第47話 暴走するダンジョン
《感情誘導演出、強制再起動》
《安全制御、応答なし》
《魔物反応、発生》
《観客導線、閉鎖》
《告白ダンジョン、暴走》
白い告白ステージが、内側から裂けた。
床の花道が波打ち、巨大カメラを中心に黒い蔦が伸びる。壁一面のコメント光が割れ、文字の破片が牙になった。
【告白しろ】
【嘘つき】
【本音を見せろ】
【泣け】
【選べ】
その文字を顔に貼りつけた狼型の魔物が、ステージ下のスタッフ導線へ飛び出す。
正面にはユウマとレイナ。
左手奥には、救護班と出演者が取り残された広間。
右手には、システム室へ続く細い通路。
背後には観客導線。だが、非常扉は半分閉じ、警告灯だけが赤く回っていた。
「退避扉、開きません!」
「公式配信、まだ落ちてません!」
ミナの独自配信が、揺れた画面で再開する。
「公式は止まってません。中ではまだ人がいます」
彼女はドローンを手で支え、閉鎖された導線と倒れたスタッフを映した。
「これを演出にしないでください。今、告白ダンジョンは本当に暴走しています」
外部コメントが一斉に流れ込む。
【公式なにしてる】
【ミナの配信見ろ】
【ノアが言ってたやつじゃん】
その直後、別窓でノアの短い投稿が拡散された。
《だから言ったでしょ。恋を撮る顔じゃなかったって》
サヤは広間の中央で治癒光を広げていた。
「歩ける人は壁沿いへ。倒れた人を跨がないでください。二階堂さん、その人をこちらへ」
二階堂ユウセイは一瞬、口を開きかけた。
けれど何も言わず、負傷したADを抱えてサヤの光の中へ運ぶ。
「……ここでいい?」
「はい。ありがとうございます」
サヤは振り返らなかった。誰を助けるかを、もう迷っていなかった。
システム室前では、アリスが端末を開いている。
《神楽アリス:旧権限》
《遮断権限:不足》
《自己関与ログ提出で緊急ルート解放》
アリスの指が止まる。
ほんの一瞬だけ。
それから、彼女は自分の名前が入ったログを選択した。
「隠しません。全部、出します」
観客導線では、カイトが閉じかけた扉に剣を差し込み、腕で押し返していた。
「リク、列を作れ。走らせるな」
「押さない! 戻らない! 撮らない! 今だけは俺より目立とうとしない!」
リクの声が裏返る。それでも、パニックになったスタッフの足が止まった。
通路の中央では、ガクが盾を立てる。天井から落ちた照明を受け止め、歯を食いしばった。
「ここ、抜かれたら救護班まで行くぞ!」
ユウマとレイナだけでは足りない。
敵は正面だけではなかった。
配信、避難、救護、遮断、全部が同時に崩れている。
その時、炎が床を低く走った。
黒い狼の脚だけが焼かれ、魔物が転倒する。
煙の向こうから、レンが現れた。
赤い戦闘コートは焦げ、顔は不機嫌で、カメラなど見ていない。
「一度だけだ。指示を出せ」
ユウマはレンを見る。
かつて自分を追放した男。
自分がいないと勝てないことを認めたくなかった男。
だが今は、前へ進むために必要な火力だった。
「獅堂、炎は床だけ。壁に当てると避難路が焼けます。ガクさんは中央固定。カイトさん、右扉を十二秒。リクさん、声を切らさないで。二階堂さん、サヤさんの指示で搬送を続けてください。ミナさん、閉鎖表示と公式配信が止まっていない証拠を映して。アリスさん、遮断までの残りを声に出してください」
レンが舌打ちする。
「命令が細けえんだよ」
「必要なので」
「一度だけだって言っただろ」
レンの炎が、ユウマの指示通り床を走った。
レイナが剣を抜く。
「私は?」
ユウマは、彼女の隣に立った。
「正面です。核までの線を開けます」
黒い蔦が、巨大カメラを呑み込んだ。
その奥で、告白ダンジョンそのものが心臓のように脈打った。




