第48話 二人で選ぶ未来
最奥に、核があった。
巨大カメラの残骸。推しペア投票の光。未公開映像の断片。黒い蔦。コメントでできた牙。
それらが絡まり、白いヴェールを被った異形になっている。
花嫁にも、魔物にも見えた。
《最終告白、未完了》
《カメラ目線、再誘導》
《推奨台詞:好きです》
《推奨行動:抱擁》
《感情負荷、上限突破》
魔物が口を開くたび、過去の声が漏れた。
《怖くない》
《置いていくな》
《指示してるだけ》
《全部、本当なんです》
《人が壊れるの待ってる顔》
第一の壁は、コメント狼の群れだった。
炎上文字を顔に貼った狼が、救護班へ流れようとする。ユウマには線が見えた。レンが炎を撃てば倒せる。だが壁に当たり、避難路を焼く。
後方にいれば、全体がよく見える。
隣に立てば、見える範囲は狭くなる。
それでも、ユウマは下がらなかった。
「白銀さん」
「私が選ぶ」
レイナは正面の最短線を見た。
そこを斬れば、自分だけは核へ早く届く。けれど、狼の半数がサヤの光へ流れる。
レイナは、その線を選ばなかった。
左へ踏む。
ユウマは同時に右へ出た。転がった撮影ドローンを蹴り上げ、狼の跳躍線をずらす。
「レン、低く!」
「分かってる!」
炎が床だけを走り、狼の脚を焼く。
第二の壁は、告白カメラ本体だった。
赤いランプがレイナを照準する。光を浴びた瞬間、床に告白用の花道が生成され、レイナの足を正面へ固定しようとした。
《カメラ目線、強制補正》
《最終告白ルート、固定》
ユウマには三本の線が見えた。
右へ逃げれば、カイトの避難扉が閉じる。
後退すれば、ガクの盾が割れる。
正面へ行けば、レイナはカメラのための剣路に乗せられる。
レイナの足が止まった。
また、誰かを置いていくかもしれない。
また、自分だけが生き残るかもしれない。
ユウマは命令しない。
「怖くてもいい。俺が隣にいる」
レイナが息を吸う。
「正面じゃない」
「はい」
「カメラを斬る。核はその後」
レイナが踏み込む。
ユウマは隣で、花道の縁を短剣で叩き割った。赤い補正光が乱れ、レイナの剣が巨大カメラのランプを裂く。
《カメラ目線誘導、破損》
第三の壁は、感情誘導核だった。
核の周囲に、黒い未来が重なっている。
レイナが核を斬る線。
その直後、退路が閉じる線。
サヤの治癒光が吸われる線。
ミナの配信ドローンが砕ける線。
ユウマが後方に残れば、全員への指示は間に合う。けれど、レイナの最後の一歩には届かない。
レイナが振り返る。
「ユウマ」
「はい」
「一番危ない線を行く」
「分かりました」
「止めないの?」
「あなたが選んだので」
レイナは核を見た。
「そこだけ、誰も置いていかない」
測定表示が弾けた。
《ペアスキル波形、変化》
《一歩先の剣路、再構成》
《新規ペアスキル、発生》
《二人で選ぶ未来》
視界が開く。
赤は敵の攻撃軌道。
青は味方の移動線。
緑は治癒が届く範囲。
白はレイナの剣路。
黒は失敗する未来。
その中に、細い金色の線があった。
成功が約束された線ではない。
二人で選ぶ未来だった。
その線は、レイナ一人の剣路ではなかった。サヤの光を通り、ガクの盾をかすめ、ミナのドローンの下を抜け、最後にユウマの足元へ戻っていた。
レイナが踏み込む。
ユウマも隣へ出る。
彼女が選ばなかった危険線を、ユウマが潰す。蔦の軌道を肩で受け、退路に倒れた機材を蹴り飛ばし、ガクの盾へ敵の牙が集中しないよう立ち位置をずらす。
「ガクさん、二拍前!」
「任せろ!」
「カイトさん、今!」
「通す!」
「リクさん、列を左へ!」
「左! 左! イケメンも美少女も左!」
ミナのドローンへ伸びる蔦を、二階堂が投げた照明スタンドが弾いた。
サヤの光が、ユウマの裂けた肩に届く。
レイナは止まらない。
ユウマも、見ているだけではない。
最後の黒い蔦が、レイナの足首へ伸びる。
ユウマは足を差し入れた。
絡みついた蔦が、靴ごと締め上げる。
「ユウマ!」
「行ってください!」
「違う」
レイナは剣を引かなかった。
けれど、ユウマを置いていかなかった。
肩を寄せる。
「一緒に行く」
白い剣閃が走る。
ユウマの足を縛る蔦を斬り、そのまま核へ届く。
二人の線が重なった瞬間、刃が赤黒い球の中心に触れた。
告白ダンジョン全体が、白く割れた。




