第15話 獅子と鉄腕、激突の果て
聖都の正門前。大地を揺るがす激闘の幕が上がっていた。
「はっ……おおおらぁっ!」
副聖騎士長ジンガーの纏う『草』のソルシュが爆発的な速度で展開され、無数の漆黒の茨が鋭い鞭のようにしなりながらバルドを襲う。次々と繰り出される手練れの連続攻撃は、圧倒的な武闘派として知られるジンガーの真骨頂だった。鋭利な茨がバルドの巨体に次々と浅い裂傷を刻み、圧倒的な手数と精密なコントロールでジンガーが完全に試合の主導権を握っている。
「ちっ……! 面倒くせぇ草むらだぜ、この野郎……!」
巨体のバルドは防戦一方に追い込まれ、鋭い刃の雨に阻まれて一歩も前に進めない。誰もがジンガーの優勢を確信し、このまま押し切るかと思われたその瞬間だった。
「――遊びはここまでだ。ガキの相手で調子に乗りすぎちまったな」
バルドが不敵に歪めていた口元をニヤリと引き裂き、全身の筋肉を大きく膨れ上がらせた。
次の瞬間、世界から音が消えた。
ドォンッ! と凄まじい重圧が空間全体に降り注ぐ。ジンガーの繰り出していた無数の茨が、突如として発生した異常な重力の奔流に押し潰され、一瞬でペチャンコに圧壊した。
「なっ……!?」
ジンガーが驚愕の声を上げ、咄嗟に後方へ跳び退こうとする。しかし、周囲の重力はすでに通常の何倍もの密度に歪められており、空間そのものが鉛のように重く、ジンガーの足取りを文字通り地面に縫い付けてしまった。
「逃がさねぇよ! その小賢しい植物ごと、ぺちゃんこに潰してやる!」
バルドの目が狂気を帯びて光り、周囲の空間を歪めるほどの超重力をその巨腕に纏い、逃げ場を失ったジンガーへと容赦なく振り下ろされる。
――誰もが絶望の瞬間を覚悟した、その時。
ズアァァァンッ!!
激しい衝撃音とともに、バルドの圧倒的な重力拳が、一人の男の背中によって完全に阻まれた。
「おいおい、若い奴の晴れ舞台をそんな野暮ったい力で邪魔するもんじゃないぜ。……うちの堅物な副長をいじめるのは、その辺にしときなさい」
白髪を風になびかせ、悠然と立っていたのは――聖騎士長ヴァルガスその人だった。
片手でバルドの重力波を受け止め、地面を少しも揺るがせないその圧倒的な背中に、後ろで見守っていたヘリオスたちは息を呑む。
「ばっ……なんだと……!? 俺の重力を、片手で……!?」
冷や汗を流しながら後退するバルドの前に、体勢を立て直したジンガーがスッと並び立つ。
王国最強と称される二人の男が、ついに並び立った瞬間だった。
「……助かったぞ、獅子」
「ふっ、後で書類仕事の文句はたっぷり聞いてやるさ。まずは、この不法侵入者を盛大にお灸を据えてやるとしようか」
ジンガーとヴァルガス、二人の間に言葉はなくとも、阿吽の呼吸で魔力が完璧にシンクロしていく。
ジンガーの緻密で圧倒的な『草』の領域が再び戦場を包み込み、バルドの足元と退路を完全に縫い付けて自由を奪う。その隙間を縫うように、ヴァルガスが神速の極みに達した獅子の如き一撃を放った。
「――終わりだ。『獅子噛・双極穿滅』!」
二人の息が完全に合わさった、回避も防御も不可能な究極の合体攻撃がバルドの巨体を直撃する。
凄まじい閃光と衝撃波が王都の門前を吹き飛ばし、完全に打ち抜かれたバルドは、大きく目を見開いたままついに力尽きて地面に崩れ落ちた。
静まり返る戦場の中、気絶した『鉄腕の巨獣』バルドは、しっかりと聖都の騎士たちによって拘束されるのだった。




