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「大変申し訳ございませんでした!」
「きゅ、急にどうしたんだ!?よく分からないけれど、いったん顔――というか体上げましょう!ね!?」
食卓の席に着いているウブールに向かって、私は床のタイルに頭をこすりつける。こぼれる涙が、タイルに水たまりを作っていく。
食卓にはすでに盛り付けられた朝食が、所狭しと並んでいた。
「大変申し訳ございませんでした!」
「な、何に謝っているんだ……と、とりあえず、怒ってないですから!ね!?だって、朝食の時間にも間に合ってますし、すごくその服も似合ってるし――って何を言っているんだ僕は!」
「ウブール様、何をなさったのですかい?事と次第によっては、鋭い刃物をご用意しましょうかね。ウブール様が苦しむことがないよう、とっておきの物を準備しようじゃないか」
「ドーラン!落ち着いてくれ!僕は何もしていない!本当だ!」
「だけれどねぇ、この謝り方は尋常だよ?何かに怯えていらっしゃるじゃないか――やはり刃物を用意するしか」
「ドーランさん!全て私が悪いのです!――朝食の調理も配膳もこなせない私が全て悪いのです!どうかこの家から追い出さないでください!」
私の謝罪の言葉に、突然空気が固まる。
「「「……は?」」」
ウブール、ドーラン、そして何人かの侍女の声が重なって聞こえる。私が愚かすぎて、呆れて物も言えないのだろう。こんなに居心地が良いところを、私は一日で追い出されてしまうのかも知れない。想像するだけで、体にグッと力が入る。まだ蹴られてすらいないのに、涙が止まらなかった。
「リリアさん。結婚前で申し訳ないですけど、少し体を触りますよ」
ウブールの声がしたかと思ったら、肩に力が加わり突然視界が明るくなる。上半身を起こされていた。目の前にはのぞき込むようなウブールと、侍女長のドーランとそれに続く侍女達。アーシャも遠くから、いつも通り黙ってこちらを見ていた。
「すみません。先ほどの発言、僕たちはよく分かっていなくて。負担じゃなければ意味を教えてくれませんか?」
「――い、意味と言われましても……朝食の調理や配膳は妻の仕事ですので」
「……なるほど。そういう環境に、今までおられたと言うことですかね?」
「そうですけれど――この家では別のルールがあるのですか!?大変申し訳ございません!」
「あぁ、頭を下げないでくれ」
ウブールは頭を下げようとする私を、肩をつかんだままの両手で静止した。痛みはなく、けれども力は強かった。
「そうだな、どこからいこうか。――まず、この家での調理は専属料理人ジョールの仕事だ。配膳は侍女の仕事だ。彼らの誇り高い仕事に、僕たちが介入する必要はない。ここまでは大丈夫かい?」
「そうだったのですね。大変申し訳ございません」
「謝らなくて大丈夫。――次に言いたいのは、例え少し仕事で失敗したからといって、僕が君を追い出すことはない。こんなどうでもいいことで、頭を床にこすりつける必要もないんだ」
「で、ですが……」
「君が今までどういう所にいて、どんな扱いを受けてきたか、僕はまだ知らないけれど。少なくともこの家では、頭を地面にこすりつけるなんて、誰にもさせるつもりはないんだ。――こんなつたない言い方で申し訳ない」
ウブールはそう言って少し笑った。土下座すら生ぬるいはずなのに、それすらいらないなんて、頭がこんがらがっているけれど。彼の笑顔が何だか嬉しかった。
私は目から落ちる水滴を拭う。嬉しいのかも、悲しいのかも、今となってはよく分からなかった。
「さぁ、一緒にご飯をたべよう?せっかくなら出来たてを食べないと。ジョールの作るご飯は、どれも驚くほど美味しいからね」
ウブールはそう言って私の肩から手を離す。触れていた部分が少し寒くなり、一瞬寂しくなるが、ウブールはすぐに私に向かって右手を差し出してくれた。私はそれに左手を重ねると立ち上がった。
立ち上がると、ドーランや他の侍女も微笑んでいて(相変わらずアーシャは硬い表情のままだった)なんだか土下座していたことが恥ずかしくなった。
席に座って神に感謝し食事を始めた。何だかおしゃれな料理ばかりで、なんて名前かもよく分からない物ばかりだったけれど、とても美味しい食事だった。
今まで生きてきた人生の中で、一番幸せな食事だった。




