第6話 低層攻略開始
消えたはずの白い線は、朝になってもユウマの視界に残っていた。
訓練場で見えた線は、ダンジョンゲートの向こうへ伸びている。
明日、私を見るなら、最後まで見て。
レイナの声が、まだ耳に残っていた。
《初攻略》
《低層ダンジョン・第三区画》
《黒瀬ユウマ × 白銀レイナ》
《シンクロ率 十四%》
《攻略推奨ライン:三十%以上》
《警告:ペアスキル接続不安定》
【相性最悪ペアきた】
【レイナ単独の方が絶対強い】
【黒瀬は後ろ歩いてるだけでいいよ】
【でも昨日の未登録波形なんだったん?】
ゲートの奥は、青白い苔に照らされた石の通路だった。壁の割れ目から薄い霧が流れ、天井近くを配信用ドローンが三機、羽音を殺して滑っている。
レイナは剣を抜いた。
金属音が、湿った石壁に反響する。
「行くわ」
「はい」
ユウマは三歩後ろについた。
近すぎれば邪魔になる。遠すぎれば、見えなくなる。
石柱の陰から、小鬼が三体飛び出した。
レイナの一歩目で、距離が消えた。
銀の髪が揺れるより早く、剣先が横に走る。一体目の喉が裂け、返す刃で二体目の腕が落ちた。三体目が逃げようとした先には、もうレイナの靴先が入っている。
八秒。
三体が床に崩れた。
《白銀レイナ》
《低層魔物三体を八秒で制圧》
【はい強い】
【やっぱこの人だけ別番組】
【黒瀬いらなくて草】
だが、ユウマは別のものを見ていた。
二体目の小鬼が倒れる寸前、爪を跳ね上げていた。普通なら起きない反撃。レイナは避けた。傷はない。けれど、袖の端だけが細く裂けている。
あと半歩。
斬る直前、レイナの踏み込みの線が浅くなる。
倒せているから、誰も気づかない。
圧倒しているから、危険に見えない。
【黒瀬、魔物じゃなくて足元見てる?】
【三体目の逃げ道、先に塞いだ位置に立ってない?】
【探索者勢、説明して】
次の通路では、天井の裂け目から黒い羽虫型の魔物が降った。
レイナは剣を逆手に持ち替え、滑るように踏み込む。刃が円を描き、羽虫の群れが青い粒子になって散った。
美しい。
速い。
けれど、最後の一歩だけが残る。
「問題ない」
レイナが言った。
自分に言ったようにも、カメラに言ったようにも聞こえた。
ユウマは、裂けた袖を見る。
「白銀さん、今の二体目」
「浅かった?」
「倒せています」
「ならいい」
言葉は硬くない。だが、先へ進む足が答えを拒んでいた。
通路の奥で、魔物の爪が石を掻く音がした。
レイナは剣を下げない。
「私は怖くない」
その直後、二人の足元に青い表示が浮いた。
《シンクロ率 十七%》
《上昇》
【上がった!】
【レイナが引っ張ってる】
【怖くないって言い切れるの強い】
ユウマの視界では、違った。
レイナの足元から伸びる白い線が、最後の一歩の手前でねじれる。数値は上がった。けれど、線は細く、悪くなる。
シンクロ率は上がった。
なのに、接続は悪くなった。
ユウマは、喉の奥が冷えるのを感じた。




