第45話 カメラじゃなくて、私を見て
最奥は、告白ステージだった。
白い床。
天井から降る花びらの投影。
壁一面に浮かぶ視聴者コメント。
中央には、巨大なカメラが一台、祭壇のように置かれている。
レンズは黒かった。
花も、光も、コメントも、その黒い丸へ吸い込まれていく。
《告白ダンジョン最奥》
《黒瀬ユウマ × 白銀レイナ》
《シンクロ率 六十二%》
《感情反応:最大値接近》
《ペアスキル波形:不安定》
《強制固定準備中》
【六十二%!?】
【最高値くる】
【でも不安定って出てる】
【止めろ】
【告白見たい】
【番組終われ】
【レイナ様、黒瀬を見て】
ユウマは息を整えた。
途中からずっと、《一歩先の剣路》は割れたままだった。
前へ進むたびに、過去の声が足をつかむ。
レイナは何度も止まりかけた。
ユウマも、何度も声に引かれた。
それでも二人は、太い道を選ばなかった。
シンクロ率を上げるための道ではなく、接続が切れない細い道を選び続けた。
レイナの手袋は、白い蔦に裂かれている。
ユウマの靴底には、黒い線の焦げ跡みたいなものが残っていた。
勝ったわけではない。
壊されなかっただけだ。
ステージの奥で、スピーカーが入った。
「到達、おめでとう」
久我山の声だった。
優しい声だった。
番組の締めにふさわしい、よく通る声。
「ここで告白しろ。全員が見ている。恋リアの最終回だ」
巨大カメラのレンズが、ゆっくり二人へ向く。
《告白待機》
《カメラ目線推奨》
《最大シンクロ記録、測定準備》
レイナの横顔に、花びらの光が落ちる。
綺麗だった。
だから、余計に気持ち悪かった。
久我山は続ける。
「君たちの本音は、ここまで追い込まれたから出た。違うか?」
ユウマはすぐに否定できなかった。
番組がなければ、レイナと出会わなかった。
レイナの恐怖を見ることもなかった。
ミナが、数字の奥にある怖さを認めることもなかったかもしれない。
サヤが、自分の意思で助ける相手を選ぶことも。
アリスが、番組を裏切ってでも自分の罪を見ようとすることも。
ノアが、あの違和感を言葉に残すことも。
レンが、自分の怖さを認めることも。
久我山の言葉には、一部の真実があった。
だから危なかった。
真実を少しだけ含んだ言葉は、人を縛る。
「番組がなければ、白銀レイナは君の怖さを知らなかった。君も、彼女の恐怖を見ることはなかった。違うか、黒瀬くん」
ユウマは、何も言えなかった。
「君たちは選んだ。傷ついて、揺れて、それでもここへ来た。なら、それを番組に見せる義務がある」
カメラの赤いランプが灯った。
《告白まで》
《十秒》
【いけ】
【言え黒瀬】
【カメラ見るな】
【いや恋リアだろ】
【久我山を映せ】
【レイナ様が待ってる】
ユウマは、カメラを見た。
そこには、何万人もの視線がある。
期待。
怒り。
好奇心。
祝福。
消費。
全部が混ざっている。
ユウマは、その奥ではなく、足元の線を見た。
黒い線がカメラへ伸びている。
白い線が、隣へ伸びている。
「選ばされた本音と、自分で選んだ本音は違います」
声は大きくなかった。
けれど、ステージの白い床に、はっきり落ちた。
「本音を引き出すことと、人を壊していいことは同じじゃない」
久我山は沈黙した。
ほんの一瞬だけ。
それから、穏やかに言う。
「では、その本音を見せてくれ。カメラを見て。彼女に告げるんだ」
巨大レンズが近づく。
ユウマの顔を、レイナの横顔を、二人の距離を、最も美しく切り取れる位置へ。
レイナが隣に立った。
剣は抜いていない。
ただ、ユウマの袖に、指先が触れた。
「ユウマ」
初めて、名字ではなかった。
ユウマは息を止めた。
レイナは、カメラを見ていなかった。
最初から、ユウマだけを見ていた。
「カメラじゃなくて、私を見て」
コメント欄が流れる。
久我山の声が、もう一度何かを言いかける。
巨大なレンズが、赤く光る。
《カメラ目線、要求中》
《告白演出、補正開始》
ユウマは、カメラから視線を外した。
《カメラ目線未検出》
そして、レイナを見た。




