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 朝食も一通り食べ終わり、食後のコーヒーが運ばれてくる。豪華な装飾の施されたカップから香る風味が、鼻の中を落ち着きで満たす。ウブールが一口すするのを見て、私もゆっくりカップを手に取る。広がる苦い親しみ。

 私はカップを置くと、口を開いた。


「改めて……先ほどはお見苦しいところをお見せいたしました」

「大丈夫です。先ほど言ったとおり、ここにはあなたを責める人なんていませんから」


 ウブールの言葉が、コーヒーの後味に染みる。私は何かを隠すように、もう一口コーヒーをすすった。


「朝食、とても美味しかったです。初めて見る料理ばかりで、とても楽しかったです」

「それは良かった。後でジョールに伝えておきますよ」

「ありがとうございます――それで、その、細かい確認なのですが」

「なんでしょう?」

「洗濯はどなたのお仕事なのでしょうか?前の家では自分の服は自分で洗うべきだと……」

「それこそ侍女の仕事ですよ?大丈夫。うちの者は皆丁寧に洗いますから、安心して任せてください」

「部屋のお掃除は……」

「それも侍女のお仕事です」

「お風呂掃除は……」

「それもです」

「……では、私は一体何をやればいいのでしょうか?そこまで高度なことは出来ませんが、気合いならありますので!」


 私は気合いを入れるように腕をまくった。ウブールはそれを見て少し動きを止めると、プッと吹き出し、口を押さえて笑い始めた。


「フフッ。ハハハハッ!」

「ど、どうしたのですか?」

「申し訳ない。少しツボに入ってしまって。――ゴホンッ!そうだね、今のところ、特に任せる仕事はないかな」

「で、でしたら、一体何をすれば!」

「何を、と言われても。好きなことをしてくれれば、それで十分だよ。日常の事は全て周りの者に任せて、好きなことを、心ゆくまで。――何かやりたいことはあるかい?」


 ウブールはそう言って微笑んだ。彼の後ろの壁際に立っている侍女長のドーランは、彼の言葉に何度も頷いていた。

 今まで、実家に、元夫に、押しつけられたことを実行するだけで一日が過ぎていた。自由に過ごせた時期なんて、婚約者が決まる前の幼少期ぐらいだ。子供が出来ないと断定されてからは、使用人からも仕事を押しつけられて、寝る時間も少なくなっていった。無能な私にはそれを受け入れるしか力がなかった。今もそうだ。ウブール様に見限られたら、また元の生活に逆戻り。

 そんなの、絶対に嫌だ。


「……力が欲しいです。何かがあった時、誰かに頼るのではなくて、自分で、一人で、立って生きていける、そんな力を身につけたいです」

「力か。なるほど……」


 ウブールは眉間にうっすらシワをよせ、考えるように額を人差し指で軽く叩く。


「す、すみません!急に変な事を言って困らせてしまって!」

「いやいや、変な事だとは思ってないよ。むしろ面白いな、と思って。――ただ、選択肢は無限にあるからね。薬剤師や錬金術士みたいな、知識を使って生計を立てる方法もあるし、冒険者や炭鉱家みたいに、腕力で生計を立てる方法もあるし。うん。まずは、道を決める所から始めたらどうだろう?」

「道を決める……」

「この家には、職業についての本なんてのも多くあるから。それらを読んでみて、自分の理想の道を考えてみるのが、案外いい手かも知れないよ?」

「ありがとうございます!」


 私は頭を下げる。

 断る理由なんてなかった。高価な本を読ませてもらえるなんて、想像以上の提案なのだ。コゴロス伯爵の所にいたときは、お前が触れると本が腐る、と邪険に扱われ、読むどころか触れることすらできなかった。

 知識は力だ。一人で生きていくのに、ありすぎて困る事はない。なんてありがたい提案なのだろうか。私にとって都合が良すぎる提案で、むしろ不安すら覚える。後から高額な代金を請求されたりしないでしょうか……


「加えて、護身術も学んでみるかい?どんなに優秀な者でも、時には品のない暴力に屈することもあるだろうし。生憎、ここはいつでも戦地になる可能性があるから、武術に関するプロはたくさんいるしね」

「良いのですか?――私、女ですよ?」

「確かに、女性は家にいるのが風習だけれど、だからこそ自衛の(すべ)を身につけておくべきだと、僕は思ってるよ。それにここは戦地になり得るから、不思議に思う者の方が少ないだろうし。もちろんリリアさんがやりたいと思えば、ですけど」

「ぜ、ぜひやらせてください!」


 ウブールは「左手が完全に治ってからだけどね」と言って、少し笑った。私もつられて笑みを浮かべた。

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