


シリルの怒りに満ちた言葉を聞いても、ロキは冷ややかに微笑むだけで、動じる気配すらなかった。


「死んだ方がマシ、か……。口ではそう威勢の良いことを言うが、人間など絶望の淵に立たされれば、すぐに折れるものだ。……だが、最初から壊してしまっては意味がない。お前のその強情な心を、じっくりと時間をかけて折ってやろう」


ロキは冷酷な命令を下すように、片手を軽く挙げた。


「おい、ジーク。『血塗れの遊戯者』よ、ここにこい」


その呼び声に応じるように、暗がりからヒタリ、ヒタリと軽やかな足音が響き、顔に歪んだ笑みを貼り付けた男が姿を現した。ジークだった。彼は嬉しそうに目を細め、ねっとりとした視線をシリルに向ける。


「おや、新しいおもちゃかい? こいつは面白そうだねぇ、ロキ様」


「ああ、慈悲は要らん。お前の好きなように料理して、恐怖と絶望を味あわせるがいい。……だが、結界の術式を失うほどに壊すな。殺すことも許可しない。生きたまま、私の望む形へと変えるのだ」


ロキの冷徹な指示に、ジークは歓喜に満ちた声を上げて笑った。


「御意に、ロキ様! じゃあ、たっぷり可愛がってあげるとしようかねぇ……!」


ジークの不気味な笑い声が玉座の間に響き渡る。

シリルは冷酷な魔の手が迫る中、恐怖に震えながらも、頭の中でジンガーやヘリオスたちの顔を思い浮かべていた。


(みんな、負けないで……私は、絶対に屈したりしないから……!)


シリルは抵抗する間もなく、ジークによって乱暴に引きずられ、暗く冷たい拷問部屋へと連れ去られていった。


静まり返った禍々しい城塞の中で、世界の命運を握る残酷な歯車が、音を立てて回り始めていたのだった。

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