第18話 光の届かぬ王座、動き出す歯車
聖都の正門前で繰り広げられた『鉄腕の巨獣』バルドの襲撃、そして彼が残した幻影による宣戦布告。そのすべてが、はるか遠く離れた暗闇の底で、計画通りに仕組まれたものだった。
陽の光が届かない神殿。
そこは、世界を絶望に陥れようと男が君臨する玉座の間だった。
「……ほう。バルドめ、派手に演じてくれたようだな」
静寂を切り裂くように響いた、冷徹でありながらもどこか底知れない愉悦を含んだ声。
闇の中に浮かび上がるシルエットは、神々しいまでの美しさと、総毛立つような不気味な気配を同時に纏っていた。――すべての元凶であり、世界の理を書き換えようとする男、ロキその本人である。
ロキの眼下には、まるで世界地図の縮図のように大陸全域の魔脈が立体的な光の奔流となって映し出されている。しかし、その光の網の所々には、すでに不気味な黒い染みがじわりと広がり始めていた。それは、王国の結界や大陸の魔脈が彼の魔力によって着実に侵食されている動かぬ証拠だった。
「聖都にいたのは、最初から最後まで私の魔力で作られたただの『幻影』にすぎず、騎士団たちの目の前で虚しく消滅してみせたのだからな」
ロキが冷ややかな笑みを浮かべる。王都での欺瞞、その神出鬼没な移動を可能にしていたのは、他でもない――ロキの側近である『 影の使徒ゼル』が持つ固有能力、『量子空間』によるものだった。
時空の理を歪め、遠く離れた戦場へと幻影を送り込み、瞬時に虚実を入れ替えるその禁忌の術理こそが、王国の目を完全にくらませた正体だったのだ。
その視線の先、ロキが座する玉座のすぐ傍らには、王都の騒乱などどこ吹く風といった様子で控えている本物のバルドの姿があった。本体はとうにこの深淵の王座へと戻り、次の作戦のために静かに牙を研ぎ澄ませている。
ロキがさらに指を動かすと、目の前の空間に新たな光景が映し出された。それは、王都の謁見の間で険しい顔をしながらも新たな調査へと動き出そうとするヘリオスたちの姿だった。まるで手のひらの上の人形のようにハッキリと映し出されている。
「せいぜいあがくがいい。お前たちがどんなに足掻き、手がかりを掴もうとも、それはすべて私の掌の上だ」
ロキの目的――その壮大な野望を成し遂げるための重要な過程として、禁忌の遺物である『魂の牢獄』の完全な再現が、今まさにこの瞬間も着々と進められていた。
「世界の支配、そして『魂の牢獄』の再臨。すべての歯車は完璧にかみ合っている……。さあ、せいぜい私を楽しませてくれ、ヘリオス。お前のその足掻きが、私の神座を飾る最高の余興になることを期待しているよ」
闇の王座の主は、歪んだ愉悦に満ちた笑みを深く刻みながら、静かに目を閉じた。
世界を巻き込む最終決戦の幕が、音もなく、しかし確実に開き始めていた。




