第21話 遭遇する大罪人
聖都を立ち、険しい山岳地帯と枯れ果てた魔脈の荒野を抜けて数日。ヘリオス一行は、ロキの計画の手がかりを求めて、かつての栄華を失った魔導都市跡へと足を踏み入れていた。
周囲一帯の空気は不気味に澱み、微弱なソルシュの残り香すらも黒く濁っている。シリルは結界を展開して分析し始めたが、ジンガー副聖騎士長は鋭く周囲を警戒し、前衛のガレオンはいつでも抜刀できるよう腰の双剣に手をかけていた。
「おい、空気が変わったぞ……。通常の魔物の気配じゃない」
ガレオンの低い警告とほぼ同時だった。前方の視界を完全に覆っていた深い霧の中から、ゆらりと一つの人影が姿を現した。
深紅の外套を纏い、まるで地面に足をつけていないかのようにフワリと宙を滑るように進んでくるその姿。背後には禍々しいオーラ、全身から放たれる圧倒的な威圧感は、これまでに遭遇したどの敵をも遥かに凌駕していた。
「……まさか、こんな寂れた場所で虫けらどもが出迎えてくれるとはね」
冷ややかで、それでいて妖艶な響きを持つ声が静寂を切り裂く。顔の半分を仮面で隠したその人物こそが、世界を絶望に陥れるロキの直属にして最強の戦力――『六人の大罪人』の一角その人だった。
ヘリオスたちは、ロキに従う絶望的な強さを持つ『六人の大罪人』と呼ばれる存在がいることこそ知っていたが、その個別の名前や具体的な容姿、異能の正体については一切知らなかった。目の前の人物がその誰に該当するのか、誰も見当すらつかない。ただ、肌を突き刺すような圧倒的なプレッシャーだけが、彼らが規格外の脅威に対峙していることを雄弁に物語っていた。
不老不死と他人の魔力を奪う禁呪の気配を纏い、仮面の女はあてつけのように不敵な笑みを浮かべる。ヘリオスは息をを呑み、反射的ソルシュの力を解放して一歩前に出た。ヒューガとレオンもまた、一瞬で臨戦態勢へと移行し、背中合わせに完璧な連携の構えをとる。
「『六人の大罪人』の1人か?…… なぜこんなところにいる!」
ヘリオスの緊迫した問いかけに、深紅の外套の女はふっと冷ややかに口角を吊り上げた。
「なぜ、か。愚問だね。お前たちがこうしてノコノコと這い回っていることなど、すべて私たちの――ロキ様の掌の上なのだから。手がかりを探しているつもりだろうが、それすらも私たちが用意した道標にすぎないのさ。……生贄の魂ですべてを貪る、『呪術の魔女』エルミラ。この私がね」
自らの名を名乗った瞬間、彼女の背後で禍々しいオーラが爆発的に膨れ上がり、周囲の空気を歪ませた。圧倒的な格上の気配、そして冷酷な真実の宣告。しかし、ここで怯むわけにはいかない。ヘリオスは剣を強く握りしめ、仲間たちと共に未知なる大罪人との激突へ向けて、一歩を踏み出したのだった。




