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「種なし侯爵と結婚か。無能同士お似合いだな」


 俺は使用人からの報告に、ポツリとそうつぶやく。子供が産めないリリアに嫁ぎ先などないだろうと考えていたが、まさか種なしと結婚するとは。しかも俺と離婚してすぐに、だ。落ちるとこまで落ちたな。


「コゴロス様、ブローが寝ましたよ」


 妻のフリンダが小さな声で囁く。彼女の腕の中では小さい命がすやすや眠っていた。つい先月生まれたばかりの俺の息子だ。生まれたばかりは顔がくしゃくしゃで醜かったが、だんだんと見れる顔になってきている。ただ、一つ気になる事があるとすれば、それは髪の毛の色だ。まだ薄らとしか生えていないのだが、どう考えても黒色だ。医者によると、遠い祖先の髪色がよみがえるのは一定確率で起きるという話だったが、それにしても黒色とは。黒髪なんて喜ぶべきではない。黒髪は……


「コゴロス様も、ブローを抱き上げますか?」

「ああ、そうすることにしようか」


 俺はフリンダからブローを預かる。小さな体、俺が少し力を加えればすぐに死んでしまいそうだ。なのに、その体から発せられる体温は異常に温かい。


「ふえぇぇぇん!ふえぇぇぇぇぇん!!」

「あらまぁ、よしよし」


 フリンダが泣き始めたブローを、俺の手からひったくるように取り上げる。いつもそうだ。ブローは俺が抱き上げると、すぐに泣き始める。しかし、乳母やフリンダが抱くとすぐに泣き止む。面倒な奴だ。

 俺は近くの椅子に座る。フリンダは泣いているブローを上下に揺らしてあやしていた。


 面倒と言えば、最近フリンダも性格が変わってきているような気がする。今までは、俺のやること全てに賛同し、俺の事を第一に敬ってきていたが、最近はブローしか見ていない。もちろん、母親が子供を構うのは問題ない。しかし、フリンダは異常なのだ。普通なら基本的に乳母が子供の相手をし、母親は直接世話をする事がない。だがフリンダは、基本的に全てを自分の手でこなす。母乳ですら自身の手であげる貴族なんて、聞いたことがない。子爵家出身だから教養がなっていないのか?


 ブローの泣き声が止む。いつの間にか寝息をたて、目を閉じていた。フリンダは愛おしそうに、ブローをベビーベットに寝かせ、上から毛布を掛けた。


「おいフリンダ。今夜久しぶりにどうだ?――そろそろ第二子を目指すとしようじゃないか」

「……申し訳ありません。まだブローから離れられないので」


 フリンダはそう言うと、再び寝ているブローに向き直った。俺はあふれ出す怒りをグッと抑える。今のところ子供を産んでいるのはフリンダしかいない。ここで暴力をふるって、ブローを子爵家に取り上げられたらたまった物では無い。

 俺は拳を握りしめる。他の女が俺の子を妊娠したとき、謝ってきた所を殴ってやろう。どんなに泣いて許しを請いてきても、容赦なく殴って蹴ってやろう。以前、あの女にしたように。


******


 私は、愛しの彼との子供を、うっとりと眺める。彼と同じ黒い髪が、私を心から喜ばせる。この子は彼の子なのだと。間違えてもあんなナルシストの、性格がひん曲がった奴の子ではない。

 そういえば彼は、私が追い出した女がアトランデス家に嫁いでしまった事を、少し焦っていた。アトランデス家には、誰も嫁ぐことがないよう、噂の吹聴や裏工作を欠かさなかったのに、と。ゴブリンに襲わせたが逃げられてしまったとも言っていた。焦る彼の表情は珍しくて、むしろそれが愛おしかった。


 最近は彼と会える頻度がだんだんと減ってきている。彼と、体と心でふれあえるタイミングもほとんどなかった。だから、あのナルシストとそういうことをやる意味もない。

 早く彼に会いたい。私は愛しの我が子の頭をなでながら、そう思った。

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