第46話 カメラの外の告白
《カメラ目線未検出》
ユウマは、レンズを見なかった。
巨大カメラの赤いランプは、まだ告白ステージを照らしている。白い花びらの投影が床を流れ、壁一面のコメント欄は、熱を帯びたまま加速していた。
【黒瀬こっち見ろ】
【告白くる?】
【カメラ外すなよ】
【いや、今外したのが答えだろ】
「黒瀬くん」
天井のスピーカーから、久我山の声が降る。
「カメラへ。今の表情は逃せない。白銀さんも、視聴者へ向けてください。これは最終回です」
ユウマは返事をしなかった。
カメラではなく、レイナを見る。
レイナも、巨大レンズを見ていない。剣の柄に添えた指が、わずかに震えている。けれど、それは退くための震えではなかった。
ユウマには、足元の線が見えていた。
レンズへ向かう太い黒い線。そこに立てば、感情反応は跳ねる。番組が望む告白になる。シンクロ率も、おそらく上がる。
その隣に、細い白い線があった。
数字には向かわない。
ただ、レイナへ向かう線だった。
「俺は、ずっと見る側にいれば傷つけずに済むと思ってた」
レイナは黙って聞いている。
コメント欄が揺れた。
【黒瀬?】
【それ告白?】
【カメラ見てない】
【いいから聞け】
「でも違った。見ているだけじゃ、誰かを置いていくこともある」
ユウマは一歩だけ進んだ。
カメラに近づくためではない。レイナの隣へ届くために。
「俺は、白銀さんと隣に立ちたい。怖いところも、逃げてるところも、見られたままでいいから」
レイナの唇が、少しだけ開いた。
番組なら、ここで甘いテロップを重ねる。最大シンクロ率、最終告白、運命の瞬間。そんな文字で、この沈黙を埋める。
でも、今の二人に必要なものではなかった。
「私は」
レイナが言う。
声は高くない。綺麗に整ってもいない。
「怖くない剣士でいたかった。誰より前に出て、誰にも迷ってるところを見せない剣士でいたかった」
レイナの指が、柄を握り直す。
「でも、あなたの前では、怖いまま剣を抜ける」
ユウマは、すぐに返せなかった。
見えていた線より、その言葉の方が近かった。
久我山の声が割り込んだ。
「白銀さん。その言葉をカメラへ――」
「私は、一人で前に出るのが怖かった。でも、あなたが隣にいるなら進める」
それは、恋リアの告白としては不器用だった。
好きです、とは言わない。
付き合ってください、とも言わない。
けれど、戦う二人にとっては、それ以上の言葉だった。
測定円が、二人の足元に広がる。
《黒瀬ユウマ × 白銀レイナ》
《シンクロ率 五十一%》
《感情反応:安定》
《ペアスキル波形:一歩先の剣路/完全安定》
《カメラ目線:未検出》
【五十一%?】
【低くない?】
【六十二から下がってるじゃん】
【違う、完全安定だ】
【ガチ勢だけど今の波形、揺れがない】
【数字より接続見ろ】
【これ、番組が欲しい反応じゃないやつ】
久我山が沈黙した。
その沈黙の奥で、スタッフの誰かが小さく言う。
「完全安定……?」
「違う」
久我山の声が戻る。
穏やかさが、剥がれていた。
「足りない。感情反応が足りない。最大値まで届いていない。これでは、最終回にならない」
レイナがユウマを見る。
「ユウマ」
「はい」
「次は、剣を抜く」
「見ています」
「見るだけじゃなくて」
ユウマは頷いた。
「隣にいます」
その瞬間、床の白い花びらが止まった。
一枚。
また一枚。
白が、黒く染まっていく。
《感情誘導演出、強制再起動》
《告白演出、最大負荷へ移行》
《未公開素材、全投入》
《カメラ目線誘導、再設定》
巨大カメラの赤いランプが、二人を照準のように捉えた。
ステージの奥で、黒い蔦が音を立てて芽吹いた。




